100メートルを超える深海に息ひとつで挑み続けるフリーダイバーであり、イスラエルのスタートアップとも深く関わってきた原哲雄さん。海の中で学んだ「自分と向き合う力」と、イスラエルで出会った「なぜを問い続ける文化」。一見異なる二つの世界には、挑戦を続けるための共通した哲学がありました。

フリーダイビングとの出会い
今年6月まで電子部品メーカーSMKで役員を務め、現在は宇宙関連企業やジェットスーツ開発企業など複数のスタートアップのアドバイザーとして活動している原哲雄さん。彼は長年にわたり、フリーダイビングにも取り組んでいます。
2025年には、フィリピン・セブで開催された大会にてコンスタントウェイトで-113mを達成。58歳235日という世界最高齢で水深-100mに到達し、ギネス世界記録にも認定されています。
もともとは大学時代から40歳頃までウインドサーフィンに熱中し、海に出ることが日常だった原さんは、風のない日に潜ることを楽しむうちに、自然とフリーダイビングの世界へ引き込まれていったといいます。
現在も湘南エリアを拠点に練習を続け、日本だけでなくバハマ、ハワイ、アメリカ西海岸、フランス、イタリア、ベルギー、韓国、フィリピン、そしてイスラエルなど、世界各地で潜り経験を積み重ねてきました。

深海で向き合うのは自分自身
フリーダイビングの魅力について尋ねると、原さんは「無になれるフリーフォールの時間です」と答えました。
深度30メートルを超えると身体の浮力が失われ、何もしなくても海底へ向かって落ちていきます。ロープだけを見つめ、余計なことを考えずに海の中に身を委ねる時間。
「その瞬間が一番気持ちいいんです」

しかし、その静寂の中では自分自身とも向き合うことになります。
もっと深く潜りたい。記録を出したい。人に認められたい。そうした欲やエゴが次々と浮かび上がってくることもあります。
「無理をすると事故につながります。だからこそ、自分が本当に何を求めているのかを理解することが大切なんです」
現在の原さんにとって、フリーダイビングは単なるスポーツではなく、「柔道や剣道のように『道を究めること』に近いかもしれません」。かつては多くのダイバーが目指す100メートル到達という目標を追い求めていましたが、今は記録そのものよりも、自分自身を磨き続けることに価値を感じているそうです。
イスラエルとの出会いはビジネスから
原氏とイスラエルとの関わりは、ビジネスがきっかけでした。
SMK時代、イノベーションセンター長としてイスラエルのスタートアップ企業との協業や投資を担当。現地企業とのネットワークを、ゼロから築き上げていきました。
「投資先や協業先を探す中で、自然とイスラエルとの関係が深まっていきました」


その後、フリーダイビングのコミュニティを通じても交流が広がり、紅海に面したエイラットで現地のフリーダイバーたちと潜る機会もありました。
「砂漠の中に突然海が現れるような景色で、とても印象的でした。海の透明度も高く、本当に美しい場所です」
実際に訪れてわかったイスラエルの魅力
イスラエルを訪れる前は、多くの日本人と同じように紛争や安全保障のニュースから受ける印象が強かったといいます。
しかし、実際に現地を訪れてみると、その印象は大きく変わりました。
「とにかく人がフレンドリーなんです。初対面でもすぐに家へ招いてくれたり、気軽に話しかけてくれたりします」

また、イスラエル人の思考スタイルにも強い印象を受けたそうです。
「彼らは常に『なぜ?』を問い続けます。上司に言われたからやるのではなく、本当に必要なのか、合理的なのかを徹底的に考えるんです」
納得すれば全力で行動する一方で、納得できなければ簡単には動かない。その姿勢は日本人との大きな違いでもありました。

日本とイスラエルは補完し合える存在
長年イスラエル企業と関わってきた原氏は、日本とイスラエルには理想的な補完関係があると考えています。
「イスラエルはゼロから1を生み出す力が非常に強い国です。一方、日本は1を10に育てることが得意です」
革新的な技術やアイデアを生み出す力と、それを品質の高い製品やサービスとして社会に実装する力。その両方が組み合わされば、大きな可能性が生まれると考えています。
「実際にイスラエルの企業も日本企業の強みをよく理解しています。今後、さらに協力の機会は増えていくと思います」

成果を生み出す人に共通すること
フリーダイビングとビジネス。一見するとまったく異なる世界ですが、原さんは共通点があると語ります。
それは「本当に重要な課題を見極めること」です。
「人はつい、あれもこれもやろうとしてしまいます。でも成果を左右するボトルネックは、実は1つか2つしかないことが多いんです」
フリーダイビングなら耳抜きや呼吸法、肺の柔軟性。ビジネスなら経営課題や市場のニーズ。その本質を見極め、優先順位をつけて取り組むことが成長につながるといいます。
「企業の課題も、本当に重要なものは数えるほどしかありません。そこに集中できるかどうかが大切なんです」

もっとイスラエルを知って欲しい
最後に、日本とイスラエルの未来について尋ねると、原さんはこう語りました。
「もっと多くの日本人にイスラエルを身近に感じてもらいたいですね。食文化でも音楽でも、まずは興味を持つことから始めればいいと思います」
ニュースでは伝わらない人々のあたたかさや、多様な文化、革新的な発想力。実際に現地を訪れた人の多くが、抱いていたイメージとの違いに驚くといいます。

海の深淵に挑みながら、自分自身と向き合い続け、イスラエルとの新しいビジネスにも踏み出そうとしている原哲雄さん。現在、原さんがアドバイザーを務めるジェットスーツのスタートアップの代表は、わずか19歳の若者だそうです。
世代を超えて、若者の挑戦をサポートし、未来へと導いていく姿勢は、フリーダイビングで未知の領域へチャレンジしていく姿と重なります。
https://www.instagram.com/tetsuo_hara


