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FASHION

衣料廃棄による環境汚染にストップを。生分解性天然素材を用いたサステナブルニットウェア「Tooshaaya」

by Marat GALIMOV |2023年04月15日

ファストファッションの流行や過剰生産により、年々深刻化する衣料廃棄。その量は、日本だけでも年間100万トン、世界では年間9,200万トン言われています。そんな衣料廃棄による環境汚染に待ったをかけるのが、イスラエル発ニットウェアブランド「Tooshaaya(トゥーシャアヤ)」。日本のデザインからも影響を受けているというオーナーのTom Moattyさんにお話を伺いました。


繊維産業の実態を知り、サステナブルな素材へ

―――まず「Tooshaaya」というブランド名の由来を教えてください。


トム:「Toosha(トゥーシャ)」は私のニックネームで、ブランドを立ち上げてから最初の4年間はこの名前を使っていたのですが、ブランドが成長するにつれ、少し子供っぽいかなと感じるようになりました。そこで「Toosha」の名前は残しつつ、他の言葉を加えようと考えていた時、日本語の「あや」という言葉が、美しいものを意味することを知ったのです。それで「Toosha」のあとに「aya」を加えて、現在の「Tooshaaya」となったのです。実は、テキスタイルデザイナーとしてシェンカール大学で学んでいた時に、日本伝統文化の講義を受けたのですが、日本の魅力に一気に魅了されましたね。実際日本のデザインからも大きな影響を受けています。


ニックネームの「Toosha(トゥーシャ)」の由来ですが、「シャトーシュ(スカーフのようなもの)」に関係しています。シャトーシュはとても上質なウールで、繊維業界では「素材の王様」と呼ばれています。ただこの素材からショールを作るためには、ある種の動物を殺さなければなりません。しかし私は動物を殺すことに反対です。ですので、ウールのようなもの、上質なテキスタイル、とてもユニークなものという意味でフレーズを使うことにしました。


―――なるほど。では、どのような素材を使っているのですか?


トム:私が母と一緒にブランドを立ち上げた時、まだシェンカールの学生だったのですが、とある教授の講義で繊維産業の実態を知ったのです。いかに環境を汚染しているのか、そして私たちはどう責任を持つべきか。それで自然環境と調和したテキスタイルを模索し、最終的に自然に還る天然素材を用いることにしました。


竹や大豆のような自然素材から作られたものを「プラネットヤーン」と呼びます。主成分はセルロースで、化学的な組成は変わりませんが、繊維からテキスタイルを作るプロセスには人間が関与しています。化学物質を使用している工場は製造工程で汚染を引き起こし、汚染物質を自然界に戻してしまいます。私たちのブランドと協働している工場は、クローズドループ(資料を循環させ、廃棄物を出さないこと)を採用しており、水をリサイクルし汚染しないように配慮しています。


ところで、竹でできたものを触ったことがありますか?シルクのように柔らかいですよ。竹は熱をコントロールする性質があるので、暑いときは涼しく感じられます。シルクに少し似ていますが、シルクがタンパク質からできているのに対して、竹はセルロースからできているので、シルクよりも通気性に優れています。また竹は低刺激で抗菌性があり、何度も洗う必要がありません。


有機的な美学を追求

―――サステナブルな側面のほかに、ブランドを際立たせているものは何ですか?


トム:デザイン言語です。私はこれを「有機的な美学」と呼んでいます。細部にこだわりすぎず、自然からインスピレーションを受け、また、秩序と無秩序の間にある緊張感を常にチェックしています。互いに矛盾するものがどうやって連動するのかーー例えば、非常に軽いものを使って安定した構造を作り出すラインを見極めたり。異なるものを組み合わせたときに何が起こるのか確認しています。


私のセーターのひとつに「T-sweater」というベストセラー商品があるのですが、とても有機的に見えるテキスタイルから作られており、構造を支える重要なラインとファブリックの柔らかさとが緊張感を生み出しています。袖をタイトに作ることで、手がきれいに収まり、また手から肘にかけてはゆったり編んでおり、より柔らかく、より透け感が出るようにしています。



トム:すべて自然のテクスチャからインスピレーションを得ています。例えば「アクワレル(水彩)」という商品は、水彩画のように色彩が変化するのです。花を見てそのまま花を描くのではなく、感覚をテキスタイルに反映させること。それが有機的な美学です。



イスラエルから世界へ

―――女性用のニット製品が多く見られますが、男性用はありますか?


トム:ユニセックスで使えるスカーフもありますよ。サッソン・ケデムというデザイナーをご存知ですか?イスラエルのとても有名なデザイナーです。彼とコラボレーションして、彼のファッションショーのためにセーターを作ったり、彼自身のためにもセーターを作ったりしました。


ただ、私が完全に手作業でニットを開発しており、しかも裁断をしません。正しいサイズや形になるまでにはかなりの時間がかかるし、制作方法が得られるまでに3から20のサンプルを作る必要があります。イスラエルの男性のみでは十分な市場になりません。イスラエルでは女性のほうが自分自身に投資していますね。


―――すべて手作業とは驚きました。世界にも展開しているとのことですが、どのような国の方がお客様なのでしょうか?


トム:現在はアメリカが多いですね。Etsyというプラットフォームを使っているのが主な理由です。また、イスラエルに来るアメリカ系ユダヤ人も多いです。


私の同僚であり親友のGalit Reismanが12年前にオープンした「TLVstyle」では、ファッションのバックストーリーを紹介するツアーをテルアビブで開催しています。彼女はユダヤ人連盟や観光団体とも協働しており、大きなイベントを行う際に私に声をかけてくれました。それでアメリカのユダヤ人コミュニティと接することができました。


また、ドイツやスイスからも多くのバイヤーが集まっています。ちなみに、日本からのツアーも何度かあり「この手触りやデザインのコンセプトがとても好きだ」と気に入ってくれました。とてもしっくりくるものがあると思います。まだプロモーションやマーケティングはしていないのですが。


―――スタジオでの日常はどんな感じですか?


トム: 1日として同じ日がありません!この数年間で多くのビジネスを経験しましたが、コロナが流行したことで私の人生は間違いなく変わりました。それまではテルアビブにスタジオを持っていて、常に人と会っていたのですが、コロナが流行したことで山の中の小さな村に引っ越したのです。


自宅から歩いて数分のところにスタジオがあり、いつも注文をチェックすることから始めます。これは毎日ではありませんが、新しいデザインとして何を作るか検討したり。現在は、グリーンプリントの新しいコレクションを作りたいと考えています。これまでエコロジーの観点から行っていなかったのですが、今はデジタルでグリーンのプリントを作成することができます。デザインをする日もあれば、制作や作成、新しいオーダーに対応する日もあったりといろいろですね。


毎回オーダーを受けてから、これまでのデザインに基づいて毛糸からフルスクラッチで編んでいます。商品はすぐに使えるように、洗い、蒸し、仕上げを行い、ラッピングしてお客様のもとへ送ります。廃棄物をゼロにするために、すべての商品が欲しがっている人のもとに届くようにしています。


―――通常「Tooshaaya」服はどのくらいの期間着ることができるのですか?


トム:12年前、事業開始当初から使用している衣服もありますよ。非常に高い品質で、常に買い替えする必要がないのでサステナブルです。


着用しないときは、付属のコットンケースで保管すると長持ちします。また、お客様からの問い合わせがあれば、商品の直し方のビデオも用意しています。 



トム:流行に左右されず、いろいろ組み合わせられるデザインが好きです。長く使っていただけますから。私は自分のことをファッションデザイナーではなく「アクセサリーデザイナー」と呼んでいるのです。面白いことに、ファッション雑誌に掲載されているものを見て自分のセーターだとわからなかったことが何度かあります。私自身が着ているセーターとまったく違うスタイルだったので。


また、洋服の寿命が尽きたらお客様がこちらに送り返せるようにするプランを考えています。新しいアイテムを作るためのチュートリアルを提供するのも良いですね。


――― おばあちゃんのセーターが靴下になってしまうように


トム:その通りです。スカーフがラグになったり。私たちのニッター(ニットを編む人)は全員年配の女性です。だからいろいろなコツや、昔はこうだったというコンセプトを教えてくれるんです。その文化を復活させたいですね。その方がサステナブルだし、経済的だし、私たちにとっても良いことですから。


―――さまざまなコラボレーションをされていますが、誰かインスピレーションを受けた人はいますか?


トム:テキスタイルデザインの学生時代に論文を書いたブランドがあるんです。マリメッコというとても古くて大きなブランドです。彼らは独自のスタイルと美学でトールプリントを作りました。私とはまったく違ったスタイルですが、彼らが自然からインスピレーションを得たという点がとても気に入っています。この会社が設立された当初は小さな家族経営の会社で、そこからもインスピレーションを受け、同じようになりたいと思ったのです。私と母は数人のニッターと一緒に仕事をしていますが、ブランドを大きくするためには、投資家や適切なビジネスパートナーが必要ですから、マリメッコのブランドストーリーに学ぶところが多いです。


 ―――ところで、お母様の関わりについてもう少し詳しく教えてください。


トム:母の役割はどんどん小さくなっています。母は自分の好きなこと、アートセラピーや女性のエンパワーメントなど、さまざまなスタイルに挑戦していますから。今は私がメインデザイナーで、母が意見や感想を述べたり、マーケティングを手伝ってくれています。彼女の方が年上なのに、インスタグラムやフェイスブックのことを私よりずっと理解しているのが不思議です。私たちはお互いの能力を補完し合っているようなところがあります。母はスタイルやデザインの仕上げにちょっとしたコツを熟知していて、私はテクスチャーの選び方やアイテムの作り方に長けています。



―――これからの野望も色々あるようですね。


トム:デザイナーとしての悩みは、常に新しいアイデアや新しいデザインを持ち続けなければならないことです。ベビー、キッズ、メンズのほか、ホームインテリアも手がけたいと考えています。ラグや陶器、ジュエリーのデザインもしたいですし……。


―――俗にいう生みの苦しみといったところでしょうか。写真の撮影はどなたがされているのですか? また、モデルはどこで見つけているのですか?


トム:イスラエルのエージェンシー経由のモデルや、インスタグラムで見つけたインディーズモデルです。また、一緒に学んだ私の親友の写真も多く使っています。特にビジネスを立ち上げた初期は、限られたバジェットの中で彼女にたくさん協力してもらいました。本当に大変なときは、私自身の写真も使いました。私はあまりデザイナーには見えないんです。


偶然にも私の父はプロのカメラマンなんです。リアリティやドキュメンタリーを撮っていますが、彼のカメラマンとしての専門はフィーリングを捉えることだと思うんです。私は、モデルにどんな感じを伝えてほしいかを説明します。最終的にほとんどのお客様が海外から購入されるため、写真からアイテムのフィーリングを感じられるかどうかが重要なのです。


近いうちに、いくつか撮影したいと思っています。あとは、プリントを施した新しいコレクションを完成させて、その出来栄えを確認するだけです。小さな独立したビジネスを運営するのはとても難しいことです。それでも天然素材にこだわり、高い品質を保つという自分の指針に忠実でありつづけたいと思っています。


―――ありがとうございました。これから益々活躍されることを応援しています!


Tooshaaya(トゥーシャアヤ)

https://tooshaaya.com/

https://www.etsy.com/shop/TOOSHAAYA

https://www.instagram.com/tooshaaya/


この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:ISRAERU編集部翻訳