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FASHION

イスラエルファッション業界の
シンデレラ

by SHIYA YUBA |2020年10月30日

ビヨンセに見いだされた色彩の魔術師
シャハル・アヴネット(Shahar Avnet)


日本の四国程の大きさしかないイスラエルは、小さいながらもゴラン高原から海沿いを抜けた後には、聖地エルサレムを通過して死海が突如現れ、その後の砂漠地帯へと続く、個性的な土壌で成り立っています。


細長い土壌は、何処か日本の北から南へのコントラストを彷彿とさせますが、個性的な土壌と同様にイスラエル人自体も実に個性豊かです。


イスラエルの北部にあるキブツ(イスラエルの集産主義的協同組合)で産まれたシャハルがデザイナーを目指したきっかけは、15歳の時に祖母から習った編み物がきっかけでした。


編んでいる途中にピンクの糸が切れてしまい、ごく自然に今日の彼女のスタイルへと繋がる個性的な色彩感覚を発揮した彼女は、ピンクの代わりにゴールドとブラウンの糸の組み合わせて編み物を完成させました。初めて完成させた編み物が、自分の想像通りに出来上がった事に驚き興奮したシャハルは、将来服飾に関する仕事につきたいと考えたそうです。


漠然とファッション業界への夢を懐きつつも、シャハルは他のイスラエルの若者と同様に、兵役後にギャップイヤー(兵役後の長旅)を終えた後、23歳でイスラエルの首都テルアビブへ移り住みバーで働きながら、シャンカールの服飾コースで学び始めました。


シャンカールで刺繍やスケッチも専攻した彼女は、その技術を巧みにミックスさせ、オートクチュールにて表現しています。


2017年に彼女の卒業制作ドレスがアメリカの史上最年少エミー賞女優のゼンデイヤのスタイリストであるLaw Roachの目に留まり、W Magazineのカバー撮影にて着用されました。



この出来事は彼女にとって卒業後、歴史あるMaskitのサロンをわずか3ヶ月という短い期間で退社し、自身のブランドを立ち上げる後押しとなりました。


止まらないシャハルの快進撃

この写真がきっかけとなり、皮肉にも彼女がビヨンセの大ファンであるとも知らずに、ある日突然、ビヨンセのスタイリストがChloe X Halle(アメリカのR&Bディオ)の衣装デザインをシャハルに依頼しました。デザインを気に入った彼女はすぐにビヨンセの衣装も追加でオーダーしました。


突然の出来事に恐怖という感情に支配されたシャハルは、落ち着きを取り戻す為に5人兄弟の1人に相談します。


突然のオファーでパニックに陥り、何をデザインしていいかわからなくなった彼女に対し、兄弟はクライアントがどれだけ有名であっても、デザイナーのする事はただ一つ、クライアントが着るべきである服を提供するのみ、と伝えました。


それにファンであるあなたは、ビヨンセを良く知っているでしょうと。



こうして無事に、ビヨンセは彼女のドレスを身に纏い、ステージへと立つ事になりました。


黒だけが正しいわけじゃない


ピーチピンクからオレンジ、蛍光色まで様々な色彩で溢れたスタジオで、コーヒーを片手に彼女は言い放ちました。「私は華やかなパーティーに行く為に、黒い服を選びたくはない」と。


女性はいつも誰かにどう見られるかに重点を置いてしまい、その結果、黒いドレスを選んでしまう傾向にあります。女性は自分が誰であるか、どんな自分でいたいかと自身に問いかける事が大事であり、他人にどう見られようがどう思われようが、自分が幸せになる服を纏う事が重要であると私は思っています。


彼女はInstagramに「LoveYourself」とハッシュタグをつけています。Me tooから始まった女性が自身を大事にし、愛する事へと繋がるポジティブムーブメントは、シャハルのモットーとも重なります。


ありのままの自分を愛する事が大事だと考ている彼女は、中東を始めとした世界中のカービーサイズの女性達が、本当に纏いたい服をサイズによって諦めてほしくないと言う思いから、コレクションのサイズを通常よりも大きい44までとりそろえています。


イスラエルと言うルーツ、
テルアビブと言う場所


ここまで海外で成功しながら、なぜ彼女はイスラエルのスタジオで作品を作り続けているのか?その答えはイスラエル人のアイデンティティにありました。


シャハールは「恥ずかしげも無く、大きな声で自分の意見を伝える私は、根っからのイスラエル人であり、その事自体に誇りを持っていますし、自分の家族はイスラエルで持ちたいと強く願っています」と言います。


「多種多様なユダヤ人の移民から成り立っているこの国の首都テルアビブは、全ての出来事が目まぐるしく移り変わる場所であり、そこで刺激を受けながら作品を産み出す事は私にとって重要である上にイスラエル政府からサポートを受けれないデザイナーにとって、この国から世界へと発信する事は後へと続くデザイナーにとっても重要な事なのです」と。


またデジタルマーケティングの発展によって、ビジネスの物理的な場所はさほど重要ではないと気づいた事も、彼女がイスラエルにいる大きな理由でもあると述べました。


彼女のこの考えは、まるでコロナに影響されている今日の経済を予言していたかのようです。


シャハールに聞く
デザインコンセプトについて


―――まずデザインコンセプトを教えてください。


私のブランドはテルアビブを拠点とした、アートブランドであり、一過性ではなく絶えず変化するファッション業界を反映する為に、マルチシーズンに対応したデザインとなっています。またテルアビブ以外でも、トゥルカレムでRTWコレクションを制作しており、パレスチナの入植地と経済をサポートしていいます。


―――スタジオにはドレス以外にも様々なコラージュや絵が飾られていますが、そちらもシャハールさんの作品ですか?



全て私の作品です。私はアートとファッションの融合からインスピレーションを得ています。各コレクションは、自身の経験や精神的なプロセスからも触発されて出来上がった物であり、アートフォームとしてファッションはより明確な表現力があると信じています。直接絵を描くように刺繍したり、それぞれ異なる寸法やカットアウト、色の根源は私のコンセプトを表現した結果でもあります。


―――シャハールさんにとってファッションとは何でしょうか?



ファッションは私達が行うコミュニケーションであり、実際に何者であるかを表現する為にも存在します。私にとって美しさとは特別な理想では無く、ファッションによって感じる事自体が可能であると信じています。


私は時々女性ができるだけ注目を避けるために、無難な服を着ているのではと悩んでしまう事があります。私は服とは自分自身を表現する物であり、自身を愛する力が服にはあると思っています。


―――日本についてどう思いますか?


日本へ訪れた事はまだありませんが、日本の美学に対して強い興味を抱いており、直接それを体感したいと願っています。また日本食が大好きです。


―――イスラエルのおすすめを教えてください。



イスラエルに来たらまず海へ行き、自然の中を散歩してみてください。美味しいイスラエル料理のレストランで食事をして、地元デザイナーの商品を手に取ってみてください。きっとお気に入りの1品が見つかるはずです。


―――商品を日本で購入する事はできますか?


日本のジャーナルスタンダード(http://journal-standard.jp/)で、アイテムの一部を購入する事ができます。


電光石火の勢いでトップデザイナーの仲間入りを果たした彼女ですが、彼女の成功はそのイスラエル人らしい豊かな個性と揺るぎなく自分を愛する事から来ているのかもしれません。


ウェブサイト

https://shahar-avnet.com