年々その人気を増しているスケートボード。単なる趣味の活動と思われがちですが、これはれっきとしたプロ・スポーツであり、ある意味、アートともいえる自己の表現活動でもあります。また今日に至るまで、男性中心のスポーツと思われがちですが、今やその状況は変わりつつあります。
2010年にパオラ・ルイロバとマアヤン・レヴィの二人によって設立された「エルサレム・スケーター・ガールズ(以下、JSG)」。それはイスラエルにある、女性だけのスケートボーダーたちのグループです。トレーニングの機会を用意し、様々な大会への参加の機会をサポートし、この男性優位のスポーツ社会の中で、女性たちに勇気を与える存在として様々な活動を行っています。

皆が一緒になって強いコミュニティを作り上げることで、社会の通念を変えていき、誰だってスケートはできるんだということを社会に示そうとしているのです。
「自分たちたった二人しかいないとしたら、そこからどうやってスケーターのグループを作り上げていけると思う?」
JSGが生まれたのは、ある日の午後のこと。マアヤンとパオラは、放課後になるといつも、エルサレムのガンザッハーにある古いスケートパークでスケートを楽しんでいました。
女性のスケートボーダーに対するサポートがとても少ない事に業を煮やしたマアヤンは、自分たちで女の子のためのスケートグループを作ろうと思い立ったのです。友人のパオラは当初、それは少し難しいのではないかと思っていたのですが、マアヤンの熱意に後押しされ、一緒に活動を始める事になりました。
その夜、広場で拾ったチョークを使って、どんな名前やロゴがカッコいいか、二人はいろんなアイデアを考えました。そんなブレインストーミングを経て、「エルサレム・スケーター・ガールズ」の名前は誕生したのです。
しかし、その決定は非常に価値あるものであったことが後に証明されます。そんな古いスケートパークの中で始まった、たった二人だけの出発は、後に国際的な評価までも獲得するに至るグループへと発展していったのです。
JSGはその後、何度もメディアに取り上げられるようになります。スケートボードの専門誌でも何度も特集され、果てはアメリカ資本で制作された、イスラエルのスケートボードシーンを紹介するドキュメンタリー番組にも取り上げられるようになりました。

多様性の中での求心性
彼らのグループには、ユダヤ教徒、クリスチャン、ムスリムなど、異なる背景を持つ女の子たちが集まってきました。エルサレムという都市は、この世界三大宗教全ての聖地でもあり、様々な文化が花咲いてきた温床でもありますが、それだけに宗教間の対立を孕んだ不安定な土地でもあります。
「でもね、私たちのスケボーへの愛は、そんなギャップなんかすぐに埋めてしまえるぐらい強いものなの。一緒に滑ることで女の子たちに、自分たちはイスラエルの、いや、世界のスケボー社会の一員なんだって思わせることができるのよ。」
グループには、様々な年代の女性が参加しています。最年少は11歳、そして最年長は31歳、その中で友達の輪やその中のリーダーが形作られていくのです。
もちろん彼女たちの興味はスケートボードだけではありません。歌が好きな子や役者を目指している子もいれば、絵を描く事に情熱を持つ子もいます。しかし、このグループの中ではとても積極的な交流が生まれています。そんなみんなを繋ぐのが、たった一つの活動、スケートボードなのです。
「スケートボードは、私たちの家であり家族でもあるの。この場所こそ、自分自身を正直に表現できるところなのよね。」と、パオラは語ってくれました。
男女平等に向けた主張
どんなスポーツも、大体が男性によってリードされてきており、それはスケートボードも例外ではありません。広告の中では男の子たちが活躍し、地元のスポーツ店は男の子のスケボーグループを支援し、メジャーな大会は男性だけの社会です。

この障壁を克服するため、JSGは女性スケーターの様々な動画を作成し、スケートボードという競技が、単に男性のためだけのスポーツでないことをアピールしてきました。それぞれの地元のスポーツ店から、男性チームと同様の支援を引き出すための活動も行っています。
メンバーの一人であるアヴィアは、こう語っています。「私にとってスケートボードは、みんなの先入観を壊していく、男女平等実現に向けた象徴みたいなものね。スケートボードは、人々の間に平和と正義もたらすスポーツだと思っているわ。人種や、宗教や、肌の色、そして性別に至るまで、どんな違いも、ここでは全く関係ないものになってしまうのよ。」
このグループでの活動を通じて、女の子たちは、各々のスケボー愛を互いに共有することで、他の女性たちと社会の中でどう付き合っていくのかを学んでいきます。同時に、このスケートボードというスポーツ自体が、彼女たちの自由への想いを育んで事になるのです。
スケートボード自体、確かに簡単にできるスポーツではありません。時に挫折し、落ち込み、そして実際に傷だらけになることも多々あります。でも、このコミュニティが手の届くところにあるからこそ、みんなで助け合い、はげましあい、仲間との絆を深めていくことができるのです。
「それはね、スケートボード、という生き方なの。アートであり、愛であり、そして仲間たちそのものなのよ。」最後にマアヤンは私たちにそう語ってくれました。
エルサレム・スケーター・ガールズ