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DESIGN

デザインスタジオ「レディッシュ」― 自然体のデザイン哲学 

by 中島 直美 |2026年11月01日

イスラエルのデザインスタジオ「レディッシュ(Reddish)」を主宰するナアマ・シュタインボックさんとイダン・フリードマンさん。身近な素材や日常の風景から着想を得て、独創的で奥行きのある作品を生み出してきました。デザインを一つの言語と捉え、ものづくりへの真摯な姿勢とユーモアを併せ持つお二人に、デザイン哲学や日本とのつながりについてお話を伺いました。


レディッシュを主宰するナアマ・シュタインボックさんとイダン・フリードマンさん

素材の声に耳を傾けて

「過去に敬意を払い、現在に繊細な感性を持ち、未来に責任を持つ。そして、その過程で自分たちを重要視しすぎないこと」。二人のデザインに対する姿勢を表す言葉です。


同じ街で育った二人には、知り合う前から共通する思い出があったそうです。雨上がりの海岸で古い陶器の破片を探し、特に取っ手の部分を見つけるとうれしかったこと。それぞれの祖父母の家にあった古い刺繍や装飾品、蚤の市に並ぶ品々に心を引かれていたこと。こうした共通点を知ったのは、二人が出会ってからのことだったといいます。


「作品をつくるとき、私たちは素材の声に耳を傾けることを大切にしています。私たちにとって素材は単なる道具ではなく、創造のパートナーなのです」。

二人は、古くから人々の暮らしに使われてきた自然の素材を作品に利用することが好きだといいます。プラスチックなどの新しい素材を否定するわけではありませんが、古くから使われてきた長い歴史を持つ素材には、それだけ多くのことを語る力があるのだと感じているそうです。


二人にとってデザインとは、自分たちを表現するためだけのものではなく、共有する世界について語る一つの言語なのです。


真剣さとユーモアと

数々の受賞歴を持ち、2021年にはベテランデザイナーを対象としたエドモン・ド・ロスチャイルド・デザイン賞を受賞した二人。2002年に設立したレディッシュスタジオを24年間にわたって運営してきた、イスラエルのデザイン界で確かな実績を持つデザイナーです。


今回のインタビューを英語で行うことを伝えると、「あら、それじゃあ面白い冗談をうまく言えるかしら?」とナアマさん。25年間共に歩んできた二人は、今でもお互いを心から笑わせることに喜びを感じるといいます。


しかし、二人が大切にするユーモアは、単に人を笑わせることではありません。

例えば、イスラエルの国民食ともいえるフムスを、大真面目にデザインし直した作品「Speculative Hummus」。これは、デザインという行為そのものをユーモラスに問い直した作品です。


Speculative Hummus,
Speculative Hummus, 2023 Reddish Studio HPより

制作のきっかけは、イスラエルのデザインミュージアムで開催された「食」をテーマとする展覧会への参加でした。工業デザインを専門とする二人は、工業製品と食品の製造過程に共通する技術があることに着目し、その境界線について考え始めました。


Speculative Hummus,
Speculative Hummus, 2023 Reddish Studio HPより

そこで選んだのが、中東の人々にとって身近で、食べ方や味について誰もが一家言を持つフムスです。二人は、すでに親しまれているこの料理に、あえて工業デザインの手法を持ち込み、形や盛り付けを再考しました。陶器の成形技術を応用し、本物のフムスを使って試行錯誤を重ねたのです。


そもそも、フムスに新しいデザインは必要なのでしょうか。

二人は何でも改良しようとするデザイナー自身の姿勢にも、ユーモラスな疑問を投げかけます。冗談のような発想に、手間と技術を惜しまず取り組む。その真剣さが、かえって作品の面白さを際立たせているのです。

Speculative Hummusの図解

Speculative Hummus, 2023 Reddish Studio HPより


日本文化との出会い

二人は日本の工芸やデザインにも深い関心があるといいます。これまでに三度日本を訪れ、そのたびに約1か月をかけて各地を巡り、工房を訪ねては職人たちの仕事に触れてきました。


中でも印象に残っているのが、400年続く鉄瓶の工房での出来事だそうです。職人に「新しい鉄瓶をデザインしないのですか」と尋ねると、「それは自分には大きすぎる仕事です」との答えが返ってきました。

「イスラエルでは、デザイナーたちは新しいものを次々と生み出そうとします。伝統に対する考え方が大きく異なることに驚き、感心しました」とナアマさん。


二人は日本文化からも多くを学んでいますが、それを自分たちなりの言語に翻訳する必要があるといいます。単に日本のものを模倣するのではなく、自分たちらしい表現にすることを大切にしているのです。

その一例が、日本の刺青文化から着想を得た木製テーブル「YAKUZA」。イダンさんが何日もかけて刺青の図柄を描き、それを木の表面に印刷した作品で、ドイツのデザインコンペティションで最優秀賞を受賞しました。

制作中は日本の文化を十分に尊重できているだろうかと気がかりだったそうです。後に日本の新聞などで好意的に紹介されたときには、二人ともほっとしたといいます。



作品を世界へ送り出す

古くから受け継がれてきた素材に耳を傾け、そこからまだ見ぬ新しいものを生み出していく二人。過去を大切にすることは、そこにとどまることではなく、未来へとつなげていくことでもあるのでしょう。


「作品は、自分たちが生み出した子どものようなもの。でも、世の中に送り出した後は、その作品がどこへ行き、誰に出会い、どう受け止められるのか、私たちにはわかりません」とナアマさん。

二人は一つひとつの作品に愛情を注ぎ、こだわりを持ってつくり上げます。しかし、作品はひとたび世に出れば、それはデザイナーの手を離れ、それぞれの人生を歩み始めます。見る人によって異なる意味を持ち、時には二人が想像もしなかった姿を見せてくれることもあるそうです。


何年も前に発表した作品が、今も人々に喜ばれていると知ったときには、自分たちが評価されたこと以上に、その作品のためにうれしくなったといいます。

素材を「創造のパートナー」として尊重し、作品を我が子のように大切にする。ものづくりに深い愛情を注ぐ一方で、二人のまなざしは常にその先に広がる世界にも向けられています。


過去から未来へ、人から人へ。自分たちが生み出したものが、思いもよらない出会いや物語を紡いでいく。その行方を楽しみ、ときには自分たち自身を笑い飛ばす。そんな二人の自由でしなやかな感性が、作品の一つひとつに息づいているように感じました。


Reddishの《Speculative Hummus》が東京で展示されています。ぜひご覧ください。
DESIGNART TOKYO 2026

会期:2026年10月30日(金)〜11月8日(日)
   10:00~19:00(11/3は17:00まで)

会場:銀座エリア AUTOBAHN/KK Iine(東京都中央区銀座西2-2先)
Speculative Hummus Reddish Studio
https://www.designart.jp/designarttokyo2026/exhibitions/15154/


Reddish Studio公式サイト
https://www.reddishstudio.com/