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BUSINESS

【連載】中東の小国からスタートアップ国家へ、イスラエル激動の2010年代 Vol.12

by Miho Nibe Messi |2022年07月04日

連載】中東の小国からスタートアップ国家へ、イスラエル激動の2010年代バナー

アラブの春からトランプまで、中東の政治へのソーシャルメディアの影響

2010年代は、ソーシャルメディア(以下SNS)が政治やニュースメディア、社会運動といった日常生活に深く浸透した10年だった。SNSプラットフォームは日常を生きる者たちに声を与え、市民ジャーナリズムを発展させ、伝統的なメディアの主張と社会的言説との乖離を明らかにしたが、やがてその役割は陳腐化していく。今章では「アラブの春(※1)」からトランプ前米大統領のツイッターまで、SNSがイスラエルや中東社会へ引き起こした影響を振り返る。


SNSイメージ

自由を象徴するツールから抑圧のツールへ

若者たちが独裁者政権を倒し、より自由で経済的に豊かな社会を築くという夢を実現させた「アラブの春」―――2010年代の中東は、SNSが牽引する希望に溢れたムーブメントで幕を開けた。現実に繋がりを持たない何百万人規模の市民が、力を合わせて政治的行動を起こすことがSNSにより可能となり、この超現代的な現象に対応できない従来の政治的権力構造への挑戦を勝利へ導いたのだ。


しかしSNSが「セールスファネル(※2)」化したときから変化は始まった。今日誰もが知るように、各プラットフォームがユーザーデータを収集し、広告主に商品の個別ターゲティングを提供するようになったのだ。すぐに政治家もこのモデルを利用し始め、政治がまるでブランドのように紹介される世界が作り出された。それから10年、中東諸国はSNS上で姑息な戦術を使って自国に有利な世論へ誘導するためのプロパガンダキャンペーンを展開し、それらに対する抗議と、民衆の組織化や情報共有を阻止するためのツール開発に余念がないようである。


ソーシャルメディアで情報が広がるイメージ

フェイクニュースと陰謀論の温床化

「アラブの春」は強権的な政権に警鐘を鳴らす役割を果たしたが、その後は逆に強権的な政権が商業化したSNSを武器として利用するようになった。近年中東で起きた抗議運動において、政府は街に出て取り締まりを行うより先にSNSを積極的に妨害している。最も過激な例は、2019年11月に1週間近くも国内のインターネットを遮断したイランで、同国はインターネットインフラとインターネットゲートウェイを同国軍隊と治安当局の管理下に置くという法案を最近制定した。


イスラエルも他の多くの民主主義国と同様、SNSの影響による海外からの国内選挙への干渉や、SNSを使って対立候補や司法制度、ニュースそのものを非難する指導者たちと闘っている。SNSによる影響は増大する一方で、ついに2019年にはFacebookのマーク・ザッカーバーグCEOが米国議会に呼び出され、「世界中の民主主義政権の崩壊を進めている」として同社の役割を問われる事態まで起きている。


Facebookのマーク・ザッカーバーグCEO

トランプ前大統領とネタニヤフ前首相のSNS戦略

SNSプラットフォームはユーザーが視聴するコンテンツを選択するため、独自の指標と基準によるアルゴリズムを使用していて、それらがどのストーリーや投稿がフィードに表示されるかを決定する役割を担っている。そしてこの現象を政治に応用することが、社会の二極化を増幅している主な理由の一つであると考える有識者は多い。結果、異議を唱える人々の目に触れないまま陰謀論や偽情報が流行することを可能としたからだ。


ドナルド・トランプは、ソーシャルメディアとの関係によって、当選と政治活動が定義されてきた政治家である。そしてネタニヤフ前イスラエル首相は彼から直接選挙運動のヒントを得ていた。トランプ氏とネタニヤフ前首相はソーシャルメディアを使って、従来のメディアが自分を批判すると「フェイクニュース」として、時には自身の支持団体さえも攻撃した。その強気の姿勢は、自身のメッセージをターゲットとする視聴者に直接届けることができるというソーシャルメディア上の影響力を信じていることを浮き彫りにしている。


大手SNSは国内外での虚偽の政治的影響力キャンペーンを取り締まるため、自主規制措置をとっている。Facebookは2018年、AIを使って作成されたIDを使用したとして、親トランプの陰謀サイトに関連する600以上のアカウントを削除し、2019年2回目のイスラエル首相選挙期間中にはチャットボットによる選挙法違反があったとしてネタニヤフ首相の公式ページを停止している。またTwitterは2019年、ネタニヤフ前首相の再選キャンペーンをバックアップするネットワークに関連する258のアカウントをブロックしたと報告した。


フェイクニュースのイメージ

SNS主導型政治の限界

2010年代後半のイスラエルにおける政治的行き詰まりは、SNS主導の政治の副産物でもあるといえるだろう。12年間の長期政権となったネタニヤフ前首相が退陣に至るまで実に2年間で4回の選挙が行われたが、ネタニヤフは自身の基盤を活性化し、自身に反対を唱える者の信用を失墜させ、自身に対する法的手続きを攻撃し、権力を維持するために大げさなレトリックでSNSをフル活用したが、分断を生むその手法により求心力は低下し続けた。


SNSを規制する現在の取り組みがこのような状況に希望をもたらすいう考え方もあるが、業界内の自主規制は内部の利益によって制限されるため、楽観視はできないだろう。現在の状況から利益を得て権力を握っている人々には、この状況を打破するメリットがほとんどないからである。


※1:2010〜12年に中東・北アフリカ地域の各国で本格化した一連の民主化運動を指す。この運動によって、チュニジアやエジプト・リビアでは政権交代が起こり、その他の国でも政府が民主化デモ側の要求を受け入れることとなった。

※2:潜在顧客が商材を購入に至るまでのプロセスを認知・興味・比較検討・購入までの各ステップにわけ、漏斗(ファネル)に例えて定義したもの。


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