「水をあげる」という農業の常識が、大きく変わろうとしています。イスラエルで発展した精密灌水技術は、水と肥料をデータで管理し、植物に必要なものだけを必要なタイミングで届ける仕組み。実際に日本で導入したブルーベリー農園では、植え付けからわずか約1年で収穫を実現しました。ブルーベリー収穫の最盛期、データが農業を変える現場を取材しました。

必要なデータを可視化してすぐに対応
精密灌水を利用した農業の最大の特徴は、あらゆる情報を数値で把握できること。日射量、気温、湿度、培地の水分量などがリアルタイムで可視化され、すぐに対応できるようになります。
千葉県山武市で新規就農し、2026年初夏に初収穫を迎えた喜納寛子さんと矢作卓也さんご夫妻。
「もし問題が起きても、データを見れば原因を検証できます。経験や勘だけに頼らなくていいのは、大きな安心感があります」と語ってくれました。
再現性の高い栽培ができることが、このシステムの大きな強みと言えるでしょう。

わずか1年で初収穫
一般的な露地栽培では、ブルーベリーの本格的な収穫まで3〜5年かかると言われています。しかし、おふたりが営むBluemate Farmでは、2025年2月に植えた苗から、約1年後には1本あたり約1kgを収穫することができました。
さらに驚くのは、収穫後も樹勢が衰えていないことです。通常、幼木に多く実を付けると樹木への負担が大きくなります。それでも勢いよくシュート(新梢)が伸び続けているのが驚きで、来年もたくさんの実りが期待されます。
「必要なタイミングで、必要な水と肥料を与えられている結果だと思います」。初めての農業で期待以上の収穫が得られたことに、おふたりも精密灌水のパワーを実感していました。
肥料も”オーダーメイド”の時代へ
従来の農業では、年に数回まとめて肥料を施す方法が一般的でした。一方、精密灌水では、生育段階に応じて養分を自由に調整できるようになります。
たとえば
・木を大きく育てたい時は窒素を増やす
・果実の糖度を高めたい時はカリウムを増やす
・樹勢を維持したい時は必要な成分を重点的に補給する
植物の状態に合わせて”処方”を変えられることが、大きな特徴です。
このシステムは、遠隔操作にも対応しています。外出中でもスマートフォンなどからデータを確認し、灌水量や設定を変更できるのです。「急な天候変化にも即座に対応できるため、安心して農園を離れることができます」。

さらに、日本ではまだ十分に蓄積されていないブルーベリー栽培データを蓄積できる点にも期待しています。
「毎年データを積み重ねることで、日本の気候に合った最適な栽培方法が見えてくると思います」
人の手で一粒ずつ選別されて出荷されるブルーベリー
収穫したブルーベリーは、自宅脇の作業場へ移し、粒の大きさによって選別する作業が行われます。選別自体は機械を利用しますが、その後、人の手によって潰れそうな傷んでいる果実を選別。機械に頼ることなく、一粒ずつ人の手で選り分けられています。


Bluemate Farmオリジナルの容器にパック詰めされたブルーベリーは、出荷されて消費者のもとへ。美味しさはもちろん、健康志向のニーズにも応えるフルーツとして、年間を通じて大量に消費されています。

実は、喜納さんのお腹には新しい生命が宿り、秋に出産をひかえています。この初収穫は、家族3人で迎えたという、このうえない歓びに満ちたものになりました。

AIが農業をもっと身近にする
おふたりが今後期待しているのが、AIとの連携です。ネタフィムに蓄積されたデータをAIが分析することで、より適切な灌水や施肥を自動で提案する未来も見えてきています。
「人手不足に悩んでいる農家や、規模を拡大したい農家には特に役立つと思います」
ブルーベリーは、水と肥料の管理が品質を大きく左右する作物です。だからこそ、一本一本に均一な養液を届けられる精密灌水は、大きな武器になるでしょう。 イスラエル発、ネタフィムで培われた灌水管理技術は、日本の農業に新しい可能性をもたらそうとしています。
次回予告
第4回は、イスラエル発の精密灌水システムが、どのように日本の農業を変えていくのか、その可能性に迫ります。


