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LIFESTYLE

公私共に支え合うイスラエルの不妊治療医師夫婦

by SHIYA AVNAT |2020年09月10日


コロナで何が変わった?日本の不妊治療事情

新型コロナウイルスの影響で、日本では特定不妊治療を受けている夫婦が治療の延期を余儀なくされる事が懸念され、治療の対象年齢が1年上がり44歳までの治療が可能となりました。40歳以上の方には大きなチャンスといえます。

また助成金の回数も40歳以上通算3回が、41歳未満が6回までに増えたので、かなりの変化だと思います。新型コロナウイルスで良いこともあるんですね。



まず日本の不妊治療のプロセスですが、不妊ドック検診で精液検査から感染症、卵管造影、子宮鏡検査、生理中ホルモン検査、黄体ホルモン検査、フナー検査等を行うようです。大体ここまでで病院によって差があるものの、9万円前後費用がかかるようです。


イスラエルの場合も不妊治療前の検査内容はほぼ同じですが、フナー検査等は含まれていません。

イスラエルの場合、39歳以上から45歳迄は直ぐに体外受精(IVF)治療へと移行します。39歳以下の年齢でも1年以上不妊、かつ人工受精(妊娠しやすい期間に採取した精子を注入器で子宮内に注入する方法)を3回行っても妊娠しなかった場合や、卵管等の子宮に問題がある場合等はすぐに体外受精へと移行します。


医療費は国が初めから負担する為、何かしらの不妊の問題があれば、すぐに治療に移ることができます。

日本の場合、人工授精は4回以内で9割が妊娠するといわれており、4回以降は可能性が低いと判断され、多くとも4~6回を目処に体外受精へと移行するようです。


イスラエル不妊治療の流れ排卵から妊娠まで


イスラエルでの不妊治療前の検査手順は、次の通りです。


①HIV、感染症、乳癌、子宮癌の検査
②精子の検査(精子活発度、数をチェック)
③生理2日目に血液検査でホルモン値の確認
④超音波検査で子宮検診


上記検査結果によって体外受精(IVF)に手続きが移行し、検査後の次の月の生理2日目に治療を開始します。不妊の度合いや年齢によって治療方法は異なりますが、一例として次の方法が挙げられます。


・女性の卵巣に働きかけ、黄体形成ホルモンと協力して卵子を作る働きがあるヒト卵胞刺激ホルモン製剤に属する注射薬のゴナールエフ皮下注用を生理2日目から4日間、自宅注射投与。ゴナールは日本でもよく使用されている薬ですね。

・生理5日目に超音波検査と血液検査。この時卵子の数とサイズによって医師がゴナールの投薬量を増やすかどうか判断する。

・さらに2日後に同様の検査をしてサイズと数を確認。通常5-10個の卵子が出来る。

・ゴナールは通常4-6日間投与。

・調節卵巣刺激下における早発排卵防止薬、ゴナドトロピン放出ホルモンアンタゴニストに属する薬セトロタイドもゴナールと併用して卵の大きさが11~30mmに育つまで継続して注射投与する。

・ゴナールの投与を6日後に停止し、7日目から排卵誘発剤の一種である尿由来のヒト更年期性性腺刺激ホルモンであるMENOPURを注射投与。

・MENOPURの投与から5日後に超音波検査と血液検査を再度行い、卵のサイズが18~22mmになるまで2日おきに同様の検査を行う。体調と卵子のサイズにより、投与の期間が医師によって判断される。

・医師が採卵の判断をした場合注射後の36時間後に排卵を起こすと言われているオビドレル注射を投与。

・オビドレル注射から36~37時間後にて病院にて卵子を採取する。同時にパートナーの精子も採取し、体外受精(IVF)を行う。

・この際に女性の年齢が高齢かつ、採取できた卵子が1個の場合は体外受精ではなく、顕微授精に変更される。

・卵子を採取した後に子宮の状態を妊娠しやすい状態にする為、天然型黄体ホルモン製剤プロゲステロンのウトロゲスタン膣用カプセルを1日2回、12日間摂取する。

・採卵から卵子が受精後、分割胚に成長していた場合3日目に胚移植を行う。採卵した卵子が多く状態が良好な場合、より丈夫な状態になっている5日目に胚移植を行う。

・子宮には2個胚を戻す。

・胚移植を行ってから12日後血液検査を行い妊娠したかどうかを判定する。

チャンスがより多いイスラエルの不妊治療プロセス

ドクター・バハール氏

お話を伺ったドクター・バハール氏は、胚盤胞(受精した卵子)は子宮で育ちやすいとの見解を持っている為、3日目で胚盤胞を子宮に戻す事を判断していますが、アメリカでは一般的に5日目で胚盤胞を戻すと決まっている為に、育つ可能性がある胚盤胞がチャンスを失ってしまう事も懸念されます。


ドクター・バハール氏を訪れる患者はイスラエル国内に留まらず、アメリカ、ヨーロッパからも多くの患者が訪れています。

イスラエルはヨーロッパと比べて、不妊治療の成功率が一見すると低い様に見えるのですが、ヨーロッパの場合、日本と同様の43歳迄しか国で治療費をカバーできず、不妊治療の回数は3~4回迄となっております。それ以降は卵子提供へと治療が移行します。


イスラエルの場合は45歳迄治療費を国がカバーしてくれながら治療を続ける事ができ、回数も8-10回迄行うことが出来る為回数が多くなり全体のパーセントを下げていますが、数字よりも子供を作る事自体を優先させている国の意気込みが垣間見れます。


このような理由から、最後のチャンスを求めてドクター・バハール氏の元をおとずれる海外からの患者は、年々増加しています。



イスラエルならではの治療カウンセラー

またイスラエルならではのユニークな点が、医師のサポートをしている治療カウンセラーはドクターの奥様が多いと言う点。

不妊治療医は、どのドクターも多忙なスケジュールの為、投薬プロセスとアフターケアー等の患者対応に多くの時間を割けません。そんな中、治療薬の使用方法、トラブルの対処法、治療中のメンタル的な相談の応答等のサポート業務を多くの場合、医師の奥様が行っています。

ナースももちろん対応を行いますが、ナースは技術的な対応が基本となっています。

医師のパートナーは自然と不妊治療の知識が深くなる為に、医師のサポート業務を買って出る事が多くなるようです。公私共に二人三脚なのはユニークな点ですね。

少しでも患者のストレスを減らし、少しでも治療を成功させてあげたいという、人間味のある対応だなと私自身は感じました。このプロセスに相談費用がかかる事もありません。



またナースも不妊治療を始める前の検査から不妊治療医の面談に同席し、ナースの目線から更に必要な確認項目や検査項目は無いか等の確認を医師と共に行います。

治療中に自分自身で注射を打つのが怖い場合は、注射を病院へ持っていけばナースが打ってくれると言うフレキシブルなシステムもあります。

ちなみにイスラエルでは全てに保険を適用しない場合、薬代が1回の治療につき12万~20万円程度、1回の体外受精の金額は47~50万円前後、顕微授精が62万円前後となっています。

不妊治療以外で保険の効かない卵子保存は、1回に20個前後の卵子を保存して50万円前後+毎年の保存費用となっています。



日本では医師に言われるがままに治療を進めて納得の行かないケースもありますが、イスラエルでもやはりそういう問題が無いとは言えません。しかし、気の強いイスラエル女性は自分の意思をはっきりと伝える為、治療内容を変更する事は日常茶飯事です。その時医師は、リスクと残り時間を伝え本人の意思に寄り添います。医師と意見があわなかった場合、医師を変更してしまう事も普通です。

日本では普通でない数の胚を戻したり、次のステップへ移る回数が短かったりするイスラエルの不妊治療事情ですが、日本での普通ではないイスラエルの普通は選択の幅を広げる1つの見解となるかもしれません。


次回はイスラエルのちょっと変わった妊娠から出産までの流れと手厚い医療サポートを取材していきたいと思います。


ドクター・バハール

dovbacharmd@gmail.com

https://www.facebook.com/dovbacharmd/