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BUSINESS

戦時下でもイノベーションを止めないイスラエルのスマートモビリティ企業

オートモーティブワールド2024 イスラエルパビリオンレポート

by 新井 均 |2024年02月02日

1月24日から26日の3日間、東京ビッグサイトで ”オートモーティブワールド2024” が開催された。



今年のオートモーティブワールドではイスラエルパビリオンが設けられ、9社のイスラエル企業が参加した。イスラエルの南部ガザ地区での戦争は続いており、10月7日のテロ攻撃で拉致され、未だ解放されていない人質も130名以上残っている。また北部でも、隣国レバノンを拠点とするテロ組織ヒズボラからの攻撃が激しくなっており、周辺に住む大勢のイスラエル人は他の地域での国内避難生活を余儀なくされている。


国全体がそんな困難な状況であるにも関わらず、パビリオンに出展した9社以外にも単独で自社ブースを出展したイスラエル企業も複数あり、各社CEO、CTO、COOなどの幹部が大勢イスラエルから来日し、日本のパートナー企業とともに熱心に自社ソリューションの説明を行った。


イスラエルパビリオンの様子

初日の午後には展示会場の一隅に設けられた講演スペースで ”イスラエルセミナー” も開催され、冒頭Gilad Cohen(ギラッド・コーヘン)駐日イスラエル大使が挨拶をされた。大使はまず現在の状況に触れ、まだ解放されていない人質が130名以上いるがイスラエルは絶対にこの戦いに勝つと力強い言葉で述べられた。また、イスラエル経済はレジリエンスが強いこと、3月には成田ーテルアビブの直行便も週4便に増強して再開する予定であることなど、困難な状況にあっても日本とのビジネスに全力を尽くすと宣言した。


ギラッド・コーヘン駐日イスラエル大使

続いてイスラエル輸出機構から、Bracha Rapaport 氏がイスラエルのスマートモビリティーセクターの概要とエコシステムについて説明した。周知のように現在イスラエルには自動車メーカーは存在しない。しかし、自動車関連分野で253の企業が活躍しているそうだ。その1/4は初期の開発段階にあるが、残りは既にセールスのステージで活躍しており、2010年から2023年の累計で30Bドル(約4兆3500億円)の資金調達を実現している。


イスラエル輸出機構のBracha Rapaport氏

これだけの投資が集まるということは、世界が彼らに如何に期待をしているかを示していると言えるだろう。その30%はバッテリーなどEV関連、32%はセンサーや安全支援などの自動運転関連、38%が製造工程やセキュリティなど車両技術全般である。これらの技術を求めてVWグループ、GM、ホンダ、ヒュンダイなど世界の名だたるOEMやTier1企業がイスラエルに拠点を設け、開発やPoCを行っているそうだ。


続いて8社のイスラエル企業が次々に登壇し、自社のソリューションをプレゼンした。各社ソリューションの概要を以下にまとめる。


Imagry

従来の自動運転システムでは事前に作製された3D地図を利用し、車のセンサー、カメラからリアルタイムで取得する環境データと突き合わせながら、安全な運転操作・制御を実現する方式である。イマグリーのソフトウエアはリアルタイムでセンサー、カメラから取得する環境データから、優れた運転者の操作を学んだAIが理想的な自動運転計画を作成してそれに基づいて車を制御する。従って3D地図を用意することも、それを常に更新するという作業も不要となり、低コストな自動運転システムを可能にする。日本でも某OEMとPoC中。


InnerEye

人間の脳波を調べることにより、ドライバーの感情等をAIで評価し、いわば人間とAIとの共同作業となるスマートな運転支援システムの構築を目指す。既に基本技術は空港の荷物検査に応用され、X線画像を監視する職員の脳波から、人間が荷物の正常・異常を見分ける判断を脳波段階で読み取り、人間が判断結果に基づいてマウス操作をするよりも早くシステムが判断をすることで業務の効率化を実現している。


StoreDot

5分で100マイル走行分の急速充電を可能にするバッテリーを開発した。アノード電極材料にグラファイトに加えてシリコンが使われていること、セルのデザインに独自の工夫があることが特徴である。レアメタルを利用しないので、経済安全保障上の意義もある。急速充電サイクルを1000回繰り返してもバッテリーの劣化がないことを確認済。


Foretellix

自動運転ソフトウエアや運転支援システムの試験評価をする際、従来は地図ごとに詳細な定義をすることが必要だったテストシナリオを、Foretellixのツールは、”交差点で右折する” とか ”2車線の道路で早い速度の車に追い越される” というようなマクロな要求を入れるだけで、スピードが異なったり右折の角度が異なるなどの様々なケースのシナリオを自動生成する。ユーザーはその中からやりたいテストシナリオを選択すればよく、大幅なテスト業務の効率化が可能になる。


ProteanTecs

半導体の内部から、そのライフタイムを通じて継続的なモニタリングを行う革新的なソリューションを提供する。収集した新規データにAIを適用することで、電子機器の性能、品質、信頼性に関する実用的な洞察力と予測をあらゆる段階で取得できる。半導体チップのモニタリングなので、主要半導体製造企業のいる台湾が重要な拠点。


EVR-Motors

コイルを巻く芯(ステーター)の構造が台形で希少金属も使わない点に特徴がある小型軽量高出力のモーターを開発。30以上の特許を持ち、バイクから大型バス用まで、9KWから200KWまでの4つのファミリー製品を提供。バイクなどのモーター応用製品を大量に製造するOEMにはライセンス提供、少量の場合はモーター自体を販売するなど異なるビジネスモデルで展開。


Arbe

多くの自動車に搭載されているレーダー専用の高分解能レーダープロセッサとAIを用いた知覚(Perception)ソフトウエアを開発。従来同様のミリ波帯レーダーでもパワーを上げて受信データの解析処理を細かく行うことで、既存のレーダーでは12から256チャネルだったのに対してArbeでは2304チャネルのデータを解析可能。前方に”何かある”という探知レベルではなく、カメラのようにそれが障害物なのか、人間なのか、というところまで判別可能である。雨や雪などの天候に影響を受けることもない。ライダーの代わりになるとも主張している。


Valens

自動車内マルチメディア高速通信のHDBaseTという伝送プロトコルを開発。世界で200社以上が参加する MIPIアライアンスはValensの技術を標準規格として採用した。ノイズの多い車載環境のなかで2Gbpsから48Gbps以上の高速データ伝送に対応している。多量のセンサーデバイスやプロセッサが配備され、エッジ処理から集中処理に必要な車内高速伝送を実現する、自動運転車実現の基礎となる要素技術である。


Auroralabs

セミナーには参加しなかったものの、イスラエルパビリオンに出展した同社は、ソフトウエアのバグを発見するツールを開発している。従来はソフトウエアプログラムをテストする際にはその動作に外乱を与え、その結果を評価することで、バグの有無を判断してきたが、Auroralabsでは、エージェントとAIとを利用して動作中のプログラムの状態を見える化することで異常の可能性を検出している。産業系のサイバーセキュリティ技術に似た考え方である。


これら9社がイスラエルパビリオンに出展したが、それ以外にも単独で自社ブースを設けたイスラエル企業もあった。そのうちHAILOInnovizについても言及したい。


HAILO

優れたパフォーマンスのエッジAIプロセッサを提供している大企業。彼らの優れたプロセッサは、多数のカメラ、センサーからのデータをリアルタイム処理する必要のある自動運転や運転支援システム(ADAS)には不可欠である。


Innoviz

ライダーセンサーと知覚ソフトウェアの大手メーカー。ライダーの点群データには多くの情報が含まれ、それを解析することで、1台のライダーで取得するデータから、トップビュー、右から見た画像、左から見た画像、などを生成することが出来るという。既にフォルクスワーゲンと契約を結び、彼らの自動運転システムに搭載されるそうだ。自動車応用以外でも、日本ではゼネコンの大林組が大型クレーン先端からの監視に利用、中国では港湾の自動化に利用されているという。


これらイスラエル企業の多くは先週(1月10日から12日まで)ラスベガスで開催されたCESにも参加していたそうだ。戦時下という困難な状況下にあってもイスラエル企業は研究開発の歩みを止めず、ビジネスチャンスを失わないためにアメリカにも日本にもやってくる。革新的な技術、興味深いソリューションは無論のこと、彼らの決して諦めない姿勢にも心を動かされる。ただし、今後長期戦となったときの経済への影響も注意深く見てゆく必要があるだろう。