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FASHION

ユダヤ教超正統派でモデル、ジャーナリストとして活躍するメレック・ジルバーシュラッグ氏が語る宗教と生きる近代的生活

by Rotem Kles |2020年07月31日

Photo by Yonatan Bloom

「イスラエル以外の人たちに僕の名前の意味を伝えるのはとても面白い事なんだ。だって、そんな人たちにとって僕は、変な国から来た変な名前の奴、って感じだからね。」


こう語るのは、ユダヤ教の宗派の中でも、特に宗教的に非常に厳格な生活を守る「超正統派」のメレック・ジルバーシュラッグさん。今やInstagramのフォロワーは10万人を超え、モデルそしてジャーナリストとして活躍しています。


「それでもって、僕が自分の名前の意味、これ、王様、って意味なんだけど、それを説明すると、ますますみんなはヘンテコに感じるわけさ。僕はむちゃくちゃ普通の家庭の出身だし、もう何年にも渡って、コミュニケーションの仕事を生業としてる。デジタルコンテンツやTV、ラジオのジャーナリストだった訳だしね。ただまあ、ほとんどの人は、僕みたいな宗教的背景のある人間がこの分野の職業を選ぶことに、なんだか場違いな感じを抱くみたいだね。でもそれって、時にはプラスに働くこともあるんだ。だって、僕は自分自身のユニークさ、独特さを十分自覚してるし、その分野を代表する人物だって期待されてもいる。最終的には、自分が何をやったか、やってきたかで判断される事だからね。」


元々TVパーソナリティであったメレックさんを一躍有名人にしたのは、数年前の全国放送TV局での番組がきっかけでした。そこで放映された、彼の制作による彼の人生とその信条に関するビデオは、非常に大きな反響を呼び、その放映後、彼のSNSにはものすごい数のフォロワーが集まりました。今日彼は、非常にユニークな個性とファッションセンスを持ったモデルでもあり、何よりも、しっかりした信念を持ったジャーナリストであると見なされています。


今回はユダヤ教の超正統派に属し、インフルエンサーとしても人気を博すメレックさんに、宗教観や現在の活動などお話を伺いました。


Photo by Shlomi Yosef

―――まずはあなたの信条を説明していただけますか?


メレックさん(以下:メレック):宗教を信じていない人たち、そういった文化的背景を持たない人たちにとって、僕らは、自分では抗えない何かに支配されている人々、って思われがちだ。


確かに、ユダヤ教の根本には、物事の結果は、人智を超えた何かによってコントロールされている、っていう思想が存在している。でもね、それは時には、例えば、悲しい出来事や、お金を無くしたとか、恥ずかしい思いをしたとか、そういった自分ではどうしようもできない状況に対しても、自分の進む道を示してくれるものなんだ。


どうしてそんな事を信じているのかって?僕は、社会で起こる全ての事柄は、必ず意味のある事だって学んで育った。この世の全ての出来事は、起こるべくして起った事であり、その結果起った事も、やっぱり起こるべくして起った事なんだ、ってね。そう、空の上のどこかに誰かさんがいて、この世の全てを決めて、全ての事柄の責任を取ってると感じているんだ。自分が行っている様々な事は、世界を作り上げたこの神聖な存在に対する行動だって思っているし、逆にその存在が、僕のために何かを行なってくれているのだとも考えている。


神とは、僕にとってまさに「善なるもの」であり、僕を導いてくれるものなんだ。だからこそ僕は神を愛するし、神の言葉に従おうとするのさ。僕は、自分の属する社会、僕のラビ、僕の友達、そして僕の家族から、自分がちゃんと受け入れられている、っていう感覚をいつも感じているよ。


Photo by AMIR YAHEL

―――毎日決まって行なっている事はありますか?また、宗教を信じない人々にそれをどう受け入れてもらおうと思いますか?


メレック:うーん、それはちょっと込み入った質問だね。僕は、17の時からずっと、自分の選んだ道は本当に正しいのかって、周りから聞かれ続けてきた。でも、特に若者にとって、自分がなぜそんな人生を歩んでいるかなんて、まず答えられない質問だよね?誰だって間違いは起こすものだけど、でも、宗教心を持っている人を見れば分かるように、僕は、そういった個人的側面とは異なる期待を周囲から寄せられているんだ。いや実際、ほとんど毎日って言っていいくらい、自分の行動を正当化しなければならないような状況にぶち当たっているよ。でもね、確かに全てが上手くいくものではないけど、正直言って、そう言った失敗も含めて、まあまあこの状況には満足しているんだ。


神を信じていれば、たとえどんな悪いことがこの身に降りかかろうと、それは僕の人生の一部なわけだし、全身全霊をもって、その事を受け入れるしかないと思うからさ。


イスラエルでは、僕のような宗教心を持つ者と、そうでない人々との間には、深い溝がある事は確か。だけど、僕自身がこんな立場にいる事で、この溝に橋を架けることができる稀有な存在なんじゃないかって思っているんだ。宗教地区に住む十人の子持ちの家族が、大都会で犬を飼っているハイテク企業の社員のことを知りたいってこともあるだろうし、逆もまた然り、ではないですか?


―――どんな事に対して、一番納得が行かないと感じますか?


メレック:例えば、僕が女性のジャーナリストが参加しているステージやミーテングに行ったとしようか。でも、僕は彼女たちと、ハグどころか、握手さえできないんだ。だって、ユダヤ教では、家族以外の異性との接触は厳しく諫められているからね。それを一度許してしまうと、歯止めは効かなくなる。


もう一つ例を挙げてみようか。僕の父の話だ。僕が子供の頃、父は、とある有名で権威のある雑誌から、ある賞を受賞することになったんだ。たまたまその時、その雑誌を発行する会社の社長は女性だった。無論父が壇上に上がれば、その女性に恥をかかせないためにも、彼女と握手せざるを得ないわけだけど、その代わりに父は、母を壇上に呼んだのさ。彼女無しではこの賞は達成し得なかっただろう、って言ってね。そう、こんなちょっとした賢い方法で、こんなトラブルは避けることが出来るんだよ。


Photo by AMIR YAHEL

―――あなたはご自分の属する社会を代表する人物であると考えていますか?


メレック:いや、そんな風には思ってないよ。そんな、社会のため、なんていう考えで働いているわけではないからね。でも、必要な時があれば、僕の声で何かを自分の属する社会に届けたいと思っている。 だから必要な時には、周囲からの批判にも寛大になれるんだ。僕は、僕の属する社会に対してイスラエル的な考え方を、異なるやり方で周囲に伝えてきたつもりだけど、それは、強制されたものでもなんでもないことだからね。


―――SNSを発信源としようとしたきっかけは?あなたの属する社会の人たちは、それをどうやって利用してるのでしょうか?


メレック:それは本当に偶然のきっかけで起こったことだったんだ。僕は、書くことが好きで、生涯を通じて、様々な事柄を文字に記してきた。FacebookやTwitterで沢山の人達にそれを読んでもらい、結果、フォロワーになってもらったおかげで、新しいTVチャンネルにスカウトされた。そこが全ての始まりだったね。

ある日、自分の属する社会に関してのビデオを制作したのだけど、次の日、モデルの仕事をしていた時、自分のInstagramが炎上したんだ。そんな事が起こるなんて、考えてもいなかったよ。でも、僕がはこの内容でビデオを作ろう、って思っていたし、内容を疎かにはできなかった。もちろん、いつでも僕が正しいなんて思っているつもりはないけど、今回だけは絶対に正しいって考えていたね。

SNSというメディアは、自分が語り掛けたい人間だけに語れるようなメディアではないよね?僕の風貌なり身なりは、確かに周囲からは浮いて見えるだろうし、目立ってもいる。そんなことから僕に対して色眼鏡を通じて見てるような人達に対しても、僕はSNSを通じて僕の本当の色は何か、そして僕の人生がどんなものなのかを語りかける事ができると思ってるんだ。


―――あなたの属する宗派の人々にとって、SNS はどんな意味を持つものでしょうか?


メレック:それも、答えるにはちょっと込み入った質問だね。コロナ禍の騒ぎで、僕らの宗派も、その中で何が起こっているか、外に向かって発信しなければならない状況になっている。だって、情報こそが命そのものの状況だからね。イスラエル政府がこの危機をうまく乗り越えられていない状況の中、インターネットなんか今まで使ったこともないような人たちも、インターネットを使って発信していく以外、他に選択肢はないからね。


―――将来、どんなことをしてみたいですか?


メレック:全国放送のTV局で仕事を始めた当初、僕らは本当の意味でゼロから立ち上げなければならなかった。全く新しいチャンネルだったからね。でも。数ヶ月で大成功を収めるに至ったんだ。それは、様々なトピックをカバーした優れたコンテンツを生み出せたからだろうし、新たな試みも色々と試すことが出来たからだと思っている。ランダムにトピックを選んで編集したような動画も多かったけど、まあ、忙しい日常から解放されて、ちょっと休みを取っているような時には、そんなシンプルな動画をぼーっと眺めることが、みんな良かったんじゃないかな。

内容的には、政治の腐敗だったり、悪いニュースだったりもしたけど、それでも視聴者は、楽しませてくれる何か、エンタテイメントな何かをそこに感じてくれていたと思うんだ。でも結局僕はその仕事を辞めてしまった。それはね、テレビの現状を変えて行きたい、って思ったからなんだ。今、若い世代はテレビの仕事なんてしたくないって思っているよね。まあ23歳のガキの、うぬぼれた発言に聞こえるかもしれないけど、僕はこの業界を根本から変えたいと思っている。それに、同じような考えを持っている才能ある人間がいっぱいいる、っていう事も分かっている。絶対にできると、信じて疑っていないよ。


―――メレックさん、本日は貴重なお話を聞かせて頂きありがとうございました!


メレック・ジルバーシュラッグ Instagram

https://www.instagram.com/ze_lama/