サンド・トゥ・サンドは、自然界で最も豊富な資源の一つである砂を用いてオブジェを制作するデザインスタジオです。独自の技術によって砂を固めた作品は、長く楽しめる一方で、水に触れると再び自然へと還っていくという特徴を持っています。儚さと永続性をあわせ持つ新しい価値観が注目を集めているサンド・トゥ・サンド。そのデザイナーでありオーナーでもあるバビさんにお話を伺いました。

バビさんの発想の原点
サンド・トゥ・サンドのデザイナーであるバビさんは、テルアビブ近郊にあるデザイン教育機関の一つであるシェンカールでプロダクトデザインを学びました。その時からすでに自然に還る素材や、モノと体験が結びつくデザインに関心を持っていたといいます。
「今まで使われていた素材と異なるもの、永続性があるけれど時と共に動いていくもの…そんな原料を探していたのです。そこで私は、大好きな海にある砂のことを思いつきました。砂には終わりがありません。でも固めればいろいろな形を自由に作ることができます。それで砂を材料としてプロダクトをつくることにしたのです」

砂を固める特許技術により、自然素材から独自のオブジェを生み出すバビさん。「砂を固める技術の詳細については詳しくは説明できませんが、これも自然の素材で作られています。水に触れれば少しずつ溶けていって、最終的にオブジェは完全な砂に戻ります。」
在学中のバビさんは卵の殻で作る植木鉢をつくるプロジェクトを手がけたこともあるそうです。「卵の殻は土にもいいし、植木を育てる栄養にもなるのです」とバビさん。また3Dプリンターが一般化した時のことについては「3Dプリンターではなんでもプリントできるけれど、私は原料を触りたかった。原料を自分の手で触って感じながら作るということが本当に好きなのです」と話してくれました。
バビさんと話していると砂や貝殻に対するビバさんの愛が伝わってくるようでした。どうしてもそこに美しさを見出して魅了されてしまう。その美しさが大好きなのだという事が伝わってくるのです。

シェンカールの卒業制作では分解されてなくなっていくおもちゃを作ったそうです。この時の作品はヨーロッパやアメリカでは高い評価を受けたそうですが、指導の教官からはあまり理解されなかったと言います。そして商業商品としては、安全性やレギュレーションの面からも子供達が使っていく途中で分解されてなくなっていくものというアイディアはあまり現実的ではなかったそうです。
そこで、彼女は日常の中で使われるプロダクトへと方向を変えていきました。

かたちになったアイデア
このようにして生まれた Sand to Sand では精巧な花瓶や特徴的な存在感のあるインセンス・ホルダーのようなプロダクト、アート作品やイベントギフトといった作品を次々と世に送り出しています。

シンプルで洗練されたサンド・トゥ・サンドのプロダクトはそのまま飾っておいてもとても魅力的ですが、それ以外にも非常に興味深かいのは砂という原料ならではの特性を生かしたアイディアの数々です。
例えば、ニューヨークでオープンしたアート・スタジオのオープンイベントの招待状。
招待客はサンド・トゥ・サンドが作った砂のオブジェを受け取ります。そのオブジェを水で溶かすと中から金の指輪が出てきます。その指輪が招待状となるのです。
同じようなコンセプトで結婚式の招待状なども作っているとバビさんは言います。単なる入場券や招待状を、受け取った瞬間から「体験」に変えるこのアイディアは、儚さと永続性をあわせ持つサンド・トゥ・サンドならではの作品です。

また、サンド・トゥ・サンドで長期間ベストセラーだったプロダクトの一つにラッキーコインがあります。象徴的なエンボス加工が施された砂が原料のこのコイン。ラッキーコインには根強いファンがいて、事あるごとに買い求めてくれるリピーターが多いのだそう。夢の実現や願いを込めて海に投げて砂に戻す、トレビの泉を思い起こさせるような、そんな儀式のためのラッキーコインです。
ヨーロッパのデザインアパレル系の会社では、海辺で行われた会社のイベントで社員の夢の実現を願って参加者全員にこのラッキーコインを配りました。最後は全員で一斉にこのコインを海に投げ、社員たちの一体感を高めて会社の発展に貢献したそうです。モノの形でなく、体験、感動として心に永遠に残り続ける、サンド・トゥ・サンドのラッキーコインがあってこそのイベントでした。

移ろいの中にある美しさ
このようにSand to Sandのプロダクトは、単なる「もの」として存在するだけでなく、時間の中で変化しやがて自然へと還っていくというプロセスそのものを内包し、さらに人々がそれを体験することを可能にしました。従来のプロダクトデザインが「長く残ること」「壊れないこと」を前提としてきたのに対し、Sand to Sandの作品は「やがて消えていくこと」までも含めて設計されているのです。それは、所有するためのものというよりも、体験し、手放し、そして自然へと返していくためのデザインとも言えるでしょう。

そしてバビさんは、実は日本の文化にも強く影響を受けているといいます。8年ほど前に訪れた日本で、これまで旅行したどの国とも異なる美意識に触れたというバビさん。とても日本が好きになり、日本の事をもっと深く知りたいと思っているそうです。
「日本には“わび・さび”という考え方がありますよね。完全ではないものや、移ろいゆくものの中に美しさを見出す感覚は、私の作品にも非常に大きな影響を与えています。」やがて自然へと還ることを前提としたSand to Sandのプロダクトは、確かに、どこか日本の美意識とも通じるものがあるように感じられました。
「いつかまた日本を訪れたいですし、日本の人たちにも作品を見てもらえたらうれしいです」とバビさんは話します。

砂はかたちを持たずやがて波にさらわれていく存在です。Sand to Sandの作品は、そんな砂に一時のかたちを与えながらも、再び自然へと還る道を残しています。
モノのかたちに永遠に残るものを求めるのではなく、移ろい変化し続ける事の中にはかない美しさと永遠を見出す。その在り方は、イスラエルから遠く離れた日本の美意識ともどこかで響き合いながら、私たちに新しい価値観のかたちを示しているように思えるのです。
Sand to Sand のインスタグラムはこちらになります。
バビさんの作り出す独特な世界をぜひお楽しみください。


