今、イスラエルでは空前のタトゥーブーム。関心は和彫りにまで広がっています。
宗教関係でタブーとされてきたタトゥーですが、今では老若男女問わず気軽にタトゥーをいれる人が増えています。
テルアビブのメインストリートを歩けば至る所にタトゥースタジオが。最近ではなんとオフィスビルのエントランスにタトゥースタジオがあるなんてことも・・・
今回は期間限定でイスラエルで和彫りをしているアーティスト、彫しゃち氏にインタビューを行いました。

目次
和の心に惹かれ、独学で和彫りを学ぶ
彫しゃち氏、昔からタトゥーに関心があったようです。帰国子女の友達の影響もあり若いころからタトゥーに触れてきました。
最初は洋風のタトゥーがメインだったようですが日本の伝統的な和彫りに惹かれ、自分でもしてみたいという気持ちが強まったようです。
「僕も弟子入りして学びたかったんですけど、僕のスタジオの彫師さんは弟子をとらないタイプだったので・・・道具を自分で購入し、独学で勉強し始めました。最初は知人などで経験を重ね、数年を経て自分の場所を開くことができました」
芸術的感性を持ち合わせている彫しゃち氏だからこそ、独学で始めることができたのでしょう。繊細かつダイナミックな作品には驚かされます。


なぜ和彫り?和彫りに対する思いは?
最初はタトゥーから始めたという彫しゃち氏、なぜ和彫りに惹かれたのでしょうか?
「元々、浮世絵や日本画が小さいころから好きだったんですよ。それに江戸時代から続くものが、変わらず今の時代でも使われているっていうのも惹かれた理由です。」
何百年もの歴史ある伝統が今でも同じモチーフ、同じ手法で続いているというのは貴重なものですよね。
日本では和彫りに対して様々なイメージがありますが彫しゃち氏曰く、「若い人も、年配の方も関係なく、和彫りが好きだから、デザインが好きだからという理由で来てくれます。特にこういう人たちがくるというタイプはなく、個々の思いがあり、タトゥーを入れに来る方が多いです」とのことです。

日本だけでなく海外にも
彫しゃち氏はイスラエルに来る前に、既に海外で活躍されていたそうです。
はじめて国外で活躍するきっかけとなったのはニューヨークでのタトゥーコンベンション。タトゥー関連のコンベンションに和彫りのできる人を募集していて、友人からの提案に二つ返事で引き受け、ニューヨークへ発ったとのことです。
「ニューヨークのタトゥーコンベンションでほかのタトゥーコンベンションの主催者に声を掛けられ、次のタトゥーコンベンションでも声を掛けられ・・・口コミで広がって様々な国で仕事をするようになりました。和彫りは時間がかかるものなので、一部を完成させて、ほかの国にわたり、また一部を完成させて・・・という形で数か国を期間に分けて転々として仕事をしていました。」
イスラエルでも同じで、前回の続きをというリピーターもいらっしゃるようです。イスラエルには和彫りをするアーティストがいないので、お客さんも彫しゃち氏が訪れることを楽しみに待っています。

イスラエルとの意外な関係
実は、インタビュー前に日本人の彫師さんが期間限定でイスラエルに和彫りをしに来るという話が、イスラエルのSNSグループではちょっとした話題になっており、私自身なぜ日本の彫師さんがわざわざイスラエルに?と疑問を持っていました。
イスラエルへ来た理由は実はロマンチックなものでした。
「イスラエルにはハダスと知り合ってから数回来ており、今回で4回目です」
実は彫しゃち氏、イスラエル人女性のハダスさんと結婚しており、2児のパパ。今回は、次男が生まれたタイミングで妻の両親に子供を会わせたく、妻の故郷であるイスラエルに一時帰国しているようです。
妻であるハダスさんとの出会いはタトゥースタジオ!和彫りに興味があり、未完成の入れ墨があったハダスさん。大学の研究の一環で日本へ留学していた際に完成させようと寄ったスタジオが彫りしゃちさんの場所だったそうです。意気投合し、飲み仲間から始まった関係。
「何もかも真反対の私たち。お互いの違いを尊重することが大事」とハダスさんは語ってくれました。
イスラエル人の和彫りに対するリアクションは?
イスラエル人にはまだ馴染みのない和彫り。本格的な手彫りや伝統的なモチーフについてイスラエル人はどういう反応を見せたのでしょう。
インタビューに同席した妻のハダスさんが語ってくれました。

「イスラエルで和彫りに興味を持っている人は主に2種類に分かれます。タトゥー好きの人たちと日本文化について興味を持っている人たちです。タトゥー文化に興味のある人は日本の和彫りについてもある程度知っていているので、手彫りや昔ながらの伝統的なデザインに惹かれるものがあるのでしょう。加えて、日本文化に興味がある客層もいて、日本文化に触れる一環で和彫りと出会うという場合もあります。」
「外国の方には般若のデザインが人気なんですけど、イスラエルではそうでもなくて、意外と鯉のデザインのオーダーが多いです。もちろん人にもよりますが…あと、イスラエル人は結構ディテールまでこだわる人が多いかもしれません。」
最近ブームとなっているタトゥーと日本文化、二つが混ざった和彫りというのはとてもアトラクティブなのでしょう。

イスラエル読者にメッセージ
「僕も初めはイスラエルってどんな国?という感じで、イスラム教徒が多いのかな?というレベルの認識でした。来てみると、天気もいいですし、料理もおいしいですし、人も優しく、楽しめる国です。タトゥーに関してもとてもオープンマインドです。来るたびにタトゥー人口が増えている気がします(笑)」


最近始めた漆工
彫しゃち氏、実は最近、京漆器の伝統工芸も始めたそうです。京都市主催の1年に5人しか選ばれないプログラムの参加権を見事勝ち取り、現在は京都で彫師として活躍する傍ら、京漆器にも活動の幅を広げています。
得意の日本画のモチーフを京漆器にも組み合わせた繊細で巧妙なデザインには和の心が反映されています。
世界と日本の伝統をつなげる彫しゃち氏、今後の活動に期待です。