病院や医療機関には日々膨大な医療データが蓄積されていますが、その多くは十分に活用されていません。イスラエルの医療イノベーション会議では、AIによる診療の高度化やデータ活用の可能性に加え、患者のプライバシー保護やデータの利益を誰が得るべきかについて、専門家たちが議論しました。

医療データの90%以上が未活用?
イスラエル北部ハイファのランバム医療センターが開催したイノベーション会議で、医療データの活用をテーマとするパネルディスカッションが行われました。医療機関や企業、学術機関の関係者が参加し、データが持つ可能性と課題について意見を交わしました。
ランバム医療センターの小児集中治療部門の責任者で、同センターとイスラエル工科大学(テクニオン)のビッグデータ研究機関「TERA」に所属する研究者でもあるダニー・エイタン氏は、医療データの活用は十分に進んでいないと指摘します。

新しいデータ収集ツールが開発されるたびに、これまで知られていなかった知見が得られると説明し、データを収集・分析して初めて、その可能性が明らかになると強調しました。一方で、データ活用には大きな利益が期待できる反面、深刻な悪影響を及ぼすリスクもあると警告しています。
AIが医師の判断を支援する未来
医療データの活用が進めば、AIが患者の状態をリアルタイムで分析し、類似する症例や医学研究の結果と照らし合わせることで、医師の診断や治療方針の決定を支援できると期待されています。
ただし、小児集中治療の分野では、こうしたAIツールはまだ研究段階にあり、日常的な診療には導入されていません。技術の可能性だけでなく、安全性や誤った判断によるリスクを慎重に検証する必要があります。
イスラエルの医療保険組織マッカビでイノベーション・研究担当副社長を務めるミハル・ツォフマン・カッツ氏は、医療データを医療システムと国家にとっての「戦略的資産」と位置づけました。
病院の診療記録と、医療保険組織が長期にわたって蓄積した健康情報を組み合わせれば、患者の状態をより幅広く把握できる可能性があります。一方、データの活用には患者の信頼が不可欠であり、医療機関には情報を適切に管理する責任があると指摘しました。

AIは医師に取って代わるのか
フィリップスのオペレーション担当副社長で、フィリップス・イスラエルの社長兼CEOを務めるリオール・ボンフィス氏も、医療データの活用が医療の進歩に欠かせないと述べました。医療画像の分野では、すでにAIが大きな変化をもたらしているといいます。

ただし、AIの目的は医師を置き換えることではありません。最終的な判断を下すのは医師であり、AIは専門家の意思決定を支援する役割を担うべきだという考えを示しました。
患者のデータから誰が利益を得るのか
イスラエルのオノ・アカデミック・カレッジのタリア・ミロン・シャッツ教授は、患者が医師に伝えていない情報も、治療の質を左右すると指摘します。服薬状況や生活習慣などを患者が正確に伝えられなければ、適切な治療が難しくなる可能性があるためです。

患者が正直に話しても不利益を受けないと信頼できる環境をつくることが、より良い医療につながると同教授は説明しました。
また、患者が自分の医療データの利用に対して金銭を受け取る仕組みについては、慎重な姿勢を示しました。金銭による対価を設けるのではなく、データの利用が患者自身の治療や医療全体の改善にどう役立つのかを説明することが重要だといいます。
医療の未来を支える信頼関係
医療データは、AIと組み合わせることで診断や治療の改善、新たな医学的知見の発見につながる可能性を秘めています。しかし、その価値を生かすには、プライバシーの保護や適切な情報管理が欠かせません。
イスラエルでの議論は、医療の未来を切り開くのは技術だけではないことを示しています。AIの能力を最大限に生かすためには、医療従事者の専門的な判断と、患者が安心して情報を共有できる信頼関係の両方が必要です。
*本記事はイスラエルメディアynetの報道をもとに構成しています。


