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FOOD

知られざる密教「ドゥルーズ派」とは
料理を通して知ろう

by 木村 リヒ |2020年12月14日

皆さん「ドゥルーズ」という言葉を耳にしたことはありますか。元イスラム教のシーア派から始まった宗派なのですが、知らない方も多いのではないでしょうか。私自身イスラエルに移住するまで名も聞いたことがなく、移住してからも数年間、イスラム教の一部かなと考えていました。

しかし、知れば知るほど奥深いドゥールズ文化。イスラエルとも関係があり、とても興味深い宗派です。


今回は、そんなドゥールズ文化を、特に料理にフォーカスしご紹介いたします。



知られざる密教「ドゥルーズ派」

元は11世紀にエジプトのイスラム教シーア派からはじまり、現在では、シリア、ヨルダンなどに存在しています。イスラエルにも少数ですが存在しており、イスラエル多数派のユダヤ人と「血の盟約」を結んだことにより、イスラエルには欠かせない大切な一部となりました。

異教徒との結婚は許されず、宗教の教えの真髄は宗教的指導者のみが知ります。

分かっていることは一神教、転生輪廻(生まれ変わり)を信じ、ドゥルーズ民族内の協力を大切にするなどの教えです。


ちなみに日本でも人気のセレブ御用達スキンケアソープブランド「ガミラシークレット」開発者のガミラさんもドゥルーズ人。2006年には「イスラエルに影響を与えた10人」の一人に選ばれています。



エリートの道を捨て、家族のために生きるハリファ氏

今回は、大人気ドゥルーズ料理のケータリング会社【ウム・ハリファ】を営むハリファ氏に、ドゥルーズ料理と文化についてお話を伺いました。



ドゥルーズ村、ダリアット・エル・カルメル(daliat el carmel)在住、妻と一人の娘を持つハリファ氏。幼いころからドゥルーズ文化に加え、アラブ文化やユダヤ文化に触れ、育ちました。

高校卒業後はイスラエル国防軍(IDF)の超難関、軍用犬運用の特殊部隊「第7149オケッツ部隊」で活躍。兵役終了後はテルアビブ大学で経営学部と新聞学科を専攻。卒業後はアドテックの業界で活躍し、自らスタートアップを立ち上げ海外進出を果たします。


そんなエリートコースまっしぐらの人生ですが、就職して間もなく父が起業したビジネスが倒産、ビジネスパートナーであった友人に裏切られた父は鬱病を発症します。食べるものもない状況で一家を守るために立ち上がったのが強き母。しかし社会経験はゼロ、結婚してからは専業主婦一筋で一家を支えてきました。


ハリファ氏の母は料理の腕を活かし、テルアビブのセントラルステーションでドゥルーズ料理を売り始めることにします。イスラエルのセントラルステーションというとスラム街付近にあり、ビジネスを始めるのにいい場所とは言えません。しかし味とクオリティは確かです。口コミで評判が広がり瞬く間に小さな屋台からイベントのケータリングを始めることになります。


ケータリングの様子

ここでハリファはマーケティング関係を担当することになります。元々ドゥルーズ料理のケータリングは少なく、肉料理メインのものが多かったのですが、ハリファは昔ながらの肉を使わない料理も提供し始めます。ベジタリアンやビーガン向けのケータリングも始め、より多くの客層をターゲットとし始めます。加えて、誰も考えなかったIT企業にも目をつけました。


肉料理。シナモンの肉巻きはほのかなシナモンの香りが食欲をそそります。

ベジタリアン向けのケータリングも!

もともとスタートアップ企業に勤めていたこともあり、コネを活かしパーティや食事会が多いIT企業やベンチャー企業にケータリングサービスを提供し始めます。

この戦略が大成功!瞬く間に従業員20名を抱えるケータリング会社となったのです。

会社が成功してもハリファ氏はまだ自身のスタートアップと2足の草鞋でした。ターニングポイントとなったのが長女誕生。

可愛さのあまり子育てはすべて自分でしたいという思いが芽生え、どうしても娘が立つ瞬間に立ち会いたいという思いのもと、自身のスタートアップをたたみ、時間の調整ができる家業に専念します。


人を惹きつけるケータリング【ウム・ハリファ】

パーティやイベントごとが大好きなイスラエル人。会社でもプライベートでもケータリングは頻繁に使用します。なのでケータリング業界は競争の激しい世界。よくなければ次々とつぶれてしまいます。そんな中でも人気が絶えずクライアントを増やし続けているドゥルーズケータリング【ウム・ハリファ】。秘訣は何でしょう。


ケータリングの様子 量と種類がすごい!

ドゥルーズ料理の概念を覆す、伝統に寄り添う本物の味

ユダヤ系イスラエル人にとってドゥルーズ料理はバーベキューというイメージがあります。美味しいラム肉やシシカバブで有名なドゥルーズ人ですが実はこれはユダヤ人のニーズに合わせているだけというからビックリです。


お肉料理もお忘れなく。スパイスたっぷりシシカバブ

伝統的なドゥルーズ料理はお肉をほとんど使わず、特別なお祝い事にしか肉料理は食べないのです。

ケータリング【ウム・ハリファ】ではニーズに合わせた肉料理も提供していますが伝統的な野菜ベースのベジタリアンバージョンも用意しています。なんと、最近のトレンドに合わせビーガン仕様のケータリングもできるそうです。

伝統を守りつつお客さんのニーズに合わしてくれるのは嬉しいですね。

料理のバラエティだけではなく味も確かです。レシピは一切なく、代々続く「母の味」を守っています。食材にもこだわりがあり、旬の野菜とハーブをたっぷり使用します。


ドゥルーズ風パン、薄い生地に酸味の効いたチーズと搾りたてオリーブオイルで食べます。

ザアタルと呼ばれる中東のハーブをふんだんに使ったパン

スイーツも豊富です!ヤギのチーズをカダイフ麺で絡めるクナッフェは絶品!

私一押しのズッキーニ煮込み。ズッキーニの中を繰り出しスパイスライスを詰めています。

ハリファ氏に聞くドゥルーズ料理とは

ハリファ氏にドゥルーズ料理の特徴を聞いてみました。

1つ目の特徴は”おもてなし精神”とのことです。

イスラエル人皆に言えることですが、客をもてなすことが大好き。特にドゥルーズ人のおもてなし精神はとびぬけています。

プライベートでも友達や親せきで集まる際にはとても食べきれない量の料理をごちそうしてくれます。いつでも大歓迎してくれる雰囲気なのでドゥルーズ人の友達の家には頻繁によってしまいます。



2つ目の特徴は”アットホーム感”。

ドゥルーズ料理を食べに行く目的ですが、料理はもちろんのこと、家庭的な落ち着く雰囲気にもあります。店員さんは知人であるかのような距離感で接してくれ、数分の会話で仲良くなれます。この接し方もドゥルーズ人が愛される理由の一つなんでしょうね。


海でのケータリングなんて楽しそうですね!

オススメ、ドゥルーズ料理!

ドゥルーズ料理といっても種類が豊富です。今回はそんな中からハリファ氏に、とっておきのオススメ料理を紹介していただきます。


アレ・ゲフェン

アレ・ゲフェン

ブドウの葉でハーブたっぷりのご飯をまき、酸味の効いたトマトソースで煮込みます。有名なドゥルーズ村、「ダリアット・エル・カルメル」のダリアットの意味はアラブ語で「ブドウの葉」です。ブドウの産地として知られるこの地域では古くから残るブドウの葉を使った料理が堪能できます。

酸味が聞いたアレ・ゲフェンの奥に感じるハーブのほろ苦さ、ご飯の甘さとシナモンの香りが絶妙にマッチし、やみつきになる味です。


マジャドラ

マジャドラ・ライス。ドゥルーズ人はお米を使わないものを食べます。

甘い玉ねぎたっぷり、香辛料のきいた豆野煮込み料理です。イスラエルでマジャドラというと「マジャドラ・ライス」といってレンズ豆を混ぜたご飯のことを指しますがドゥルーズ風マジャドラはお米を使わずレンズ豆ベースでスパイスと一緒に煮込みます。美味しいだけではなく食物性たんぱく質が多くとてもヘルシーな一品です。


最後に

今回は簡単にドゥルーズ文化について料理にフォーカスしご紹介しました。

ドゥルーズ人はほとんどコミュニティとしてドゥルーズ村に住んでいることが多く、残念ながらテルアビブやエルサレムなどの観光地でドゥルーズ文化を感じれるところはあまりありません。

しかし、イスラエル北部に行く機会があれば、ダリアット・エル・カルメルやドゥルーズ都市のヤルカ(Yarka)に行くことをオススメします。

人情味あふれるドゥルーズ人。楽しめること間違いなしです!