イエメンには、オイル缶や調理器具など、楽器とはみなされない日常生活の道具を打楽器として用いた独創的な音楽が伝わっています。その古代の記憶を現代へと繋ぐ音楽が、イスラエルのミュージシャンによって蘇り、配信がスタートしました。イエメン系ユダヤ人の歴史と強く結びついた音楽とは?

イエメンから世界へ広がるユダヤ人の伝統音楽
『Yamma Ensemble ヤンマ・アンサンブル』は、イスラエルを拠点に活動するワールドミュージック・グループ。ヘブライ語のオリジナル曲をはじめ、イエメン、イラク、スペインなどのユダヤ人コミュニティ(ディアスポラ)に伝わる伝統音楽を現代に蘇らせ、世界中で高い評価を得ています。
その彼らの最新プロジェクトが『TEIMAN テイマン』。ヘブライ語で『イエメン』を意味する言葉で、数千年もの時を超えて受け継がれてきた、イエメン系ユダヤ人の音楽文化に光を当てています。
イエメン系ユダヤ人コミュニティは、長い離散の歴史の中で、外部文化の影響をほとんど受けることなく独自の伝統を守り続けてきたことで知られています。歴史的な激動や社会の変化を経験しながらも、彼らは古代ユダヤの生活様式、宗教観、音楽文化を大切に継承してきました。

人気グループ、ヤンマ・アンサンブルの新プロジェクト
ヤンマ・アンサンブルは、女性たちの歌唱に宿る“部族的な響き”をより忠実に再現するため、新たにイエメン音楽を専門とする Moran Al Yamaniya と Hadar Nehemya を迎え入れました。2人はいずれもイエメン系のルーツを持ち、その歌声には、祈りと共同体の記憶が息づいています。
多くの楽曲では、古代の部族音楽に見られるコール&レスポンスが採用されています。それは単なる音楽的手法ではなく、人々が共同体として呼応し合い、感情や祈りを共有してきた歴史そのものでもあるのです。

恋の唄『Gul Lilhabib』をリリース
ヤンマ・アンサンブルのディレクター、Talya G.A Salanはこう語っています。
「私たちの最新リリース曲『Gul Lilhabib 愛する人に伝えて』は、イエメンの伝統的な女性歌謡集から選ばれた一曲で、中心となるのは、イエメンの『ティン(パチ)』という楽器のリズミカルな響きです」。
『パチ』はもともと楽器ではなく、ブリキを素材とする缶や調理器具。なぜブリキなのか?その答えは、古代の誓いにあります。エルサレムの聖なる神殿が破壊された後、イエメンのユダヤ人コミュニティは喪に服す印として、プロの楽器の使用を控えました。その誓いは、神殿が再建され、レビ人が音楽奉仕に復帰するまで、正式な楽器を演奏しないというものだったのです。
「そして、音楽への深い憧れと尽きることのない愛から、独創的な解決策が生まれました。それは、オイル缶など、いわゆる『楽器』とは分類されない日常的な物を使うことで、人間の声、つまり『コール・アンド・レスポンス』を中心とする独特な音楽が誕生したのです」。
「今日、私たちが『パチ』を使って演奏するのは、喜び、私たちの伝統への深い愛情、そして私たちの歴史に根ざした豊かな演奏を創造したいという芸術的な願望からです」。
失われた故郷への憧れと、それでも生き続ける民族の記憶を今に伝える『パチ』のリズム。ヤンマ・アンサンブルの『TEIMAN』は、単なる民族音楽作品ではありません。それは、女性たちの声を通して蘇る、ユダヤ民族の記憶と再生の物語です。
ヤンマ・アンサンブル TEIMAN公式サイト
https://yammaensemble.com/teiman/


