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Art

創作活動は対話。イスラエル人アーティストに訊く、作品の背景にある創造プロセスとは

by 長谷川 雅彬 |2022年04月19日

前編では哲学的な視点から独自の世界観を生み出すアーティスト、マヤ・アトゥーンさんの全体像について話を伺いました。後編では、彼女の創作におけるエッセンスが一体何なのかについて更に深く話を掘り下げたいと思います。


マヤ・アトゥーン写真

マヤ・アトゥーン

1974年、エルサレム生まれ。1997年にBezalel Academy of Arts and Designを卒業し、2006年に修士号を取得。2012年にCreative Encouragement Award、2010年にOscar Handler Award、2009年にYoung Artist Award、2007年にOded Messer Awardを受賞している。Attounは、思考プロセス、直感的なジェスチャー、素材、イメージの間の対話に取り組む、多分野アーティスト。彼女の作品は、現代性、そして神話、物語、科学の交差点について考察していることで知られている。

https://www.mayaattoun.com/


――― アートの役割の一つは社会に対して疑問を投げかけること、そして人々にあるテーマについて疑問を持たせることかもしれません。マヤさんのアーティストとしての最大の挑戦は何ですか?


私の挑戦は、完全に消えてしまわないようにすることです。作業プロセスにおいて、私は非常に豊かで充実した場所からスタートし、徐々に素材が圧縮され、縮小され、ほとんど消えてしまうのです。私の挑戦は常に彫刻的なものです。しかし、私の彫刻は三次元に対抗するものなのです。



――― アートと言えば、”何もないところから何かを創造する”というイメージを持ちがちですが、豊かな状態から削り落としてゆくというのは一般的なイメージとは反対ですね。今後、アーティストとして制作してみたいものはありますか?


閉じた空間での仕事の仕方と屋外での応用の仕方を考え、屋外でのインスタレーションを作りたいと思っています。建築は、私にとって何よりもまず究極の彫刻であり、私が語るストーリーの中で欠けているピースを埋めてくれるものだからです。だからこそ、私を取り囲む彫刻を変化させ、物語がどのように変化するかを見ることに興味があります。


『Solar Mountais and Broken Hearts』 2021
Photo by Noam Preisman

――― 建築を彫刻の延長と見るのも非常にユニークな視点ですね。本来は創造という行動はジャンルに限らず全て繋がっているにも関わらず、社会における利便性を重視して分断されているのかもしれません。マヤさんの創作のプロセスはどのようなものですか?


私の創作活動は、内的な論理が形成され始めるまでは、折衷的で直感的なものです。アートは、私たち人間の状態に共鳴するサイン、神話、図像として見ることができます。そして、私の創造プロセスは多岐にわたります。さまざまな形、イメージ、アイデア、物語が私を活性化させ、そのすべてを1つの濃密な作品に結びつけるという連想的な方法で制作しています。


――― 点と点を繋ぎ合わせるということでしょうか。様々なビーズを紡いでいくような印象を受けます。マヤさんが創作活動で大切にしていることは何ですか?


私は、創作活動を「対話」と捉えています。創作の過程で最も重要なことは、最後の瞬間まで変化に対してオープンであることです。つまり、精神的にオープンな状態であり、途中の視覚、聴覚、物質、形式、文学など、あらゆる影響に対して常に目を向けていることが大切です。私の創作プロセスは、これらの構成要素間の継続的な対話であると考えているので、おそらく私にとって最も重要なことは、常に注意を払うことです。


マヤの『Solar Mountains and Broken Hearts』という作品の写真です。グレーを背景に暖色を使った絵が描かれています。
『Solar Mountains and Broken Hearts』, 2021

――― ただ単にアイディアを具現化するのではなく、作品との対話を通じて作り上げてゆくというのはどこか詩的であり、動的ですね。特にマヤさんは一つの分野に限定されない世界観をお持ちです。トランスディシプリン思考(分野を超越した思考法)について、どのようにお考えですか?


トランスディシプリンな思考は、私が興味を持ったことを様々な角度から探求し、一見すると必ずしも結びつかないような素材やアイデアに新しい関連性を持たせる機会を与えてくれます。したがって、トランスディシプリンは、私がアートに求める密度を生み出すのに役立っていると言えますね。


『soundless systems, 2014, from Half Full

――― 一見すると関連性のない点と点を繋ぐことが出来るわけですね。最もクリエイティブだと感じるのはどんな時ですか?ルーティンワークや特定の瞬間はありますか?


締め切りは常に創造的なプロセスの良い触媒であり、粒子加速器のようなものです。また、インクドローイングをしたり、音楽を聴いたり、読書をしたりと、ある種の刺激を受けることを日課にしています。いつが一番クリエイティブなのかはわかりませんが、クリエイティビティを発揮する瞬間の見極め方はわかっています。それは、遊び心にあふれ、世の中に新しいつながりや連想を簡単に見出すことができる瞬間です。この瞬間が一番気持ちよく、自由を感じられるのです。



――― 創造する瞬間は自由を感じられるというのは印象的です。創造性は訓練できると思いますか?


はい、練習になります。


――― どうクリエイティビティを訓練すれば良いでしょうか?


創造性とは、遊び心にあふれた状態でいられる能力です。常にオープンで、柔軟であること。クリエイティビティは、生きていく上で必要なものです。


アーティストのマヤ・アトゥーンの横顔を写した写真です。

マヤさんの視点は、私たちが日常的に当たり前だと思い込んでいることの反対に常にあるように感じられます。独創的な世界観の源泉は、常識や当たり前だと感じている私たちの世界に対する理解の対極にあるのではないでしょうか。そして、アートとはまさにそうした思考プロセスの賜物であるということが彼女の話から伝わってきます。アートは絵を描くことでも彫刻を作ることでもなく、考え方なのです。