グラフィックノベルを制作しているバヴアが、イスラエルのささやかな日常の物語を綴っていく連載「グラフィック・ノベルで綴るイスラエル」。
四回目となる今回は、バヴアの仲良い友人がパートナーと築いてきた関係を物語をお届けします。
解説
今回の作品は、バヴアが親しくしている女性カップル、ダナとエラの日常を描きました。来月上旬には、テルアビブでLGBTQの「プライド・パレード」も開催され、それに先立ちLGBTQ関連の作品を制作しました。
テルアビブは、世界的にも有名な「LGBTQ・フレンドリー」な都市です。テルアビブの中心街では、同性カップルが手を繋いで歩いている姿を見ることもめずらしくはありません。カフェやレストランの入口やアパートのバルコニーに、LGBTQを象徴するレインボー・フラッグ(虹の旗)がたなびいていることもしばしばです。
では、テルアビブ全体がLGBTQ・フレンドリーな雰囲気があるかというとそうではありません。たとえば、保守的な人々が住んでいると言われるテルアビブ南部では、宗教者の数も少なくはなく、彼らの暮らす地域がLGBTQ・フレンドリーかというと難しいところです。
そんなテルアビブ南部の「クファール・シャレム」という地区に住んでいるのが、本作品のダナとエラです。クファール・シャレムを含むテルアビブ南部は、1950年代以降、イスラエル当局が中東・北アフリカ諸国から来たユダヤ系移民・難民を住まわせた場所でした。長い間、テルアビブの中心部や北部に暮らす欧米系のユダヤ人と彼らの価値観は異なっていました。クファール・シャレムは、欧米でよく見られるLGBTQの権利運動とは縁遠いと言っても過言ではないかもしれません。
今回、読者の皆様にお伝えしたかったメッセージは、このようにテルアビブとはいえ、LGBTQに対して保守的な立場をとる地域に暮らしていたとしても、彼ら/彼女らはたくましく、生き生きと暮らしている日常があるということです。
人は生まれてくる場所を選ぶことはできません。経済的理由で、裕福で「自由な」テルアビブで暮らせない人たちもいます。それでも今いる場所で、人々は自分らしく、愛ある豊かな生活を築こうとしているのではないでしょうか。少なくとも私たちの友人のダナとエラは、そのように生きています。
このような場を作りだせるのも、彼女たちの絆の現れかもしれません。男女カップルの規範にとらわれず、細かい作業でも力仕事でも、お互いを信頼し、抜群のチームワークでこなしています。LGBTQであるということで、社会規範によって歩むべき道が示されておらず、時に不安になることもあるかもしれません。それでも愛するパートナーと自分らしい将来を形にしていくこと以上のものはないですよね。
読者の皆さまにも、ダナとエラを応援して頂けると、バヴアは嬉しいです!
*バヴアは、日本人とイスラエル人のハーフでイスラエルで英語教師をしている井川アティアス翔と日本人で博士課程後期の社会人学生である戸澤典子が組むグラフィックノベル制作ユニットです。昨年12月に、『だれも知らないイスラエル:「究極の移民国家」を生きる』を花伝社から出版しました。
【アーティスト情報】
ダニエル・ぺレグ
ダニエル・ペレグはテルアビブ出身のイラストレーター兼ストーリーテラーで、アニメーションとデザインを制作するスタジオ・チャパチカ(Chapachka)の共同創設者です。イスラエルのベッツァレール・アート・デザイン・アカデミーを卒業し、現在では、雑誌や新聞のイラスト、子供向け絵本、グラフィックノベルやアニメーションを手がけています。ペレグの作品はInstagramから → https://www.instagram.com/daniellepeleg_/