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CULTURE

【連載】グラフィック・ノベルで綴るイスラエル Vol.05|狩り市場

by バヴア |2022年06月15日

グラフィックノベルを制作しているバヴアが、イスラエルのささやかな日常の物語を綴っていく連載「グラフィック・ノベルで綴るイスラエル」。


5回目となる今回は、カルメル市場に暮らす猫の物語をお届けします。


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バヴア / 2022年02月15日

グラフィックノベルでイスラエルを綴るシリーズ5回目のイラスト

解説

今回の作品は、物語の主役が猫という作品です。では、なぜ猫なのでしょう?


バヴアの事務所は、テルアビブの中心地で観光地としても名高いカルメル市場の近くにあります。市場では、日常生活に関わるあらゆるものが調達できるだけでなく、観光地として世界中から人々が訪れる場所でもあります。朝は6時から品物の搬入や品出しが始まり、市場で働く人々の元気の良い掛け声が聞こえ、パンの焼ける匂いが漂ってきます。夕方には、市場は閉まり、毎日必ず道路に水を流し、あちらこちらに落ちている野菜や食べ物を掃除しています。


そして夜は、一部の飲食店が開いているぐらいです。東京の築地市場に比べたら、サイズは大きいものではありませんが、テルアビブの台所の一つであり、ユダヤ系イスラエル人、アラブ系イスラエル人、エリトリア系移民、アジア系移民などが共に働いています。


興味深いのが市場のお店作りです。エルサレムの有名なマハネ・イェフダ市場もカルメル市場もよく似ていますが、日本のような店構えをもつ店がある一方、鉄の箱をお店に使っている場合も少なくありません。サイズがおよそ2メートルx 2メートル、高さが1メートル位の鉄の箱を、お店を閉める時は鉄の箱の中に商品をストックし、お店を開ける時は鉄の箱の上面がディスプレイ台として商品を販売しています。とても合理的なんです。スーパーと違い、果物屋は果物を、肉屋は肉を売るといった感じなので、そこでは店員とお客さんとの間のコミュニケーションが溢れています。


活気があって、人々が蠢いているカルメル市場の雰囲気をお分かりいただけたでしょうか?

このようなカルメル市場を取り上げるガイドブックは様々ありますが、どれも店やレストランの情報しか取り上げていません。実際には、そこで働く人たち、何より市場の屑を餌にするネズミ、そのネズミを駆除している猫たちもいるのですが・・・。


そこで今回の作品は、ガイドブックが決して描かないカルメル市場のもう一つの顔を、猫を主人公に描いて見ようと考えました。また、実際に市場で働く人として、私たちが時々買い物をする魚屋のアヴィにも出演してもらいました。


人ばかりの市場は、猫にとって居心地の良い場所ではないはずですが、何より餌に困らない。これが大事です。そして猫がネズミを餌にしてくれていることで、市場の衛生が保たれているということもあります。つまり、人間と猫は同じ場で生きながら、全く違う世界を見ている。でもその違う世界は、気づかないうちにお互い寄り添いながら共存をしている。そんな別な視点から、市場の日常を見続けてきたバヴアならではの物語かもしれません。


*マラビー:マラビーとは、中東やトルコ、ギリシャで楽しまれているミルクプリンです。ココナッツやナッツ類、ローズウォーター、そしてドライフルーツなどがトッピングされたおすすめのデザートです!

*バヴアは、日本人とイスラエル人のハーフでイスラエルで英語教師をしている井川アティアス翔と日本人で博士課程後期の社会人学生である戸澤典子が組むグラフィックノベル制作ユニットです。昨年12月に、『だれも知らないイスラエル:「究極の移民国家」を生きる』を花伝社から出版しました。


【アーティスト情報】
オヴァディア・ベニシュー

オヴァディア・ベニシューは、イスラエルのシェンカー・カレッジ・エンジニア・デザイン・アート・カレッジでアートを学びました。現在、テルアビブに在住し、イラストやグラフィック・ノベル等の制作をしています。
オヴァディアの作品はこちらから→ https://www.behance.net/ovadiabenishu