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CULTURE

【連載】映画で巡るイスラエル Vol.05|「彼が愛したケーキ職人」

by 福島洋子 |2022年04月13日

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【連載】映画で巡るイスラエル Vol.05|「彼が愛したケーキ職人」

純愛ストーリーというと「ロミオとジュリエット」のような運命に翻弄された男女の悲劇をイメージする方もいると思いますが、今回紹介するイスラエル発純愛映画「彼が愛したケーキ職人」は恋愛の範囲は男女の間に止まらず、同じ男性を愛した2人の男女が惹かれあっていくという異色のラブストーリーです。


美しくて繊細、切ないストーリーでありながら、人種、国籍、ジェンダー、文化、常識という様々な困難を乗り越えしまう愛の強さを感じる映画となっています。


YouTube「彼が愛しがケーキ職人」

映画紹介とあらすじ

ベルリンで小さなケーキ店を営むトーマスは(ティム・カルクオフ)、イスラエルから出張でやってくる常連客の男性オーレン(ロイ・ミラー)と恋に落ちていまいます。しかし、オーレンには妻子があり、彼がベルリンにいる時だけが唯一の2人の時間でした。ある日、彼からの音信が途絶えたことから、トーマスはエルサレムへと向かい、オーレンが交通事故で亡くなっていたことを知ります。一方、エルサレムに暮らすオーレンの妻アナトは夫を失った後、ひとり息子を抱えながら自らのカフェを再開しようとしていました。トーマスが職探しをしていると知ったアナトはとまどいながらも彼を雇います。そして、そこから二人の距離が近づき、お互いに失ったものを取り戻し始めるのです。


映画の見どころ

全体を通して物悲しさが漂っているこの映画は、静かなピアノの旋律がより一層孤独感や喪失感を引き立てます。セリフを抑え気味にし、目の動きなどの表情や仕草から読み取らなければないため、演技力が問われますが、主演2人の演じるその演技が秀逸で、それだけでも必見の価値があります。


YouTube「彼が愛したケーキ職人」

そして、この2人を繋ぐ重要なアイテムがトーマスの作るケーキやクッキー。見るからに美味しそうで食べてみたくなるのですが、それ以上にトーマスが一生懸命に丁寧にパンの生地をこねる姿の美しさに魅せられます。


個人的にはアントのエルサレムのカフェがとてもこじんまりしていて、居心地がよさそうで、気に入りました。トーマスが最初にカフェに来たときにオーダーした、「イスラエル特産の白いチーズにオムレツときゅうりのサンドイッチ」が気になって頭から離れません。次回イスラエルに行く機会があったら、探してみようと思います。


この映画はイスラエルの若手監督オフィル・ラウル・グレイツァ監督が、イスラエルのアカデミー賞といわれるオフィール賞で9部門にノミネートされたほか、国外の映画賞でも多数の映画賞を受賞した作品であり、日本では2018年に公開され、現在はAmazonプライム・ビデオ、U-NEXTで視聴できます。


ドロドロした内容でありながら、美しさ、上品さを醸し出しているのは、心にじわっと沁みる優しさや温かみを感じるシーンがいくつか存在したのもあると思います。心に潤いが欲しい時にぜひご覧になってはいかがでしょうか。


<作品情報>
タイトル:彼が愛したケーキ職人

原題:The Cakemaker
公開年:2017年/イスラエル・ドイツ合作
監督:オフィル・ラウル・グレイツァブ
脚本:オフィル・ラウル・グレイツァブ
出演:ティム・カルクオフ、サラ・アドラー


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