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CULTURE

日本人なら誰もが一度は聞いたことがある「ナオミの夢」を歌うイスラエル人女性歌手

独占インタビュー |  「ヘドバとダビデ」のヘドバ・アムラニ

by Shiori Ichikawa |2020年09月22日

Hedva Amrani Portrait

日本では「ヘドバとダビデ」でお馴染みのヘドバ・アムラニさんは、イスラエルを代表するシンガーの一人。国際的な大ヒットとなった「ナオミの夢(I Dream of Naomi)」は、1970年に日本で行われた第1回ヤマハ国際音楽祭で優勝した曲です。多くの日本人が今でもこの曲を覚えていますが、ヘドバさんは今年50年ぶりにニューシングル「生きてこう」をリリースしカムバックを果たしました。今回の独占インタビューでは、新曲の背後にあるストーリー、ヘドバさんの日本での経験や日本のファンへのメッセージなどについてお聞きしました。

テルアビブ美術館で行われたコンサートにて

―――今回日本では50年ぶりに新曲をリリースされましたが、その経緯を教えていただけますか?


Hedva: 数年前にリリースした“Just Be”という曲がイスラエルでNo.1ヒットになり、多くのラジオステーションで流されました。その中でもポイントとなったのが若いリスナー向けのGalgaltzというステーションで、イスラエル国内だけでなく世界中のポップミュージックを流している18〜20歳くらいの若い兵士たちによって運営されている軍事ラジオ局でしたが、そんな若者向けのラジオ局で自分の曲を流してもらえてとても嬉しかったです。そのおかげで一般に広く私の曲を聞いてもらえるようになり、トップチャート入りもしました。今まで定期的に新曲をリリースしていましたが、なかなかヒットにならず..10年ぶりくらいのヒットとなり、久しぶりにとってもワクワクしました!


生きてこう」にはとてもポジティブなメッセージが込められているので、是非日本でもリリースしたいと思いました。メロディーもとても気に入っていて、70年代のサウンドなのに今どきのコンテンポラリーなアレンジが効いていて、素敵な雰囲気の曲だと思います。マネージャーに相談し、日本でのリリースにぴったりの曲だとお互いに同意したので、試してみることにしました。まずイスラエルの日本大使館に問い合わせ、すぐに日本にあるイスラエル大使館を紹介してもらい、そこから色々な方への紹介を受け、もちろんそこでSivanSとも繋がることができました。


SivanS株式会社はこのISRAERUウェブマガジンの運営会社であり、ヘドバ・アムラニさんの日本での新曲リリースのサポートに携わったコミュニケーションエージェンシーです。


ナオミの夢」も最初はヘブライ語の曲でしたが、イスラエルの代表曲としてヤマハ国際音楽祭で歴史的な優勝を遂げました。今回も「やってみよう」ということで日本でのリリースを決定しましたが、日本のリスナーの方々にも気に入ってもらえれて、とても嬉しいです!

ヘドバ・アムラニ「生きてこう」を聞くにはこちらをクリック

―――オリジナルのヘブライ語の曲は “Just be(日本語訳:そのままでいよう)” と英語のタイトルがついていますが、なぜ日本語の曲名は「生きてこう」と名付けられたのでしょうか?その背景や想いを教えてください。


Hedva: 実はその英語タイトルの訳は間違っているんです。本当の意味は「ありのままに生きよう」なので、クニコ・コーヘンさんが日本語訳をされた時に正しい言い回しにしてくれたと思います。ヘブライ語の曲名である“Pashut Liheyot”は、「目の前にあることに感謝して生きよう」という意味で、この曲そのものが表していることです。日常のシンプルなこと、朝起きて1日を始める時に朝日が差し込んでいる様子や、運転している時に隣のドライバーがクラクションを鳴らさずに道を譲ってくれたり、小さな子供が愛いっぱいに母親の腕の中へ飛び込んでいる様子など、日々の生活の中のポジティブなことに感謝して楽しもう、というメッセージが含まれています。悲惨なことや人生において理解し難い出来事などは隅において、人生の素晴らしいことを考えて生きていこう、そんな曲です。人生は自分がそう信じていれば、とても美しいものになると思いますよ。


私が人によく伝えるメッセージがあるのですが、自分が人に期待しているように人を愛し与えなさい、そしていつもポジティブにハッピーでいて欲しいです。日本語訳を担当したクニコさんは、とても素晴らしい訳詞を考えてくれました。日本語訳にしたものをもう一度ヘブライ語に戻して確認させてもらったのですが、きちんと奥深い意味を理解し美しい訳詞を仕上げてくれたと思います。それに彼女が選んだ言葉はちゃんと韻を踏んでリズムにあっていて、生き生きとしたサウンドになったので、とても気に入っています。


―――素敵ですね!偶然ですが、実はクニコさんはISRAERUのライターの一人なんですよ。先ほどヘドバさんの新曲「生きてこう」は70年代のサウンドだけどモダンなアレンジが効いているとおっしゃっていましたが、日本人にとっては伝統的な歌謡曲のサウンドに似ていると感じるかもしれません。イスラエルでは一般的な曲調なんですか?


Hedva: そうではなく、どちらかというとユーロビジョン・ソング・コンテストで歌われそうな曲調ですね。ユーロビジョンはイスラエルではとても人気で、アメリカンというよりはヨーロピアンな曲が多く歌われています。ユーロビジョンにぷぼするために3曲収録したのですが、あと1票というところで入選はできませんでした。ですが、私のファンの中にはユーロビジョン・ソング・コンテストが好きな人が多いので、同じようなサウンドの曲を作ろうと思っていました。

―――そうなんですね!とても興味深いです。オリジナルのヘブライ語の曲“Pashut Liheyot”をリリースした時のイスラエルのファンの反応はどうでしたか?


Hedva: とても気に入ってもらえましたよ!国内でNo.1ヒットになりましたからね。日本語でリリースした時もすごい反応がよかったです。SNSに日本語バージョンを投稿したら、イスラエルの友人やファンたちから沢山の素敵なコメントをもらいました。


―――日本のファンからもとても良い反応やコメントがありましたよね。日本語はヘドバさんにとってもちろん母国語ではないわけですが、とてもナチュラルに歌われていますね。違う言語で歌う時の難点や、学び方そして練習の仕方を教えていただけますか?


Hedva: 実は、ヤマハ国際音楽祭で優勝してから24時間以内に日本語で曲を覚えなくてはならなかったんですが、信じ難いことに日本語の発音はヘブライ語に結構似ていますよ。どちらも口を大きく開く母音が多いですね。日本語では「あなた」「さかな」や「いま」そしてもちろん「ナオミ」という単語がありますが、全部ヘブライ語でも意味を持っています。例えば、ヘブライ語で「いま」は「お母さん」、「さかな」は「危険」という意味の単語です。意外にも同じ発音の単語がたくさんありますので、日本語は私にとって真似しやすい言語でした。70年代に日本で初めてレコーディングをした時にプロデューサーが、ビートルズもエルビスも試したけど正しく発音できなかった、と言っていたのを覚えています。テレビで姿をみるまで「ナオミの夢」を歌う私たちが日本人ではないことを知らない人が多かったようです。


日本語の歌詞を覚えることはいまだに難しいので、正しく発音するためにたくさん練習しますよ。まずは日本語の単語の発音を、ヘブライ語または英語で知っているものに関連付けます。例えば「生きてこう」の場合、「い」や「き」はヘブライ語の音ですし、「てこう」は英語の“take it(テイクイット)” や “Take out(テイクアウト)”に似ているので、最初はそうして一つの単語を覚えていき、それを何度も繰り返して、2つ3つとつなげて文章を覚えていきます。歌詞を覚えている期間は、どこへ行くにも肌身離さず歌詞を持って行きます。ベッドサイドにも置いておいて、夜中にふと目が覚めてしまった時に少し暗記したり、散歩中や朝ごはんを食べている間に暗記したりします。特に一番効果があるのは泳いでいる時です。毎日水泳をしていますが、水に顔をつけないで平泳ぎや背泳をするので、泳ぎながら文章を繰り返し音読して練習しています。


もし日本を訪れてパフォーマンスをする機会があったら、6-7曲くらいは流暢に日本語で歌を披露したいので、もっとたくさん日本語の曲を練習したいと思っています。今は「生きてこう」と「ナオミの夢」そしてこれからリリースする“Salam Alekum(日本語タイトル: 「祈り」)”ともう1曲日本語で収録したのを含めて全部で4曲を日本語で歌うことができるので、あとどれくらい学べるか、頑張ってみます!


―――2015年にはNHKコンサートで若手演歌歌手の山内惠介さんと「ナオミの夢」を歌うために来日されましたが、他に共演してみたい日本人アーティストはいますか?


Hedva: クレイジーケンバンドさんが「ナオミの夢」をカバーされたと聞いてとても光栄でした。是非コラボしたいですね。それから、もう一度三味線奏者の久保田祐司さんや山内惠介さんと共演できると嬉しいです。でも一番やってみたいことは、日本のトップチャートに入っている若いアーティストとコラボレーションしてみたいですね。今は若い世代にリーチしたいというモチベーションを高くもっているので、是非もっと若い人たちに私の音楽を聞いてもらい楽しんで欲しいと思います。

ヘドバとダビデ「ナオミの夢」を聞くにはこちらをクリック

―――初めて来日されてから今までの旅行で、印象に残っている日本の思い出はありますか?


Hedva: たくさんありますよ!第一印象としては、日本すべてが清潔で整頓されていることと、日本人がとても礼儀正しいことですね。日本の方は、相手が快適に過ごして満足できるように最善を尽くしてくれます。日本人に道端で方向を聞くと、ただ「まっすぐ行って、左曲がって右曲がる」と言い放つだけでなく、ちゃんとその場所まで行けるように一緒についてきてくれますよね。本当に素晴らしいと思います。西洋の世界とは全然違いますよね。


それからタクシーの運転手の人たちがいつも白い手袋をはめていたことも印象に残っています!あと日本で最初にオープンした三越デパートに行った時に、可愛い女の子がエスカレーターの前で、1970年なのに既に顔にマスクをして手すりを拭いていたのを覚えています。他ではみたことのない光景にびっくりしました。今のこのコロナの時代はありえるかもしれないですけどね。

1971年 – 銀座の街を歩くヘドバとダビデ

あと日本料理も好きですよ。お寿司に慣れるまでに時間はかかりましたが、あとから大好物になりました。お寺や日本文化のスピリチュアルなところが大好きです。日本庭園も最高ですね。私と私の夫は鯉が大好きで、自宅の庭に12mくらいの大きな池があるのですが、そこで鯉を飼っています。


5年前に日本へ行った時には、新しくできたモダンな建物や建築デザインに圧倒されました。それから京都へも行きましたが、京都は私たちにとってのエルサレムと似ていて「聖地」のように感じられる都市なので、とても気に入っています。あと、直島などアートアイランドと呼ばれる5つの島にも行きました。島にある小さな村そのものが美術館のようになっていて、とっても素敵でしたよ!人々の家や庭園、畑などの風景すべては芸術になっていました。直島にある美術館がホテルになっていて、私たちはそこに滞在して至福の時間を過ごしました。

1971年 – TOP DISKオリコン賞の授賞式にて

―――是非また日本にいらして欲しいです!今現在はLAにお住まいですが、日本の読者の皆さんに伝えたいイスラエルの良さやヘドバさんが好きなことはなんですか?


Hedva: イスラエルの良いところもたくさんありますよ!先ほど日本人が礼儀正しくて温厚と言いましたが、イスラエル人はその真反対で騒々しいと感じるかもしれません。でも一方でとてもフレンドリーで活発な人々ですよ。日本人は物静かで落ち着いていますが、イスラエル人はとにかく社交的でシャイではないので、すべてを曝け出す傾向があります。特に順番を待つのは苦手で、日本人のように礼儀正しく並んで待てないですね。でももし誰かの車が道路で止まってしまったり、道ゆく人が倒れそうになったら、真っ先に駆けつけて助けようとします。それにイスラエルを訪れてShabat(ユダヤ教の安息日)の時に行く場所がなければ、自分の家に快く迎え入れてくれるでしょう。イスラエル人は家族をとても大事にします。私がイスラエルにいる時に一番好きな時間は、家族との時間です。金曜の夜から土曜の夜の終わりまでの間のShabatでは、親戚など皆が集まり、家族と楽しい時間を過ごします。 イスラエルの祝日はどれもお祭りのようにお祝いするので、とても楽しいですよ!それからイスラエルの各地域の景色はとても美しく、神々しい山や川など美しい場所がたくさんあります。隣接する海の水温が高いので、水中に入ってもサウナのようで気持ちいいですよ!


そしてエルサレムといえば、ユダヤ山脈の上にそびえるとても神聖な場所として知られていますが、一方でテルアビブにはビーチがあり、今までにない経験ができる街として若者に人気で、一晩中営業しているバーやクラブがたくさんあります。テルアビブにはたくさんの美術館や劇場もあり、とても芸術的な街でもありますね。イスラエルにあるレストランも格別ですよ!ニューヨークからロンドン、ベルリンなど、世界各地でレストランを経営している国際的に有名な素晴らしいシェフがたくさんいます。


イスラエルの北や南の地域も私のお気に入りです。ミシュランスターを獲得している素敵なホテルや、セーリングできるスポットがたくさんあります。イスラエル人はセーリングが好きですね。 他には?と聞かれるとまだまだありますが、全体的にイスラエルはとても友好的な国だと思います。イスラエルでは、LGBTQなどすべての人々を歓迎しているので、イスラエルのことが好きな若者は多いのではないでしょうか。テルアビブプライドという世界最大のゲイパレードがあり、毎年世界中から多くの人が集まります。私も2年前にそのゲイプライドのためパフォーマンスをしましたが、とても刺激的でした。そんな素晴らしい国ですので、是非訪れてみてください!


―――ありがとうございます。是非行ってみたいです!最後に日本のファンの人たちへメッセージをお願いします。


Hedva: まず最初に、このようなパンデミックの状況ですが、皆さんが健康でそしてポジティブでいられるようにお祈りしています。厳しい状況で気が落ち込んでしまいますよね。私も遠くに住んでいる孫たちに会えなくて辛くて憂鬱になってしまいます。アメリカ人は特に海外へは行けないので悲しいですが、とにかく今言えることは..皆さんポジティブでいてください!挫けてしまってもまた起き上がることはできますから、人生はそれほど悪いものではありませんよ。是非ポジティブなメッセージが詰まった私の歌を聞いて、ハッピーになってください!皆さんに早くお会いできるのを楽しみにしています。

Hedva Amrani Portrait 2

ヘドバ・アムラニ公式ウェブサイト