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イスラエルが誇る世界的アーティスト、Idan Raichel(イダン ・ライヒェル)とは
現代イスラエル音楽のトップ・プロデューサー、キーボード奏者、作詞作曲家そして演奏者として幅広く活躍しているイダン・ライヒェル。17年に渡るキャリアにおいて、もっとも成功したイスラエル人アーティスト、そしてイスラエル音楽を世界に発信するパイオニアとしての地位を確立しました。
イスラエルのケフェア・サバで生まれ、東ヨーロッパ系の家庭で育ち、特に音楽のルーツがある家系ではありませんでしたが、逆にそれが、世界中の様々な音楽を素直に聞き入れるきっかけとなってくれた、と本人は話しています。
9歳の頃にアコーディオンを弾き始め、幼い頃からジプシー音楽やタンゴなどのエキゾティックなサウンドに心惹かれていました。のちにキーボードを弾き始め、高校でジャズピアノを習ったことで、即興演奏や他のアーティストとコラボレーションをする才能を開花させました。イスラエルで兵役を終えた後、すぐにプロのミュージシャンとして活動を開始し、Riki Gal(リキ・ガル)やIvri Lider(イヴリ・ライダー)など、メジャーアーティストのバックアップミュージシャンとしてのキャリアを成功させました。
サポートミュージシャンとして他のアーティストとコンサート共演やレコーディングなどをする傍ら、自分自身の作詞作曲家そしてプロデューサーとしての音楽的構想を表現するために、独自のプロジェクトを立ち上げ、両親が住む家の地下に小さなレコーディングスタジオを構え、多くのシンガーやミュージシャンを招いて、彼の独特なスタイルでコラボレーションをし、デモテープを制作しました。これが、のちに世界的に注目を浴びるようになったThe Idan Raichel Project(ジ・イダン・ライヒェル・プロジェクト)の始まりです。
音楽で世界を一つにするThe Idan Raichel Project(ジ・イダン・ライヒェル・プロジェクト)
長年にわたり、イダンは、アーティスト間の芸術的なコラボレーションが異なる背景や信念を持つ人々の間の障壁を打ち破るという信念を持ち、世界を代表する活動家となりました。
デモテープには、30人以上のアーティストがレコーディングに参加し、絶え間なく発展するテクノロジー、そして多様な音楽のルーツと伝統的な楽器に対する彼の愛と好奇心により、イダンはイスラエルでは一般的に従われなかったさまざまな実験的な方法で、新しい音楽を生み出していきました。
2002年11月、イスラエル大手のレコードレーベルであるHelicon Musicによりリリースされた最初のシングルBo’ee / Come With Me(ボイ / 一緒においで)は、エチオピア人であるYair Ziv(ヤイール・ジブ)とShiran Cohen(シラン・コーエン)によってヘブライ語とアムハラ語で歌われた歌詞と歌声が、新しい「ワールドミュージック」のコンセプトを表現し、イスラエルで大ヒットとなりました。
同年12月にHelicon MusicからリリースされたフルアルバムThe Idan Raichel Project(ジ・イダン・ライヒェル・プロジェクト)は、イスラエルのトップチャートを席巻したトップセラーのバンドを生み出すと同時に、人々を繋げる音楽の力を象徴するものとなりました。
レコーディングアルバムが売れることによりライブでのパフォーマンスの需要が高まり、数多くのアーティストがレコーディングに参加していることから全員を集めることは難しく、イダンはなかでも多才で強い個性を持つアーティストを選び、ツアーのためのグループを結成。プロジェクトの2枚目のアルバムのレコーディングと並行して、初のツアーを開催しイスラエルの国中を周りながら100回以上のコンサートを行いました。
2003年には、最初のアルバムThe Idan Raichel Project(ジ・イダン・ライヒェル・プロジェクト)がACUM(イスラエルの音楽著作権団体)のアルバム・オブ・ザ・イヤーに選ばれ、イダン自身は「ピープル・オブ・ザ・イヤー賞」の音楽部門を受賞し、イスラエルの全国放送でその様子が放映され賞賛を集めました。
2004年にリリースした2枚目のアルバムMi’Ma’amakim / Out of the Depth(ミマアマキム /地の底から)では、イダンは、イスラエルに存在する様々な民族の文化からインスピレーションを受け、イスラエル人としての本質を体現しています。このアルバムのヒットをきっかけに、アメリカやヨーロッパの海外ツアーが決まり、イギリスとシンガポールのWOMADやメキシコのCervantinoなどの国際的に有名な音楽フェスティバルなどにも参加し、世界的にイダンの音楽が注目されることになります。
イスラエルでの成功を収めたあと、2006年に初めてアメリカのCumbancha(クンバンチャ)レーベルがThe Idan Raichel Project(ジ・イダン・ライヒェル・プロジェクト)の最初の2枚のアルバムから選曲された12曲を含むアルバムを60カ国以上でリリースし、イダンの新しいワールドミュージックを聴いた世界中のオーディエンスを魅了しました。このアルバムはビルボード紙やニューヨーク・タイムズ紙からは、ベストワールドミュージックアルバムと賞賛され、BBCラジオアワードの中東&北アフリカ部門、そしてクロスカルチャー部門の最優秀賞にノミネートされました。
このプロジェクトにおいて、イダンは4枚のレコーディングアルバム、他のアルバムでは聞けないライブコンサートの収録や貴重なスタジオレコーディングを含む3枚CDセットをリリースしています。イダンは当初から、このプロジェクトをアーティスト間のコラボレーションとして捉え、それぞれのアーティストが独自の音楽文化と才能を平等に表現できるような場所、舞台づくりをしました。これまでに、16歳から91歳までと年齢も幅広く、さまざまな国や文化的背景からくる95人以上のアーティストがこのプロジェクトのレコーディングとパフォーマンスに参加し、アラビア語、ドイツ語、スペイン語、アムハラ語、フランス語、ヘブライ語などのさまざまな言語の歌詞を組み合わせ、イスラエル人だけではなく、世界中の人々の心に届く音楽を作り続けています。
プラチナレコードとなったReva Le’Shesh / Quareter to Six(クォーター・トゥ・シックス)
2013年にヒットしたThe Idan Raichel Project(ジ・イダン・ライヒェル・プロジェクト)のシングル、Achshav Karov / Closer Now(訳: 今もっとそばに)やBa’Lyala / At Night(訳: 夜になると)を含む4枚目のアルバムReva Le’Shesh / Quareter to Six(クォーター・トゥ・シックス)は、日本でも人気のアルバムとなっています。
The Touré Raichel Collective(ザ・トゥーレ=ライヒェル・コレクティヴ)というプロジェクトを一緒に立ち上げた西アフリカ・マリ出身のギタリスト、Vieux Farka Touré(ヴィユー・ファルカ・トゥーレ)をはじめ、世界各国の有力アーティストとコラボレーションをしていて、ポルトガルの歌姫Ana Moura(アナ・モウラ)とイダンとのヘブライ語とポルトガル語のデュエットSabe Deusや才能溢れるパレスチナ系イスラエル人歌手Mira Awad(ミラ・アワド)によるアラビア語の曲Ana Ana wa Enta Enta / I am What I Am(訳: 私は私) 、世界最高峰のカウンターテナー歌手であるAndreas Scholl(アンドレアス・ショル)が歌うドイツ語の曲In Stiller Nacht / In A Quiet Night(訳: 静かな夜に) を収録し、イダンのファンにはたまらない「イダン節」ともいえる憂ある美しいメロディが聞ける一枚です。
このアルバムに参加してるコロンビア生まれの人気歌手Marta Gómez(マルタ・ゴメス)は、もう一つのアルバムWithin My Wallsで収録したTodas Las Palabrasがイスラエルのラジオで大ヒットとなり一躍有名になりました。イダンは、ふとした場所や機会に出会った新しい才能を見出し、世界中の新人アーティストをプロジェクトのアルバムに参加させていました。
16曲を収録したこのアルバムは、アメリカやヨーロッパをはじめとする世界各国でリリースされ、iTunesのワールドミュージックチャートでもっとも売れたアルバム10以内にランクインし、イスラエルでは9ヶ月続けてトップチャートに入り、123,000枚の売り上げを記録したトリプルプラチナレコードとなったのです。
世界的ポップスターAlicia Keys(アリシア・キース)とのコラボレーションと、世界平和のための活動
誰もが知っている世界的スターAlicia Keys(アリシア・キース)との繋がりは、彼女がテルアビブで行われた自分のコンサートに、ゲストアーティストとしてイダンを招待したことから始まります。ピアノを弾き語る二人のデュエットは、世界中の注目を集めました。
ピアノ・キーボードを演奏するという共通点の他に、アリシアとイダンは「世界平和」を目指す心、そして人種差別や宗教・文化の違いから生まれた対立のある世界を音楽の力で変えていこうとする目的を共有しています。
2014年9月にニューヨークのセントラルパークで行われたGlobal Citizen Festivalで、アリシアはイダンとパレスチナ人歌手そしてカーヌーン(アラビア音楽の伝統的な弦楽器)奏者のAli Amr(アリ・アムル)をステージへ招待し、約7万人の観客の前で一緒にWe Are Hereという曲を披露しました。この曲は平和のための世界的な取り組みでオーディエンスを団結させ、若者が世界をより良い場所にするために積極的な役割を果たすことを奨励するために書いた曲で、世界規模の課題の解決を目的とした団体Global Citizenが主催のチャリティ型音楽フェスティバルであるGlobal Citizen Festivalにまさにぴったりの曲でした。
同年の11月にイダンがMTV Role Model Awardを受賞したことに対しアリシアは、音楽を通じて様々な文化の橋渡しをし、寛容さを人々に奨励しているイダンの素晴らしさを讃えたコメントをしています。
2016年の5月には、イスラエルのエチオピア系ユダヤ人移民に対する人間の尊厳、人種的平等、人種的調和をもたらした功績とリーダーシップを評し、人権主導者のマーティンルーサーキング牧師の息子であるマーティンルーサーキング3世からイダンへUnsung Hero Award(功労賞)が贈呈されました。
初の日本ツアーとソロアルバムの制作
2015年12月、ついにThe Idan Raichel Project(ジ・イダン・ライヒェル・プロジェクト)初の日本ツアーが開催されました。中野サンプラザでの公演を含む、神奈川・大阪・京都などの大規模な会場での8日間の短いツアーでしたが、イスラエルだけでなく世界で注目されている人気バンドを一目見ようとたくさんの観客が集まりました。
日本ツアーを終え、二人目の娘を授かってから、本格的にソロアルバムの制作を始めたイダン。The Idan Raichel Project(ジ・イダン・ライヒェル・プロジェクト)の最初のアルバムをレコーディングした実家のスタジオで、初心に戻って音楽制作に励んだとのこと。
初のソロアルバムHa’Yad Ha’Chama/ At the Edge of the Beginning(アット・ジ・エッジ・オヴ・ザ・ビギニング)は、世界的ミュージックスターの人生のターニングポイントを表しています。イダンが今までの過去、愛、人生、そして彼の大切な家族、長年のパートナーであるDamaris Duval(ダマリス・デュバル)と2人の娘の重要性を振り返る機会となったそうです。
このアルバムには、ヒットとなったシングルMa’agalim / Circles(サークル)、 Lifney She’yigamer / Before It Ends(訳: 終わる前に)やHa’Yad Ha’chama / The Warm Hand(訳: 温かい手) が収録されています。曲によってギターやベース、アコーディオン、中東の伝統楽器の演奏などが加わっていますが、基本はイダン自身によるピアノと歌の弾き語り。これまでのプロデューサー的な視点ではなく、一音楽家としてのパーソナルな視点で綴られたの美しいメロディと歌詞で新境地を開いてくれました。
2019年にリリースされたイダンの最新ソロアルバムVe’Eem Tavo’ee Elay / And If You Will Come to Me(もしも君が来るのなら)は、アコースティックなサウンドのファーストソロアルバムは打って変わって、2017年から2018年にかけてリリースされたシングルを含むポップでアップビートな曲が集められています。
Berry Sakharof(ベリー・サハロフ)やZehava Ben(ゼハヴァ・ベン)といったイスラエルの人気アーティストのほか、ニジェール出身ギタリストのBombino(ボンビーノ)、キューバ出身グラミー賞ノミネートアーティストのDanay Suarez(ダナイ・スアーレス)、さらに日本からも津軽三味線の北村姉妹といった音楽家らがゲスト参加していて、今回特別にレコーディングされたThe Idan Raichel Project(ジ・イダン・ライヒェル・プロジェクト)の曲も収録されています。
アルバムのオリジナルパッケージは、エチオピア人アーティスト、Gashahun Kassahunが手がけた絵とそれぞれの曲の歌詞を綴った10枚のポストカードが付いているそうです。
アルバム名と同じタイトルのシングルVe’Eem Tavo’ee Elay / And If You Will Come to Me(もしも君が来るのなら)は、イダン・ライヒェル史上最高のヒット曲となっています。
人種や国籍、音楽ジャンルを問わないオープンマインドな音楽で世界を魅了し続けるイダン・ライヒェル。是非皆さんも、彼のワールドミュージックの世界へ聴き入ってみてください。
ご紹介したイダン・ライヒェルのアルバムは、こちらから購入できます。
オフィス・サンビーニャ公式ウェブサイト: https://www.sambinha.com/
The Idan Raichel Project(ジ・イダン・ライヒェル・プロジェクト)
Reva Le’Shesh / Quareter to Six(クォーター・トゥ・シックス)
Ha’Yad Ha’Chama/ At the Edge of the Beginning(アット・ジ・エッジ・オヴ・ザ・ビギニング)
Ve’Eem Tavo’ee Elay / And If You Will Come to Me(もしも君が来るのなら)
写真素材・情報提供: オフィス・サンビーニャ