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目を凝らして記号を取り払うフォトグラファー、ミハエル・リアニがテルアビブから放つイノセントな試み

by Art Source |2021年08月06日


現象にまとわりつく記号的な何かよりも、内から向けられた人々の眼差しを捉える―――


フォトグラファーのミハエル・リアニが目を凝らしてそれを見つめた結果、イスラエルのイノセントな情景が作品に広がり、デフォルメを取り去った美しく生々しい姿が私たちに問いかけてきます。世界を股にかけながら、イスラエルの人々に起きる些細な“一瞬”を採集し続ける。そんなミハエルさんの試みと哲学に迫るインタビューをご紹介します。


新進気鋭のフォトグラファー、ミハエル・リアニは、イスラエルのアート界で注目されているアーティスト。2016年に修士号を取得して以来、彼の作品は、イスラエル博物館、モスクワのヤングアートビエンナーレ、UCLAビエンナーレ、エレツ・イスラエル博物館、ネゲブ博物館などで展示されています。そんなミハエルさんに、ご自身のことや今後のプロジェクトについて教えていただきました。


―――テルアビブにあるヘルツリヤ現代美術館で開催された個展での展示作品には、どのようなコンセプトがありますか?


この展覧会のために3年間費やしました。さらにコロナ関連の規制により何度か延期されていましたが、長期間の準備とコロナにおける人々の心境の変化によって、作品がより重要な意味を持つことになり、とても喜ばしい展開になりましたね。


今回の展覧会のテーマは「All Inclusive」。

イスラエルの南部にあるリゾート地であるエイラットが舞台です。各地から来た観光客たちが余暇を過ごす際に、図らずも体験する「汎イスラエル的なサイケデリック不協和音」の名残に焦点を当てています。


エイラットは、レクリエーション・娯楽・贅沢、そして狂乱を彷彿とさせる熱を帯びた活気、つまり人々の憧れの幻想に満ちた世界です。そこには何でもあり、大概のことが実現出来てしまう場所です。だからこそ何かが私たちの逃げ場を塞ぐように取り囲み、ある意味で密閉・圧縮された空間でもあるんですね。そんな少し距離のある視点から、この街を見つめる様を作品群に落とし込んでいます。表現したいのは、イスラエルの国内観光という「表皮」を引き剥がし、中身を細かく分解して、エイラットの休日を再構築すること。この経験に象徴される離隔感があぶり出す「エイラット」という幻想に溢れた現実が、いかに人に作られたもので、様々なちぐはぐな現象を引き起こしているかを、純粋な視点から解き明かしていくことで自由と解放の理想への一歩を踏み出せるかなと。


各作品の中ではその一環として、エイラットの豪華なホテル文化のフェイクなフィルターを提示するとともに、あまり語られることのない、ライフガード、道端の清掃業者、ビーチフロントの露店スタッフ、アーケードモールのスタッフ、レストランのウェイターなど……エイラットの定住者であるサービススタッフの労働条件を、写真を通して明示しています。生き延びるために自らを消費財やアトラクションに変えざるを得ない彼らを見つめたのは、一枚の「マッシュアップ」された人間模様の表現のためですね。



―――最近、LGBTQのカップルを撮影するプロジェクトが話題になりましたが、このプロジェクトはどのようにして生まれましたか?


ゲイプライドイベントが中止になったコロナ禍の最中に取り組んでいたプロジェクトで、「平等な愛とは何かを示したい」という思いから生まれました。他人や制度に関係なく、愛そのものだけを捉えたプロジェクトです。イスラエル全土のLGBTQのカップルを撮影し、フィルムで4~5回シャッターを切るというスタイルで、最高にリアルな体験を切り取るために、彼らの生活に慎重に入り込みました。被写体の自宅に伺ったにも関わらず、皆さん快く私を家に上げてくれるなど、プロジェクトを共同制作するための血の通ったコミュニケーションから生まれた作品かもしれないですね。


これまでに100組のカップルを撮影し、その作品群はイスラエルのゲイの愛を率直に物語っていますが、同時に残念ながら2020年現在もまだ不平等な愛というのは残っているということも浮き彫りになります。


とは言え、私の目的はLGBTQにおける愛の姿を広めることだったので、IDマガジンにも掲載されましたし、結果としてこのプロジェクトが注目されていることはとても嬉しいことです。



―――ヴィジュアル・アーティストに限らず、おすすめのイスラエル人クリエイターはいますか?


シンガーソングライターのリフ・コーエンですね。リフはイスラエルでの活動が多いのですが、トルコやフランスでも人気があって、私にとって貴重なインスピレーション源です。中東の文化と西洋の文化を結びつけ用とする方向性など、シンパシーを感じますし。実は光栄なことに、彼女と一緒に仕事をする機会がありましたが、その際に最高に素敵な人柄だったことが印象的でしたよ。心からおすすめします。


Riff Cohen in Joseph Dadoun’s Universes, 2003

―――では、憧れの被写体は?


ヴァイオレット・チャチキですね。有名なドラァグクイーンで、ル・ポール主催の『ドラァグレース』シーズン7で優勝しているのでご存知の方も多いのでは。彼女は、パフォーマンスやジェンダーの扱い方において、次の時代へ向けて鍵を握っていることは明らかですし、社会にとって新鮮な「声」を持っていると思います。


ドラァグの芸術は、エミー賞を受賞したル・ポールのおかげで進化しましたが、とりわけ私にとってヴァイオレット・チャチキは、(『ドラァグレース』の中でも)最も多面的で奥深く、ダイバース・アーティストと呼ぶにふさわしい存在だと感じていました。


Violet Chachki

―――ところで、テルアビブでおすすめのアートなスポットはありますか?


テルアビブには、特にアートな場所というのはないと思います。他の都市でもあるように、スポットとして形成された場所ではなく、そこに暮らすこの上なく刺激的な人々こそが、街をユニークに彩っていますよ。


テキスト:Art Source


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