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CULTURE

創造性の鍵は無限の好奇心と自由な想像力。イスラエル人アーティストが考えていることとは。

by 長谷川 雅彬 |2022年01月14日

前回の記事ではエジプトから日本まで様々な文化を繋ぐことで全く新しい独特な世界・文化感を創造するヌリット・デイヴィッドさんに彼女の創作の原点について伺いました。後編では、そんなクリエイティブな彼女が今考えていることについて聞いていきたいと思います。


西洋×東洋で独自の世界観を表現。その本質をイスラエル人アーティストに問う
Art

西洋×東洋で独自の世界観を表現。その本質をイスラエル人アーティストに問う 西洋×東洋で独自の世界観を表現。その本質をイスラ...

長谷川 雅彬 / 2022年01月07日


ヌリット・デイヴィッド

テルアビブ在住のイスラエル人アーティストで、幻想的な幾何学的な作品を創作している。彼女の作品は、オリエンタルアートやポップアートのようなタッチで描かれ、ファンキーで幾何学的な作風は、どこか憎めない魅力がある。現在、テルアビブのGivon Galleryに勤務。イスラエル国内での個展のほか、ブラジル、ドイツ、日本、米国でグループ展を開催。彼女の絵画は、エルサレムのイスラエル博物館からニューヨークのユダヤ博物館まで、世界中のパブリック・コレクションで見ることができる。


―――ヌリットさんの作品からは世界の様々な文化のエッセンスを感じとることが出来ますが、まさか日本の文学にも影響を受けていたというのは正直言って驚きです。これからの創作人生の中で実現したいこと、創りたいものはありますか?


もうすぐテルアビブにあるGivon Art Forumで、過去4年間の私の作品を集めたインスタレーションが展示される予定です。この展示のための創作を通して、薄い/仮設/移動可能な建築という観点から絵画を考えたのですが、これは私のキャリアの中で初めての挑戦です。私は2016年と2017年の2回日本を訪れているのですが、今回の展示作品は日本に強いインスピレーションを受けています。伝統的な家屋、寺院や茶園、あらゆる種類の仮設儀式用建造物など、日本の建築の平面性に大いに触発されたものです。


ある意味、この展覧会は私のアートの軌跡を総括しているようなものです。あと数ヶ月で70歳になるので、当然ながら壮大なプロジェクトは考えていませんし、実際、いつも次の作品のことだけで頭がいっぱいでした。ただ、2、3年後にジヴォン・ギャラリーで、古代エジプト文化にちなんだ「Tomb(墓)」というタイトルの展覧会を計画しています。


ヌリット・デイヴィッドの作品

―――なんと日本に強く影響を受けた作品があるのですね!日本人はついつい欧米の文化を信仰してしまいがちですが、ヌリットさんとの会話を通して日本文化の良い点が何かを再発見することが出来ます。また、日本だけでなく様々な文化の影響を受けているとのことですが、ヌリットさんにとってアートとは何ですか?


アートは、人生を送る才能がないときに、生きる場所です。

アートは、あなたの考えを実現し、具現化することができます。

専門的な知識がなくても、興味のある分野に手を出すことができる。

アートは、頭の中の錬金術のようなもので、それによって別の世界を作り出すことができるのです。この世界では、あなたはその支配者になったり、時には召使いになったりして、揺れ動いているのです。そうすることで、自分がいかに小さく取るに足らない存在であるかを思い知らされます。


言ってみれば芸術は仮面であり、儀式用の服装なのです。


ヌリット・デイヴィッドの作品

―――別世界を創るための錬金術というのは面白い表現でとても的をえていると思います。そして、アートとはその別世界を現実に生み出すプロセスでもありますね。そうした新しい世界観を生み出すうえで創造性は非常に大切な鍵になりますが、創造性は、才能や努力、あるいは他の何かに依存すると思いますか?


努力と忍耐は、たとえ微々たるものであっても、あなたの才能を伸ばすのに役立ちます。時には、あなたは他人の仕事に対して愛と熱意さえ持っていなければなりません。そしてきっと、この創造性のプロセスには秘密のままの何かがあるのでしょう。


ヌリット・デイヴィッドの作品

―――なるほど、やはり情熱は創造性の根幹にあるのですね。最後に、もし技術的、経済的に全てが可能だとしたら、ヌリットさんは何を創りたいですか?


私はアートとお金を結びつけて考えなかった世代に属しています。なので、お金でアートは買えません…もし、欲しいならね。もちろん、もっと大きなスタジオや大きなエプソンのプリンター、机を置く場所があればいいのでしょうが、私の作品のクオリティがそれらに左右されるとは思いませんし、そのプロセスを楽しむことも独立した存在です。


ヌリット・デイヴィッドの作品

ヌリットさんへのインタビューを通して創造性の鍵は、他の文化を知りたいという彼女の無限の好奇心と、何にも制限されない自由な想像力であることが伺い知れます。私自身もイスラエルに在住していた際に感じたことの一つですが、ヌリットさんをはじめ、イスラエル人の多くの人は、過去の経験や今持っているリソースに限らず、自由な発想をする人が多いように思えます。私たちはついつい過去や現在をもとに、自ら未来を制限してしまいがちですが、創造性の本質は好奇心と自由な想像力かもしれません。