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Art

自由落下

by As Promised Magazine |2020年09月21日

恐怖の瞬間、しかし最大の恐怖を必要とする瞬間を捉えた、Tal Rの「Natten (夜)」



「”馬に乗っていられない人たち”、それは、Natten(夜)と題された、Tal Rの一点ものの展示作品です。この画廊 (Magasin III Jaffa / 訳注: テルアビブにあるアートギャラリー) のことが、絵を描き始める前から頭の中にありました。この画廊の中で作品はどう見えるのか、そして夜中に、画廊のショーウィンドを通してどう見えるのか、私はそこからまず考え始めたのです。」


この画廊のキュレーターであるDavid Neuman氏は、その画廊に一点だけしか展示物を飾らない、などという事はこれまで認めてきませんでした。しかしTalは、それを説得したのです。


「一点の作品を完成させる過程は、私にとって、まさに学びの過程でもあります。私は、その絵をスーツケースに詰め、彼を説得しに訪れました。しかし、多言を弄する必要などありませんでしたね。ポイントを整理してちゃんと説明すれば済むことだったんです。」


青春時代の様々な時期に感じていたアウトサイダーとしての感情を彼は振り返ります。


「私の名前であるTalは、ヘブライ語では雫の事なのですが、スカンジナビア語では数の意味になります。」


デンマークで過ごした子供時代、クラスメイトたちは、彼の名前の本当の意味を知りたがりました。ユダヤ人のあまりいない環境の中で子供時代を過ごすのは、彼にとってもなかなか苦労の絶えない事でもありました。


「まあ子供というのは、自分たちと違う事を嫌いますよね。でも、大きくなるに従い、気付き始めたんです。アウトサイダーでいられる、っていう事は、その閉ざされた谷にいる自分を外から眺めることができるという事だ、という事にね。因みに、ちょっと脱線しますが、ドイツ語でTalは谷のことです。何にせよ、その閉ざされた谷にいて、且つ自分の存在自体を外から客観的に眺めることができるという事は、とても優れた環境でしたね。何しろ、もう一つの目で、物事を二度に渡って見ることが出来る訳ですから。」


Natten (The Night), 2019, Oil on canvas. Photos by Noam Preisman

育った環境の様々な歴史に影響を受けながら彼が学んだ事は、「あらゆる優れた芸術作品は、混ざり合う事のない様々な要素から出来上がっている」という事でした。


「二つの要素が切り離されている状況に常に置かれる、という状況を考えてみて下さい。その状況に諦めを持って受け入れてしまうか、その異なる二つの要素に橋渡しをするか、芸術家としてはその2択になりますよね?そしてその橋渡しの部分、即ち、自分でどう考え、感じているのかを、もう一つの要素に伝えていく過程こそ、私にとって芸術そのものを生み出す過程だと思っているのです。何を言うべきかを考え、それをどう言うべきかを考える。それこそが、新たな芸術を生み出す過程なのです。中でも重要な事は、その中で何かを失っていく事。すべての芸術学校の門にはこう書かれています。『与える事、それは何かを失う事である』と。」


作品Natten(夜)について、彼はこう語ります。


「子供でも、15歳くらいになれば明確な情景を描くことが出来るようになります。この絵の中には、馬に乗ろうとして、何らかの理由で馬から落ちそうになっている人々が描かれています。作品中央下、水平な線は湖を表しています。馬上の人たちは、この湖を馬で渡ろうとして果たせなかった人たちなのです。」


この絵は何を描こうとしているのか尋ねたところ、いや、それは私にとってもミステリーな部分なんです、と言う答えが返ってきました。その作品を理解しようとする姿勢において、自分は絵描きではなく、その絵を見ている人たちに近い存在なんだと話します。


「その作品の作家自身であれば、その作品の表現したいことをちゃんと説明できる、というのは、世間一般が芸術家たちに対して持っている結構一般的な誤解点だと思いますよ。」


この作品は、実際の感情としても、また隠喩的なモチーフとしても、落馬の恐怖を描いていますが、それでも疑問は残る訳です。落馬してしまいそうな時、あなたならどうしますか?と。


Tal R

https://www.talr.dk/