犬の年齢は誕生日だけでは測れないかもしれません。テルアビブ大学の研究チームは、900匹以上の家庭犬の腸内細菌を解析し、腸内環境から「生物学的年齢」を推定できる可能性を示しました。愛犬の健康管理だけでなく、人間の老化研究にも新たな知見をもたらすとして注目を集めています。

愛犬の腸が語る“本当の年齢
私たちは普段、犬の年齢を誕生日から計算しています。しかし実際には、同じ年齢の犬でも健康状態や老化の進み方には大きな差があります。
イスラエルのテルアビブ大学を中心とする研究チームは、この違いを腸内細菌(マイクロバイオーム)が映し出している可能性に着目しました。研究を主導したのは、医学・健康科学部とコンピューターサイエンス・人工知能学部に所属するエルハナン・ボルンシュタイン教授です。
研究チームは922匹の家庭犬を対象に腸内細菌を調査し、年齢とともに腸内環境がどのように変化するのかを明らかにしました。

900匹以上の犬から見えてきた老化のサイン
近年、腸内細菌が健康に与える影響についての研究が急速に進んでいます。腸内には数多くの微生物が生息しており、消化や免疫機能だけでなく、代謝や老化にも関わっていることが分かってきました。
今回の研究では、922匹の犬の便サンプルを分析し、腸内細菌の種類や構成を詳細に解析しました。
その結果、年齢は腸内環境を左右する最も重要な要因の一つであることが判明しました。犬が年齢を重ねるにつれて腸内細菌の多様性は低下し、特定の細菌群の割合が変化していくことが確認されたのです。
こうした変化は、人間の加齢に伴う腸内環境の変化とも共通点が多く、研究者たちの関心を集めています。

AIが導き出す「生物学的年齢」
研究チームはさらに、人工知能(AI)を活用した機械学習モデルを開発しました。
このモデルは、犬の腸内細菌の構成データから年齢を推定する仕組みです。研究に参加した犬のデータで学習させた後、別の犬のグループで検証したところ、高い精度で年齢を予測することに成功しました。
研究者たちは、これを「マイクロバイオームに基づく生物学的時計」の第一歩と考えています。
実年齢と体の老化度合いが必ずしも一致しないのは、人間でも同じです。腸内細菌を調べることで、見た目や年齢だけでは分からない健康状態や老化の進行度を把握できる可能性があります。
食事が腸内環境を大きく左右する
研究では、食事の違いも腸内細菌に大きな影響を与えることが分かりました。
市販のドッグフードを食べている犬と手作り食を中心にしている犬では、腸内細菌の構成に明確な違いが見られました。また、犬特有の行動である食糞(しょくふん)もマイクロバイオームに影響を及ぼしていました。
さらに興味深いことに、腸内細菌の状態は血液検査や尿検査の結果とも関連していました。場合によっては、犬種や性別、体重よりも腸内細菌のほうが健康状態を説明する指標として強い相関を示したといいます。
将来的には、腸内細菌の分析によって病気のリスクや老化の兆候を早期に発見できる可能性も期待されています。

なぜ犬の研究が人間の未来につながるのか
犬は近年、老化研究における重要なモデルとして注目されています。
その理由は、人間と同じ家庭環境で暮らし、似た食生活や生活習慣を共有している一方で、人間よりもはるかに速いスピードで老化が進むためです。
人間の老化研究には数十年単位の観察が必要ですが、犬の場合は比較的短期間で加齢の変化を追跡できます。そのため、犬の研究から得られた知見は、人間の老化や健康寿命の研究にも応用できる可能性があります。

イスラエルが挑む健康長寿の科学
イスラエルは、生命科学、人工知能、データサイエンスを組み合わせた研究分野で世界をリードしています。今回の研究も、その強みが生かされた事例の一つです。
ボルンシュタイン教授は、「今回の研究により、犬の腸内細菌の大規模な基準マップを初めて構築することができました。将来的には犬の健康維持だけでなく、人間の老化メカニズムの理解にも貢献する可能性があります」と述べています。
研究対象となった犬たちは現在も継続的に追跡調査が行われており、今後は病気の発症や健康寿命との関係についても明らかにされる見込みです。
私たちの最も身近なパートナーである犬。その腸内に暮らす微生物たちの研究が、いつの日か人間の健康長寿を支える新たな鍵となるかもしれません。
*本記事はイスラエルメディアynetの報道をもとに構成しています。


