前編では今イスラエルで最も注目されるアーティストの一人であるリオール・タミル氏に、彼のユニークな人生についてスポットを当て伺いました。後編ではそんな彼の圧倒的な創造性がどのように生み出されているのか、そのエッセンスと極意について迫っていきたいと思います。

リオール・タミム(Lior Tamim)
イスラエル出身のアーティスト。パフォーマンス、サウンド、空間などを中心にプロジェクトベースで作品を発表している。写真家として芸術的な訓練を受けたタミムは、早くから自分の主要な道具として身体を発見、彼の作品では、しばしば異なる人物に変身し、その生き方を完全に取り入れる。近年では、狩人、兵士、遊牧民、ボディビルダーとして生活している。彼のプロジェクトは、多くの場合、異なる専門家のコラボレーションによって生み出れ、過去には、科学者、エンジニア、音響専門家、プログラマー、栄養士、振付師ともプロジェクトをしている。彼の作品は従来の自己構築の限界を超え、芸術と生活の区別を曖昧にすることで知られている。
―――リオールさんはアーティストの枠を越え、他者とは全く違う生き方をしているように思えます。創作の過程についてもう少し詳しく教えてください。アイデアを実現するために、どのようなプロセスを経ていますか?
私は通常、まず頭の中でアイデアの全体像を見ることができます。しかし、すぐに行動に移すことはなく、時間が経ってから、急を要するものを選んで創作します。普段は、自分にとって全く新しいもの、やったことのないものを選ぶので、正確に実行するためには、題材を学び、慎重に計画する必要があります。ほとんどの場合、専門家、指導者、アーティスト仲間など、様々な人が関与しています。プロセスをオープンにしておきたいのです。特に予算がかかっているプロジェクトでは、タイムテーブルといったビジネスツールが便利ですが、一番クリエイティブなのは、アイディアのインストール作業だと思うんです。この時期に最も重要な決断を下し、自分の選択と向き合うのです。

―――直感的にやるべきことが見えるといった感じでしょうか。各作品のテーマはどのように決めているのですか?論理的に考えた結果なのか、それとも直感的なものなのでしょうか。
私は直感が好きなんです。ロジックはいつも後からついてくるものですね。考えすぎるとかえって作品の質が悪くなることを自分で学んだからです。論理も知性のひとつだと思いますが、芸術的な知性と同じレベルである必要はないでしょう。ほとんど考えないようにして、結果を処理せずに行動を起こせるように、自分のメカニズムをオフにするようなものです。簡単そうに聞こえますが、そうではありません。私の仕事は、考えることではなく、実行することなのです。

―――リオールさんの話は思慮深いと感じるので、あえて考えないようにするというのは面白い発見です。リオールさんにとって、アートや創造とは何でしょうか?
ヒエラルキー、政治、経済、ルール、歴史などのシステムを持つ、非常にシリアスなゲームです。このゲームには多くの人が参加し、プレイヤー、観客、積極的な参加者、非活動的な参加者など様々な人がいます。それを理解した上で、盤面を図式化し、自分の動きを計画する。自分自身と他人を理解するには時間がかかります。自分がどんなプレーヤーなのか?自分の得意技は何なのか、どのようにプレーを選択するのか。無限の可能性があるので、そのために自分のゲームを選んでいます。

―――客観的に自分を捉え決断をする戦略家なのですね。クリエイティビティは、何かによって高められると思いますか?もしそうだとしたら、それに対するある種のアプローチを持っているのでしょうか?
もちろんです。クリエイティビティは、間違いなく練習できるものです。パズルを組み立てるような要素もあります。人類の歴史や美術の歴史を学ぶと、多くのことを学ぶことができます。私はいつも、さまざまなアーティストがどのように問題を解決していったかを理解しようと努めています。アーティストには当然、限られた資源しかありませんから、生き残るために特別な工夫をする必要があります。彼らは問題解決の経験が豊富で、自分のアイデアや可能性を最大限に引き出すことができます。創造性を高めるには?何の知識もなく何かをすることです。

―――創造性を高めるためにあえて予備知識を持たないというのは、社会の常識と真っ向していてとても刺激的です。リオールさんは様々な分野の人と協力して仕事をしています。そうしたコラボレーションは考え方にどのような影響を与えましたか?
私の仕事では、自分自身を一種の寄生虫のように考えるのが好きです。生きていくためには、体や宿主が必要なのです。考えてみれば、私の仕事の唯一の目的は、すでに存在する何かを別の目的や結果に転換させることなのです。それは人間も同じで、その人の専門的な知識を糧にするのです。人と一緒に仕事をすることで、自分が経験したことのない知識や経験の世界に触れることができます。アートは、他の人たちのさまざまな視点から人生を体験する機会を与えてくれます。私はいつも、人生は常にアートよりも重要で強いものだと考えています。アートは決して人生そのものに取って代わることはできないし、それは私が長年にわたって学んだとても大切な教訓でした。

―――すでに存在する何かを別の目的や結果に転換させることという言葉がとても心に刺さります。最後に今後のキャリアにおいて、創りたいものを教えてください。
実は時々、この質問を自分に投げかけています。自分自身を導いてくれるような 正しい場所を探しているのです。ずっとそうしてきた気がします。今、私が夢見ているのは、コード化されたアルゴリズムです。 ライブパフォーマンスにおいて肉体の代わりになるもので、一方で完全に自律的な知能を持つものです。最低でも2年はかかると思います。その先はわからないけど……。

リオールさんの創造性へのアプローチは、私たちが盲目的に正しいと感じていることの真逆をゆきます。しかし、それらは決して奇想天外な行動というわけではなく、非常に深い示唆に富んでいます。また、彼のアプローチのどれもが、私たちの人生でも実践可能なものばかりです。彼の話から、私たちが普段盲目的に信じてしまっていることに疑いの目を向けることがいかに重要なのかということが伺えます。ついつい、大勢の人が言っていることを正しいと捉えてしまいがちですが、創造性を高めるためにはそうした常識を一度取り払い、全てに疑いの目を向けてみることが肝要なのかもしれません。