世界を魅了する日本の伝統文化。イスラエルには柔道、空手道、合気道、古武道、日本舞踊、書道、水墨画といった、様々な日本の伝統文化を指導する素晴らしい日本人の方々がいます。

前回は、書道と水墨画をイスラエルで伝授する石井和男師匠をご紹介しましたが、今回は日本の伝統文化、空手道、古武道を指導する川村明師範をご紹介します。師範の空手道、古武道にかける情熱と人生観を伺いました。

―――まず師範の出身地はどちらでしょうか?空手道、古武道を始めた経緯をご紹介いただけますか?
私は東京荒川区出身です。空手道を始めるきっかけは、海外で色々な国の人から柔道や空手ができるかと聞かれることがあり、ぜひ自分も空手道を勉強したいと思ったからです。そして空手道場を見学に行き、すぐに稽古を始めました。稽古を始めてからもう39年になりますかね。現在の段位は空手範士八段、棒術教士六段です。
―――39年とはとても長いですね。空手道、古武道 に対する先生の概念、真髄は何でしょうか?

日本人でありながら、日本の伝統的な文化を知らないのは恥ずべきことと思い始めた空手ですが、やはり日本の伝統を守っていきたい、精神的にも肉体的にも自分自身を鍛えたいという思いと共に、自分自身の可能性を確かめたかったのだと思います。 我々の空手は人を傷つけない武道ですし、若い人から歳を取っても稽古ができます。
―――たしかに武道は精神的にも肉体的にも鍛えられるイメージがありますね。空手道や古武道はどういった形や技があるのでしょうか?
空手道や古武道は沖縄の少林寺流がルーツです。古流沖縄七つの形、棒、釵(さい)、鎌、ヌンチャクなどの古武道の形、杖の形に400年以上の歴史を持つ武秘流長捲(ぶひりゅうながまき)の形などがあります。川元規久宗師範の創作によるステッキ術、衣どり、などは現代民衆の武道です。
―――空手道や古武道にはどのような大会があるのですか?
通常、日本での全国大会が2年に一度、高段者大会も2年に一度の割合で行われます。

―――ではなぜ師範はイスラエルに来ることになったのでしょうか?
イスラエル人の妻と日本で出会ったのがきっかけですね。出会ってから3年後に彼女と一緒に一年間の旅をした後に、イスラエルへ着きました。私はどんな国でも暮らせる自信があり、両親を説得してイスラエルで生活することを決意したのです。現在イスラエル在住34年になります。
―――なるほど。ではなぜイスラエルで空手道と古武道を指導しようと思ったのですか?

以前ダイヤモンド取引所のスポーツクラブで稽古をしていた際に、スポーツクラブ(取引所)に所属していない方々から、空手道を教えて欲しいと言われました。そこで外部の人も稽古ができるように道場を借りて、円明館をスタートしたのです。指導をすることで、私自身も様々なことを学び、生徒の成長を見るのが楽しみになりました。
―――イスラエルで空手道や古武道を指導する上で、文化の違いを感じることはありますか?

イスラエルは言い合って納得する文化ですが、日本は目で見て何度も稽古を重ね覚える文化です。道場では、無言の行を実施してもらっていますが、とても難しいですね。そのため、道場だけでなく、座学として日本からのビデオを観たり、武道用語を覚えてもらったりしています。また年に何度か会報を出版し、日本の心、そして武道家として必要なことを教えています。道場でノートを取る時間や稽古終了後に質問の時間も確保していますが、その際はほとんど質問内容を忘れているので静かですね。(笑)他にも年に一度の合宿や演武会を実施し、お互いを知り、一緒に物事を成功させる雰囲気を作る努力もしています。
―――色々と努力をされているのですね。指導はどのようにされていますか?
そうですね、道場では初心者、中級、高段者と3つのグループに分けて指導にあたっています。そして道場を持っていない高段者には、なるべく他の人の指導を指せるようにして、今までの稽古のおさらいをしてもらいながら、新しい技の稽古をさせています。
―――現在はどちらで指導されていますか?どういった方が習っているのでしょうか?
現在はテルアビブの道場で週2回の稽古をしています。年齢層は高く60歳ぐらいですね。生徒の一人が、ハイファの道場で子どもたちに教えているので、年に数回はそちらに行くようにしています。
―――イスラエル人は日本文化をどのように感じていますか?
生徒の多くは日本文化に興味を持っています。大会で日本へ行くときは、あらかじめ興味のある場所を把握し、一緒に旅するように努めています。

―――ではここからは、少し師範ご自身についてお聞きします。趣味などはありますか?日本料理が大変得意とお聞きしましたが。
私は、何でも屋なんですよ。(笑)日本にいたときは、写真の現像所でプロの写真の焼き付け現像をしていましたが、イスラエルに来てから写真はデジタル化されたので、皮工芸の趣味が実益を兼ねました。その後ダイヤモンド取引所で18年間働き、次は弁当屋、通訳の仕事、現在は出前シェフの仕事で寿司から焼肉まで色々作っています。そしてイスラエルにいる日本人を集めては、居酒屋ナイトというイベントを主催しています。イベントでは10種類以上のおつまみを出し、日本人のために日本にいる時のような雰囲気づくりを心掛けています。他にもテレビのCMやドラマ、映画にも出演してるんですよ。



―――すごい!師範は何でもできるのですね!ちなみにお子様はいらっしゃいますか?
子どもは4人います。小さい頃は空手を習いたいと言っていたので、道着も買い週1回稽古をしていましたが長続きしませんでしたね。演武会や道場などにも、小さい頃に一度来たくらいです。残念ながら興味を示しませんでしたね。

―――それは残念ですね。では最後にイスラエルで好きなもの、ことを教えてください。
毎年ペサハの時に行くイスラエル北部のBustan Ha-Galilは、私や私の家族にとって憩いの場です。そこで私は朝練として瞑想やヨガ、空手を毎朝行います。今年はハイファの生徒たちと他流道場を借りて稽古をしたほか、もう一か所の他流道場でも稽古をしてきました。こうやって私たち家族は、各自好きなことをしてペサハの一週間を過ごします。イスラエルで好きな食べ物はシャワルマ(スパイスたっぷりの鶏肉を串刺しにし、ローストしたもの)やファラフェル、そしておばあちゃんが作ってくれるクスクスなどのモロッコ料理です。
―――師範、本日はありがとうございました!
川村明師範
円明館空手道