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CULTURE

イスラエルのビデオグラファーによる、日本人プロ・スノーボーダー、山根俊樹のドキュメンタリー

独占インタビュー|トム・ガノール(ビデオグラファー)

イスラエル出身ビデオグラファーのトム・ガノールが初めてビデオカメラを回したのは、フランスの山でのスノーボード撮影でした。フランスのスキーリゾートで働いている時、友人でもあるイスラエルのトップ・スノーボーダーを、単にプライベートの楽しみのためビデオに撮ったのが最初の経験だったのですが、しかしこれが図らずしも、トムのキャリアのスタートとなったのです。


トム・ガノール
トム・ガノール

2020年、トムは、彼の最新の作品「TOSHIKI DEATH(トシキです)」を発表します。彼の原点回帰とも言えるこのスキー場でのビデオ作品は、プロ・スノーボーダーである山根俊樹氏のプライベートな瞬間を、凍てついた北海道の山中で収めています。今回、ISRAERUウェブマガジンでは、トムがビデオグラファーとして成功するまでの過程と共に、この「TOSHIKI DEATH(トシキです)」という作品の真相に迫ります。


ビデオグラファーへの道のり

フランスの山中で、ビデオ撮影の魅力に取り憑かれたトムは、その能力を伸ばすべく、大学に進学する決心。そして、イスラエルの国立美術学校であるベツァルエル美術デザイン学院のビジュアルコミュニケーション学科に入学を果たします。


「何しろ、面白いっていう以外、理由は何もなかったな。でも、ビデオ制作こそが自分の進む道だって気付くまでには、グラフィックデザインやアニメーションを学んだ後、3年の年月がかかったよ。」


そこから、エクストリーム・スポーツのファンとして、トムは様々なスキー、スケートボード、サーフィンのビデオを撮影してきたのですが、どれも深みに欠ける作品で、自身の作品に不満に感じていました。


「エクストリーム・スポーツのビデオは、どれをとっても、単にその技をフォーカスするだけで、その後ろにあるアスリートたちの物語には、自分を含めて、誰もカメラを向けてこなかったからね。でもそれじゃあ、薄っぺらいストーリーしか表現できないよね。」


このことに気付いたことで、よりアスリートの深い部分にまで踏み込むビデオを志すようになったのです。


TOSHIKI DEATH(トシキです)のポスター

プロ・スノーボーダー、山根俊樹

ビデオグラファーとしての経験を深めるため、様々なスノーボードの会社に、時にはタダ働きでもOKの条件で、自分を売り込んでいきました。そんな長い下積みの期間を経たある日、とある大手のスノーボード会社から、まさに人生一隅の機会を手に入れるのです。


「バタレオン・スノーボードから、オフィシャル・カメラマンの依頼を受けたんだ。彼らの契約アスリートたちと、2ヶ月に渡ってツアーを一緒に過ごしたのさ。俊樹は、そのチームの一員だった。彼の英語は全く駄目だったんだけど、僕らは一瞬にして通じ合う事ができたのさ。」


山根俊樹
山根俊樹氏

トムは、バタレオンのマネージャーに、俊樹のショートフィルムを作ることを提案します。ぞして2020年の冬、トムは北海道を訪れることになるのです。


北海道での刺激的な日々

「それは、驚き、の一言だったね。」


日本という環境は、トムにとってまさに初めての体験でした。彼の知らない、全く新しい環境が待っていたのです。


「そこに暮らす人たち、オンエアされているテレビ番組、そして街。僕の全く知らない世界がそこにあったんだ。」



そこでは、様々な物事が前もって決まっていたにも関わらず、トムと彼の撮影チームは予期しない困難に出会います。最大の理由は、天候の不順さでした。晴れていても、曇っていても、雪という背景は撮影にとって非常に多くの困難を伴います。そして第二に、言葉の問題です。イスラエル人スタッフと日本人スタッフのコミュニケーションは常に大きな問題でした。十分な撮影素材をしっかり確保するために、トムは一時たりともカメラを手放す事はできませんでした。



「いや、どんな時でもカメラを手放す事はできなかったね。それがトイレだろうが、温泉だろうがさ。」


プロ・スノーボードの世界

しかし、コロナウイルス感染の拡大によって、トムはイスラエルへの帰国を余儀なくされてしまいます。無論、撮影はまだまだ途中段階。シナリオライターのJason Danino Holtと打ち合わせ、どんな素材を撮る事ができ、制限された条件の中でどんなビデオが出来るのか、綿密な打ち合わせが進んでいきました。


トム・ガノールと山根俊樹

「俊樹には、様々な質問を送ることに決めたのさ。結局、150を超える質問項目を用意したんだ。でも、その殆どが、俊樹の精神状態に関するもので、スノーボードの動画とは直接関係の無いものだったね。中には、今まで自殺を考えた事があるか、などといった、相当に踏み込んだ質問まで答えてもらった。スノーボーダーたちの経済状況に関する質問も送ったよ。どうやって彼らが生活の糧を得ているののかにも興味があったからね。」


音楽を担当したUdi Naor、通称「BEATFOOT」には、Nathan Zach作詞の「セカンドバード」を訳してもらい、日本人シンガーのユリカ・ハナシマによる歌を録音してもらいました。スノーボード競技のバックにこの歌が流れます。


「これは、とてもいいアイデアだったと思っているよ。この歌を使おうなどとは、当初は思っていなかったんだ。でもね、今までにないビデオを作りたいと思っていたことに、Udiが答えてくれたと思っているよ。」


このビデオがリリースされると、世界中のスノーボード雑誌で取り上げられることになりました。その上、今や世界中のフィルムフェスティバルにエントリーされています。今年の年末、どんな結果になっているか、とても楽しみです。


「このビデオの世界的な配給の状況は、本当に素晴らしいことだと思ってる。僕は、僕がベツァルエル美術デザイン学院に入る前から、みんながこういったビデオに求めているのもは何か、ということを考えていたけれど、みんながどんなリアクションをとってもらえるか、とても楽しみにしているよ。だってみんな、素晴らしい物語を聞きたいと思ってるからね。」


https://tomganor.com/