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CULTURE

AIは道具ではなく共犯者。 フィルムメーカー、ラフィ・ショールが語る創造の現在地

by SHIYA AVNAT |2026年05月21日

テルアビブを拠点に活動するフィルムメーカー、ラフィ・ショールは、AIを使った映像制作の分野で現在、頭⾓を現している注⽬のクリエーターです。しかし彼⾃⾝は「AI作家」という肩書きを軽やかに笑い⾶ばします。彼にとってAIとは技術の話ではなく、クリエイティビティの⼀部であり肩書とはどうやら違うようです。テルアビブの昼下がり、⼼地の良い⽇差しの中で彼の話を伺いました。


ラフィ・ショール

はじまりは砂漠のカメラから

──映画制作を志したきっかけを教えてください。

⼦どもの頃からテレビや映画が⼤好きでした。それで⽣計を⽴てられると知ったときは、正直ちょっと驚きでしたね。サインフェルドを⾒て育ったので、僕の英語のベースは彼です(笑)。本格的にこの道に進むきっかけになったのは、空軍の部隊司令官を説得して、戦闘機を撮影するカメラマンをやらせてもらった所からです。聞こえはドラマチックですが、実際のところは砂漠で汗だくになりながら、⾶⾏機が頭上を通るのをひたすら待っていただけでした(笑)。


22歳でテレビの編集者としてキャリアをスタートしましたが、今振り返るとかなり早すぎました。美術学校に⼊ったのは26歳でアートスクールの良さは、何かを強制されるのではなく、⾃分の声を⾒つけるための余⽩が与えられることにあります。特に映画を美術学校で学ぶ利点は、他分野との交流です。コンテンポラリーアートが⼤きなインスピレーションになりました。常に異なる領域に触れることで、⾃然と視野が広がっていくんです。


──最も影響を受けた作品や監督を教えてください。

インスピレーションというのは常に変化するものですから、難しい質問ですね。22歳のときに感動したものが、43歳の今も同じように響くとは限らない。ただ、ずっと好きでい続けている作品を挙げるなら、リドリー・スコットの『エイリアン』、カサヴェテスの『オープニング・ナイト』、シドニー・ポラックの『トッツィー』、そしてヴィム・ヴェンダースの『パリ、テキサス』ですね。


⽇本の作品では⿊澤明の『羅⽣⾨』、⼩津安⼆郎の『お早よう』、そして今敏の『パプリカ』は特に素晴らしい。視点の変化や時間の扱いにおいて、どれも重要な作品です。誰もが⼆つの側⾯を持ち合わせたコンビネーションがある。⾃分もそうですが、それこそが多様性の根本だと思います。


【転換点】なぜAIだったのか

──『Rendered To Death』でAIを作品に取り⼊れ始めましたが、そのきっかけは何でしたか?

AIには以前から強い興味がありました。⼈類を⼤きく変える技術だと確信していたんです。映画制作はコストも⼈⼿もかかるものですが、AIによってそれが⼀⼈でできるようになった。もともとディレクションから編集まで幅広く⼀⼈でこなしてきましたが、AIによってさらにその幅が広がった感じです。


AIに興味を持ったのは、単なる「効率化」への関⼼ではなく、むしろ⼀⼈の作家として持てる表現の射程が⼀気に広がったと⾔えます。ビデオという技術が登場したとき、映画制作者たちが⾃分の声をより⾃由に表現できるようになったように、AIもまた同じ⾰命だと私は感じています。


──あなたのAI作品の特徴をどのように説明しますか?

⾃分のAI作品は多様だと思います。技術そのものではなく、あくまで表現のための道具として扱っているからです。案外⼤多数の⼈はAIで何をしたいかまだわかっていないのかもしれません。

ほとんどのAIクリエイターはエディター寄りのアプローチですが、私のベースはあくまでクリエイティビティです。そこが根本的に違います。AIという道具を与えられたとき、まず「これで何ができるか」を考える⼈と、「⾃分が⾔いたいことを、これで⾔えるか」を考える⼈がいる。私は後者に⼊ります。



【作品】『Rendered To Death』と『Ozempic secrets revealed!』

https://www.instagram.com/p/DQD1H09DCZqIdKnivzZBvp9uRfZruOS7BD0O380


『Ozempic secrets revealed!』について話すとき、ラフィの⽬に光が宿ります。最近関⼼があるのは、⻄洋社会における資本主義の滑稽さだと⾔います。クレジットカード番号さえ⼊⼒すればすべて解決するかのようなシステムの不条理。私たちの世界は素晴らしく簡単で何でも出来る、何処にでも⾏ける。しかし同時に、グローバルウォーミングのような深刻な問題も引き起こしている。その⽭盾のおかしさを映像にしたかったんです。


お気に⼊りのシーンは中年男性が⼝の中に全てを運んでしまうシーンです。⾒るたびにくすっと笑ってしまうと彼は⾔います。笑いの中に批評が潜む。それがラフィの作⾵の核⼼かもしれません。


【哲学】他のAIクリエイターとの違い

──他のAIクリエイターと⽐べて、あなたのアプローチはどのように異なるとお考えですか?

AI作品も通常の映画制作と同じアプローチで取り組んでいます。そこに違いはありません。

この⼀⾔に、彼の本質があるように思えます。多くのAIクリエイターが「AIでつくる」ことを出発点にするのに対し、ラフィは「造りたいものがあり、そのためにAIを使う」という順序を崩しません。AIの登場前にも、ビデオという⾰命があり、その時代に⾃分の声を持たなかった⼈々はやがて消えていった。電気のように社会に溶け込んでいくAIに対して、適応しながらも⾃分のクリエイティビティを⼿放さないこと。それが彼の流儀です。


──AIとジェネレーティブ・イメージングの時代において、映画はどのように変化していくとお考えですか?

AIによって映画制作はこれまでになく⾝近なものになるでしょう。制作コストの低下は、創造的なルネサンスを引き起こす可能性があると思います。ただし、具体的にAIのどの部分で⾃分の⾊を出せるか。そこを持っている⼈とそうでない⼈の差は、これからますます開いていくかもしれません。



【背景】時間、トラウマ、そしてユーモア

AIによる制作イメージ

ラフィの作品を貫くもう⼀つのテーマは「時間」です。その背景には必ずイスラエルという場所と、そこに堆積したトラウマの記憶があります。


──あなたの作品には「時間」をテーマにしたものが多く⾒られますが、なぜこのテーマに惹かれているのでしょうか?

私が暮らす場所イスラエルはトラウマによって形作られています。特にホロコーストが⼤きな基盤になっています。トラウマは過去や時間との関係を歪めるものです。ユダヤの祝⽇はすべてトラウマから来ている、全部がそうです。私たちは存在しなかった過去に憧れる「ノスタルジアの流⾏」の中にいるように感じます。でもそれは他の依存と同じように危険でもある。このテーマには尽きない興味があります。

戦争と隣り合わせの⽇常が、時間の感覚を研ぎ澄ます。AIという最先端の技術を、記憶やノスタルジアのような古くて重いテーマと組み合わせるとき、ラフィの作品は独特の奥⾏きを持ちます。もし⾃分をビデオショップに並べるなら「ちょっと⾵変わりなコメディドラマ、少しだけSF⾵味」と彼は笑いますが、その棚には複雑な背景や感情が詰まっているに違いありません。


──もし⽇本のクリエイターとコラボレーションできるとしたら、どんなプロジェクトを作りたいですか?

⾵変わりなコメディや少しSF的な作品に興味があれば、ぜひ声をかけてください。

──個⼈的に⽇本について好きなことや、訪れる機会があれば何をしてみたいですか?

簡単な質問ですね。全て、です。⽇本は夢のような場所で、ただ歩き回って、いろいろ吸収して、そしてとにかく沢⼭⾷べたいですね。本当にありえないくらいに。


テクノロジーが進化するほど、「何を造るか」「なぜ造るか」という問いの重さは増していく。ラフィ・ショールの仕事は、AIの時代においてもその問いから⽬を逸らさない作家の存在を、静かにそして確かに⽰しています。⽇本の映像シーンとの交差が実現する⽇を、⼼待ちにしています。


● ラフィ・ショール作品情報

https://www.rafishor.com/2015/8/2/smartmail-slap-that-app

https://www.instagram.com/rafishor