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SOCIAL INNOVATION

愛は紛争の境界を越えられるか? イスラエル出身の写真家が記録する、対立地域に生きるカップルたち

by ISRAERU 編集部 |2026年11月05日

イスラエルとパレスチナ、南アフリカ、北アイルランドなど、紛争や対立の歴史を持つ地域で暮らすカップルたち。写真プロジェクト「Love Zone」は、愛する人との関係を通して、対立が人々の日常に及ぼす影響を伝えています。


ハダス・イツコヴィッチとアニャ・ファン・リート

紛争を「人と人との関係」から見つめる

「Love Zone」は、イスラエル出身のハダス・イツコヴィッチとオランダ出身のアニャ・ファン・リートによる写真プロジェクトです。人生のパートナーでもある2人は、2012年から共同で活動し、写真を通じて社会的なテーマを取り上げてきました。


演出を取り入れた写真やパフォーマンス、映像表現を手がけてきたハダスと、ドキュメンタリー写真や報道写真を背景に持つアニャ。異なる経験を生かしながら、社会の問題を個人の視点から見つめています。


「Love Zone」が注目するのは、紛争や政治的対立の影響を受けながら暮らすカップルたちです。異なる背景を持つ2人が愛し合うとき、社会の対立はどのように日常生活に入り込むのでしょうか。写真とインタビューを組み合わせ、当事者の言葉を通してその現実を伝えています。


ギャレットとレン
ギャレットとレン

イスラエルとパレスチナのカップルから始まった

プロジェクトの出発点は、10年以上前のイスラエルでした。写真家たちの身近にいたイスラエル人とパレスチナ人のカップルを撮影し、彼らの関係を取り巻く環境にも目を向けるようになりました。


インタビューでは、紛争が2人の関係にどのような影響を及ぼすのか、周囲の人々は2人をどのように受け止めているのかといった問いを投げかけています。個人の恋愛や家族の物語をたどることで、ニュースや政治的な議論だけでは見えにくい、対立の具体的な影響が浮かび上がります。


作品に使われているのは、白黒写真です。写真家たちは、現実は白か黒かの二択ではなく、その間に多くのニュアンスが存在することを表現しようとしています。「私たち」と「彼ら」という単純な線引きでは捉えきれない人間関係を、見る人に問いかけます。


スーザンとジョナサン
スーザンとジョナサン

世界各地のカップルが語る、愛と偏見

撮影の舞台はイスラエルにとどまりません。アパルトヘイト後の南アフリカ、北アイルランド、ボスニア・ヘルツェゴビナ、韓国、トルコなど、異なる歴史や政治的背景を持つ地域へと広がっています。展示では、さまざまな対立地域で暮らす36組のカップルの肖像と、それぞれの物語が紹介されています。


ヤン・ロックとジヨン
ヤン・ロックとジヨン

南アフリカのアルフォンソとエマも、その一組です。アパルトヘイト時代に「カラード」に分類されたアルフォンソは、ケープタウンの厳しい環境の地域で育ち、9歳でストリートギャングに加わり、14~15歳の頃には逮捕された経験もあります。その後、立ち直りを支援するサーフィンプログラムに参加し、プロサーファーになりました。エマと出会い、2人は子どもを育てています。


エマとアルフォンソ、「Love Zone」
エマとアルフォンソ、「Love Zone」。Photo:ハダス・イツコヴィッチ、アニャ・ファン・リート

しかし、2人が一緒に歩いていると、今でも車を止めた人がエマに「助けが必要なのか」と尋ねることがあるといいます。そこには、人種に対する偏見が社会に残り続けている現実が表れています。


北アイルランドのシャロンとスティーブンの物語も、紛争が個人の人生に残す傷を伝えます。プロテスタントのスティーブンは18歳のとき、父親が命を落としたIRAによる爆破事件で負傷しました。後年、事件の実行犯がシャロンの故郷の村の出身者だったことが分かりましたが、誰も起訴されませんでした。それでも2人は関係を築き、スティーブンはシャロンが通うカトリック教会にも足を運んでいます。現在、2人は和解を訴える活動にも取り組んでいます。


人と人とのつながりが境界を変える

写真家たちは、撮影される人々の安全と意思を尊重しています。状況によっては、本人が特定されない形で撮影することもあります。対立や紛争を扱う作品だからこそ、被写体となる人々が置かれた環境への配慮を欠かしません。


サファクとメルテム
サファクとメルテム

プロジェクトには人物写真だけでなく、風景写真も含まれています。土地は誰のものなのか、植民地支配や国境は人々の生活をどのように形づくってきたのか。カップルの物語と土地の風景を組み合わせることで、個人の関係を超えた問いも提示しています。


写真プロジェクト「Love Zone」で展示される対立地域の風景

写真プロジェクト「Love Zone」で展示される霧に包まれた風景

ハイファの文化施設で開催、国境を越えて広がる写真展

「Love Zone」は現在、イスラエル北部ハイファの文化施設ベイト・ハゲフェンで展示されています。オランダ大使館の支援を受けて開催されており、写真家たちは、異なる人々が出会う場として同施設を選びました。


2人は11月13日と14日の週末にも現地を訪れ、トークや交流の機会を設ける予定です。今後はボスニア・ヘルツェゴビナの国立博物館や南アフリカでの展示も予定され、韓国での開催も目指しています。また、次のプロジェクトでは、オランダで暮らす難民女性をテーマに取り組む計画です。


写真プロジェクト「Love Zone」で展示される一本の木が立つ風景

写真プロジェクト「Love Zone」で展示される山と湖の風景

紛争の歴史や政治的な立場は、人々の関係に複雑な影響を与えます。それでも、写真に写るカップルたちの物語は、対立の構図だけでは語りきれない現実を伝えています。身近な人を愛し、ともに生きるという個人の経験から、社会の分断を見つめ直す。それが「Love Zone」の試みです。


*本記事はイスラエルメディアPortfolioの報道をもとに構成しています。