イスラエル軍は11月9日、南部のエイラート地区に向けて発射された弾道ミサイルを新システム「アロー3」で撃墜したと発表しました。イスラエルと米国が共同開発・製造した、大気圏外からの長距離弾道ミサイルのための最新迎撃システムであるアロー3は、2017年に配備されて以来実戦で初めてミサイルを撃墜したことになります。
イエメンの武装勢力である「フーシ」は、ガザ地区での戦闘が勃発して以来弾道ミサイルや無人機を使ってイスラエルを攻撃しており、今回もフーシによる攻撃とみられています。エイラート地区では警報が鳴ったそうですが、イスラエル軍は南部の紅海上空でフーシが発射したとされるミサイルを撃ち落としました。
イスラエルの対空防衛システム
イスラエルの対空防衛システムは、守備範囲2,400kmを誇るアロー3 に加えて、ハマスやイスラム聖戦などが発射する短距離ロケット弾に対処する「アイアン・ドーム」と、中距離弾に対応する「ダビッズ・スリング」の多層構造となっています。
アイアンドームとは
レバノンに本拠を置くテロ組織ヒズボラが1990年代、イスラエル北部の人口密集地にロケット弾を発射したことで、イスラエル国防軍が抱える安全保障上の課題が浮き彫りになりました。アイアンドームはその課題に対処すべく、4〜70キロメートルの制御範囲で人口密集地に到達すると予測される短距離ロケット弾や砲弾を迎撃し、破壊するように設計された移動式対空防衛システムです。2011 年に運用が開始されて以来、数万発もの短距離ロケット弾を迎撃し、イスラエル国民の安全を護り続けています。
アイアンドームはどのように機能するのか
まず、イスラエル領にロケットが発射されると、システムがそれを検出して飛行経路に関するデータを収集します。次にその情報がコンピューターに送信され、ロケットの飛行先が計算されます。そして、システムが人口密集地域または戦略的に重要な場所にロケットが着弾するとの計算結果を出した場合、ランチャーが起動し迎撃ミサイルが発射され、空中でロケットを撃墜します。ロケットがコースを外れて広い範囲で人のいない砂漠に着弾すると計算された場合、アイアンドームは動作しません。
アイアンドームの生みの親
イスラエル国防研究開発総局(DDR & D、ヘブライ語でMAFAT)の局長であり、国防軍の准将であるダニー・ゴールド氏は、国家安全保障の向上のためにアイアンドームを開発し、多くの国民が晒される脅威を劇的に低減したヒーローとして知られています。
国防省と国防軍による共同機関である MAFAT は、防衛技術の革新的なコンセプト開発、国防省の短期および長期プロジェクトの管理、防衛技術の研究開発の監督、国際パートナーとの協力、イスラエルの次世代の防衛技術専門家の訓練を担当しています。またミサイルやドローン、サイバー攻撃、水中や地下からの脅威など、既存および将来の脅威から国境を守るために多大な労力と資金を投資し続けています。
ゴールド氏は、ハンガリーからイスラエルに移住したホロコースト生存者である両親のもと、テルアビブで生まれ育ちました。イスラエル工科大学テクニオンで電子工学と経営管理の2つの博士号を取得し、国防省とイスラエル空軍でいくつかの役職を歴任した後、2016年より国防省および国防軍の研究開発部門、エレクトロニクスと電子戦、および兵器と航空電子工学の責任者を努めています。
レバノンとの国境におけるヒズボラとの紛争に対応するため、アイアンドームの開発は国営防衛企業であるRAFAEL Advanced Defense Systemsの主導で 2006年に始まりました。ゴールド氏が「これほどアップデートされたシステムは他にない」と述べているように、アイアン・ドームを支える技術は継続的に改良されており、その本格稼働から10回以上のメジャーアップデートが行われています。
進むレーザーシステムの開発
攻撃を仕掛けてくるハマスやイスラム聖戦、ヒズボラなどテロ組織もまた軍事開発を続けているため、イスラエルは常に未来の戦争においてどのような技術が必要になっていくのかを予測しながら、敵の軍事開発のはるか先手を打つ必要に迫られています。ゴールド氏率いるMAFATはまた、イスラエルに向けて発射されたロケットやミサイルの撃墜を可能とする、アイアンドームと併用されるレーザーシステムの開発にも取り組んでいます。
国防軍はすでに民間機に搭載された空中レーザーシステムを使用して一連の迎撃に成功し、数機のドローンを撃墜に成功しています。国防省によると、イスラエルは航空機にレーザー技術を統合し、作戦シナリオで目標を迎撃することに世界で初めて成功した国の一つです。ゴールド氏は「こうすることで民間人と軍人の両方に貢献できる」として、こうして開発された技術の多くを民間向けに転用しています。