6月はプライド月間(Pride Month)とされており、世界中で様々なイベントが開催されています。実はイスラエルのプライド月間(Pride Month)はとても大規模なもので、特にテルアビブで開催されるプライドパレードは世界でもトップレベルの人気ぶりです。昨年は新型コロナウィルスの影響でプライドパレードがキャンセルされてしまったので、今年は去年の分まで祝おうと、街中が今までで最高の盛り上がりを見せています。
テルアビブ中のレストラン、アパートやマンション、お店はプライドカラーである虹色で染まり、いつにも増してカラフルな街並みが楽しめます。
プライドカラーに染まるテルアビブ。有名なラビンスクエアも虹色に!
ここまでLGBTQに寛大なテルアビブやイスラエルですが、実は宗教色が強い地区も多く、今現在もLGBTQ反対派も多々見られます。
今回はLGBTQのに対する認知と反対が隣り合わせの国、イスラエルで同性愛者(ホモセクシュアル)として生きていく教師、イタイ・サリグさんにインタビューを行いました。
目次
同性愛者として生きる教師イタイ・サリグ
今年で30歳を迎えたイタイ先生、普段は小学校の通級指導教室の先生として主に自閉症の生徒たちのサポートしています。
趣味はファンタジー小説を読むことやヘビーメタルを聞くこと、最近は多肉植物の栽培にはまっていると語ります。
今回はそんなイタイさんに詳しく話を聞いてみました。
本当の自分に気づきカミングアウトするまで
自身が同性愛者だと気づいたのは、後輩に恋をした高校生の時。家族や知人にカミングアウトしたのは23歳の時だそうです。
「ずっと自分は周りと違うなとは感じていたけど、それがなぜかはわからなかったんだ。高校になって初めて同性愛なんだってことに気づいて。でもカミングアウトはせずに、一番仲のいい親友の女友達だけに話して皆と同じの高校生活を続けたよ。ただ、周りも違和感を感じていたみたいで男友達はほとんどいなくて、友達はみんな女の子だったんだ。」
その後、イスラエル国民の義務である兵役を3年間果たし、兵役を終えたタイミングで家族や友人、知人にカミングアウトしたと語ります。
「軍隊の時期が一番辛かったかな。軍隊はすごく男性的な機関じゃない?特に僕は戦闘員のサポート役だったから男性が過半数の部隊にいて、同性愛を受け入れてくれるような環境じゃなかったんだ。」
予想外のカミングアウト
23歳のカミングアウトは、イメージと違いあっけなかったと語るイタイさん。「カミングアウトしたとき、家族はただ受け入れてくれた。母がぼくを抱きしめてくれて、”何があっても愛してる”って言ってくれて、詳しく聞かれなかったのが逆に心地よかったよ。友達や知人にカミングアウトした時は”あー知ってたけど。今は正式にって感じ?”っていう反応がほとんど (笑)」
カミングアウトについては、それぞれが自分のタイミングでした方がいいし、必要なければしなくても大丈夫と語るイタイさん。
「カミングアウトしたからって人生がよくなったわけではない。ただカミングアウトしないなら、一生嘘で固めた人生を送ることになる。自分を隠して生きていくなんて無意味な生き方はしたくなかったんだ」
同性愛者として生きる上で一番つらいのは孤独感
カミングアウト後、第2の人生を歩み始めたというイタイさん。自分が同性愛者だという事でつらい経験をしたことはあるのでしょうか。
「同性愛者だからといって他人から何か嫌なことをされたという経験は一切ないよ。ラッキーなことにね。
だけど、軍でも、その前の高校生活でも孤独感が一番つらかった。高校の時、女友達はたくさんいたけど、それでもイタイは男だからっていう理由で”ガールズナイト”や女子会に呼んでもらえなかったり。軍隊でも誰にも打ち明けれないから、本当の自分を隠しながら3年間過ごすのはすごく孤独に感じたよ。孤独感はほんとに痛いもので、カミングアウトした後も、もしかしたら一生一人で生きていくんじゃないかという恐怖といつも戦ってた。大学生活を始めてはじめてLGBTQコミュニティに出会って、一人じゃないのかもっていう思いが芽生え始めたんだ。自分と同じような環境にいる人と出会うのはとても自信に繋がったと思うな。」
青少年LGBTQコミュニティの「イギー」もプライド月間の準備中です。
イスラエルで同性愛者として生きるって?
ユダヤ、キリストやイスラムの宗教色が強いイスラエル。宗教に反するという理由で同性愛を強く批判する人も少なくはありません。そんな中、この複雑な国で同性愛者として生きることについて聞いてみました。
「イスラエルでもLGBTQに反対の人はたくさんいるよ。でも、イスラエルは建国してから70年ちょっとだよね。まだまだ新しい国だしこれから変わっていくと信じている。LGBTQだけじゃなく新しい考え方を取り入れている最中の国だからね。あとイスラエルのいいところは、LGBTQコミュニティがすごく発達しているところ。僕自身、青少年のLGBTQをサポートする団体でボランティアをしていたんだけど、国とか政府が変化をもたらす前に、個人がコミュニティやボランティア団体を通して変化をもたらしてるのがよく感じられたと思う。そういう面では、イスラエルで同性愛者として生きるのには比較的いい環境が整ってるのかなと思うね。」
イタイさん曰く、イスラエルはまだ反対派も多いが、個人的なコミュニティの強さが目立ち、そういった機関のおかげでLGBTQに関する考え方、捉え方にも変化が起こっているようです。
加えて建国もない国という事もあり、新しいことには柔軟に取り組む、又は個人が新しい変化をもたらすことができると信じている国なんです。
今回はなんと!イタイさんのお母さんにも少しお話を聞くことができました。
イタイの母、ツヴィア・サリグ
イタイさんの母、ツヴィアさんは普段医療関係の事務で働いている、自称健康オタクだそうです。
カミングアウトされた時の話を聞いてみるとやはりすでに知っていたそうで・・・。
「昔からもしかしたら・・・とは思ってて、イタイのタイミングでカミングアウトしてくれればなって思ってたよ。話を聞かされた時は特に驚かなかったし、どんな形であろうと自分の子は変わらず愛し続けるものだと信じてるの。」と、あくまで今までのイタイさんに新しい一面が加わったという捉え方をしたそうです。
ホモセクシュアルの息子を持つ母となる
イタイさんが同性愛者であることを知っていたと言え、やはりカミングアウト後は少し変化があったようです。イスラエルで同性愛の息子を持つ身として困難を感じたことはあったのか聞いてみました。
「私自身は辛いことはなかったね。元々、違いを受け入れること、個人を尊重することは大事にしていたから。ただ、イタイがこれからの人生で、ホモセクシュアルだからという理由でほかの人と比べて困難に遭遇することが多いと思うのが心苦しかったの。将来、彼(イタイ)が子供を育てたいとなっても難しいと思うし。発展中のイスラエルとはいえ、根強い偏見はあるから、いやな思いをしてほしくないと思っているよ。」
カミングアウト後は今まで以上に母と子のきずなが深くなったという2人。今はお互いがなんでも打ち明けれる仲にまでなったそうです。
日本の読者へのメッセージ
ツヴィアさんとイタイさんから、日本の読者に向けてメッセージを頂きました。
ツヴィアさん「一番大事なのは皆と違う、または自分と違う人や考え方を受け入れること。自分と違うから間違っているとは限らないから。そういうマインドで人に接すれば世界はもっと変わると思うの。」
イタイさん「ぜひ日本の皆さん、イスラエルに来てみて!イスラエルって本当に自分らしく生きれる国だから。もちろん偏見や差別もあるよ、でも、移民でできた国ということもあって、イスラエルは様々な人種や宗教、肌の色が違う人たちが共に存在している国なんだ。ここでは皆違うのが当たり前だから人の目を気にすることなく自分らしく生きられるよ。」
虹色に染まるイスラエルの街並み
今回のインタビューを通して分かったことは、イスラエルでもまだLGBTQを受け入れづらい人もいますが、そんな考え方にも変化が見られていることです。
ツヴィアさん曰く、「私の孫(イタイの姪と甥)はイタイが同性愛ってことを物心ついた時から知っているの。小さいながらにイタイには彼女じゃなく彼氏がいることも当たり前のように分かっているわ。若い世代を筆頭に新しい”あたりまえ”がもうすでに浸透しているのよ」と話してくれました。
ここ数年で更にLGBTQに関する関心が高まっています。LGBTQだけでなく、違いを受け入れ、自分らしく生きていける社会になること願う人が多いようです。
急速な変化を見せているイスラエル、数年後LGBTQのとらえ方がどれだけ変わるのか、楽しみですね。