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シャロームアカデミー 「日本とイスラエルは補完関係が非常に強い」― 樋原伸彦氏が語る起業家精神と未来のイノベーション【後編】

by Keiko |2026年06月10日

早稲田大学 大学院経営管理研究科において、世界各国の大学院生にベンチャーキャピタル、スタートアップ・エコシステムについての講義を行い、学生を連れてイスラエルを視察するなど、幅広い活動を通じて次世代の才能を導いている樋原伸彦准教授。インタビュー【後編】では、イスラエルと日本を結ぶ活動について伺いました。


早稲田大学 大隈重信銅像前の樋原伸彦准教授

ベンチャーキャピタルをきっかけにイスラエルに注目

―――先生がイスラエルに関心を持たれたきっかけとは?


はじめはベンチャーキャピタル研究からです。ベンチャーキャピタルを“政策的に生み出す”ことに成功した数少ない国がイスラエルなんですね。その中心にあったのが、政府主導の民間VC育成プログラム「ヨズマ・プログラム」です。


私はもともとベンチャーファイナンスを研究していたので、「どうやってイスラエルはVCエコシステムを生み出したのか」という点に強く興味を持ちました。それが、イスラエルとの最初の接点です。


初めてイスラエルを訪れたのは、2011年でした。
ちょうど2011年3月11日、東日本大震災の日だったんです。


―――えっ、まさにあの日ですか?


そうです。テルアビブに滞在していて、朝起きたらCNNで津波の映像が流れていました。最初は、「もう日本に帰れないんじゃないか」と思いましたね。ただ、そのときすでに何日間か現地で多くの方にインタビューをしていて。すると皆さんが「家族は大丈夫か」「何かできることはないか」と、本当に親身に連絡をくださったんです。


そのときに、イスラエルの人たちの距離の近さというか、オープンさを強く感じました。アポイントメントもそうですよね。イスラエルでは、その場で次の人を紹介してくれる。本当にスピードが速い。


―――日本人からすると驚くくらい速いですよね。


そうなんです(笑)。


でも、私は日本人とイスラエル人って、実はかなり相性がいいと思っているんです。アメリカ人やヨーロッパ人より、むしろ自然に関係性がつくれる感覚がある。イスラエル人は、知らない人同士でもすぐ話しますし、紹介もする。あのオープンマインドは、日本に足りない部分でもあると思います。


早稲田大学 大隈記念講堂

―――スタートアップ文化に関して、日本とイスラエルでどんな違いを感じますか?


一番大きいのは、「まず試してみる」という姿勢ですね。イスラエルでは、完璧な計画がなくても、とにかく始める。ダメだったらすぐ方向転換する。それが社会全体に染み込んでいます。


日本の場合は、どうしても「120%成功する確証」が求められる。しかも、大企業ほどいったんはじめたことは失敗と認めたくない。その結果、ずるずるとプロジェクトが続いてしまうことは多いです。


でも、本来イノベーションは、小さな試行錯誤の積み重ねなんですよ。イスラエルは、その“試行回数”が圧倒的に多い。これはまさに、エフェクチュエーション的な思考です。


今あるリソースから始める。自分がコントロールできる範囲で、小さく動く。仲間を巻き込みながら、少しずつ形にしていく。


その積み重ねが、結果として大きなイノベーションにつながっているんだと思います。


早稲田大学 研究室での樋原伸彦准教授

イスラエルで刺激を受けた日本の学生たち

―――実際に、学生をイスラエルへ連れて行かれたこともあるそうですね。


はい。コロナ禍の前ですが、イスラエル外務省のヤングリーダーシッププログラムで、学生たちを連れて行きました。20人弱くらいだったと思います。


やはり、みんな「スタートアップネーション」と呼ばれる現場を実際に見ることで、大きな刺激を受けていました。
その後、本当に起業した学生もいますし、大企業を辞めて新しい道へ進んだ学生もいます。


―――人生が変わったんですね。


そうですね。もちろん全員ではないですけど、毎年ゼミ生を見ていると、6人に1人くらいは大きく方向転換していく印象があります。
最近の若い世代は、「大企業に入れば安定」という感覚がかなり薄れています。だからこそ、自分で何かを始めようとする人は、以前より確実に増えていると思います。




AIによってスタートアップは加速するのか?

―――AI時代のアントレプレナーシップについては、どうお考えですか。


私はかなり楽観的です。AIによって、起業のハードルはさらに下がると思っています。以前は、大きな資本や人員が必要だったことが、今は少人数でもできるようになっている。それはクラウドやSaaSが広がった時代と同じ流れです。


ただ一方で、人間にしかできない価値もより重要になります。最近は「ヒューマン・プレミアム」という言い方がされますが、AIができない部分に、人間がどう価値をつけていくか。そこが、これからのビジネス教育で最も重要になると思っています。


AIを使いこなすことは前提。その上で、自分にしかできない価値をどうつくるか。そこに起業家精神もつながっていくんじゃないでしょうか。


イスラエルと日本は人材交流や共同プロジェクトで高め合える

―――イスラエルに関心を持つ日本の学生や研究者へ伝えたいことは?


日本では、イスラエルというと、安全保障や紛争の話題ばかりが取り上げられがちです。でも、それだけではありません。

イスラエルは、世界でも稀有なスタートアップエコシステムをつくり上げた国です。どうやってベンチャーキャピタルを育てたのか。どうやって起業家を生み出しているのか。そういった経済・イノベーションの側面にも、ぜひ注目してほしいですね。


とくに日本は、イスラエルと補完関係が非常に強いと思っています。日本企業には、大企業としての運営能力や製造技術がある。イスラエルには、スピード感や挑戦する文化がある。これらは非常に補完的です。


だからこそ、今後もっと両国の人材交流や共同プロジェクトが増えていくと面白いと思っています。


樋原伸彦氏と“スタートアップ大国”イスラエルを訪れ、多くを学んだ学生たち

―――最後に、これから国際的に活躍したいと思っている若い世代へメッセージをお願いします。


まずは、英語でコミュニケーションできることですね。それができるだけで、世界との距離は一気に縮まります。


そして、組織に依存しすぎないこと。日本はどうしても「組織対組織」で動こうとしますが、海外では「個人対個人」の関係性がとても重要です。


イスラエルもそうですが、結局は人と人なんです。だから、自分自身として動けること。小さくても、自分で試してみること。その積み重ねが、これからの時代はますます重要になると思っています。



金融の世界を皮切りに、学術や教育の分野へ転身し、従来の常識に縛られることなく、常に自分の求める道を切り拓いてきた樋原伸彦氏。先駆者が語ったイスラエルに学ぶ起業家精神は、これからスタートアップを志すイスラエルや日本の若者にとって、力強いメッセージとなりました。


『シャロームアカデミー』では、今後もさまざまな大学の研究者や学生へのインタビューを通じて、未来を創造するためのインスピレーションをお届けしていきます。ご期待ください。


【PROFILE】
樋原伸彦 Nobuhiko Hibara


樋原伸之氏

早稲田大学 大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授


東京大学教養学部卒業。東京銀行(現三菱東京UFJ 銀行)、世界銀行コンサルタントを経て、2002年にコロンビア大学大学院博士課程修了。PhD(Economics)。 2002年からサスカチュワン大学(カナダ)ビジネススクール助教授。2006年から立命館大学経営学部及びテクノロジー・マネージメント研究科准教授。2011年より現職。その間、コロンビア大学ビジネススクール日本経済経営研究所助手等も歴任。


専門はベンチャーキャピタル、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)、スタートアップ・エコシステム、エフェクチュエーション・ロジックなど。
早稲田大学イノベーション・ファイナンス国際研究所(https://cfi-wbs.com/)所長、日本エフェクチュエーション協会代表理事、日本イスラエル商工会議所(JICC)理事、稲盛フェロー(2008-2009)、稲盛経営の現代的意味を考える研究会代表、大学ファンド外部審査委員会(経産省)委員、(株)スケールアウト社外取締役、(株)YHTG社外取締役など多数併任。