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CULTURE

【連載】映画で巡るイスラエル Vol.06|「嘘はフィクサーのはじまり」

by 福島洋子 |2022年04月27日

映画で巡るイスラエルバナー
YouTube「嘘はフィクサーのはじまり」

今回紹介する映画「嘘はフィクサーのはじまり」は、ジャンルでいうとブラックコメディーに該当する作品となっています。アメリカとイスラエル合作の映画で、あまりイスラエル映画という感じはしなかったのですが、いろんな面で興味深い映画でした。


映画紹介とあらすじ

自称フィクサー(仲介人)のノーマンは、ニューヨークを舞台に小さな嘘を積み重ねて人脈を広げてきました。そしてついには「イスラエル首相のお墨付き」にまでに上り詰めるのですが、そこから過度の忖度や嘘で、様々なトラブルに巻き込まれ、そこ国際紛争に発展しそうな事態を招いてしまうというストーリーです。


映画の見どころ

物語は、ノーマンという男を中心に展開されていきます。このノーマンを演じているのがリチャード・ギアで、彼の演技が光っていたのがとても印象的でした。


リチャードギア

いつもキャメルのオーバーコート、グレーの帽子を身につけ、バッグを斜め掛けし、イヤホンを持ち歩き、マンハッタンの街中を歩きながら話しているノーマンは、自分は寛大で人脈の広いコンサルタントと自負していて、会う人すべてに温かく親切で、お互いの利益のために人を紹介することを惜しみません。自分しか助けられない人をつなぐことで、自分の仲介役としての才能が役に立っていると心から信じています。


しかしながら、ノーマンというキャラクターはつかみどころがなく、必ずしも好感が持てる人物ではありません。嘘をつきまくって、自分を必死にアピールし、人脈を沢山作っていくのですが、映画を観ている人はノーマンが求めているものは、いったいなんなのだろうと不可解な思いを抱くことでしょう。


この映画で重要な役目を果たすのが、のちにイスラエル首相になるエシェル。このエシェルとノーマンとの間に、かろうじて成立している友情の描き方が素晴らしいのです。


YouTube「嘘はフィクサーのはじまり」

ノーマンはニューヨークを訪れていたイスラエルの政治家エシェルに近づき、エシャルが「ニューヨークで一番高い靴」と呼ぶ靴を買ってあげました。それから3年後、エシェルがイスラエルの首相になり、ノーマンを「ニューヨーク・ユダヤの非公式大使」に任命したのです。このとき、一気に開いた扉によって、ノーマンに今まで以上のチャンスが訪れ、また、これまで経験したことのない厄介な問題が降りかかってきます。そして、その後の二人の関係の行方に注目です。


映画が終わる頃になっても、観ている人は最後までノーマンのことをよく知らないことに気づかされます。私生活や過去については一切触れず、どこに住んでいるのかも、甥以外の家族がいるというのが本当かどうかさえも描いていません。


なかなか見慣れないタイプの映画であるため、慣れるのに少し時間がかかりましたが、笑いや悲しみ、サスペンスが入り混ざった心に訴えかけてくる作品です。さて、ノーマンが手に入れたかったものが何か気になる方は、ぜひ映画をご覧になってください。


<作品情報>
タイトル:「嘘はフィクサーのはじまり」

原題:Norman: The Moderate Rise and Tragic Fall of a New York Fixer
公開年:2016年/アメリカ・イスラエル合作
監督:ヨセフ・シダー
脚本:ヨセフ・シダー
出演:リチャード・ギア、リオル・アシュナケージ


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