Share

CULTURE

イスラエルとのビジネスを始める前に読みたい一冊

Israeli Business Culture(イスラエルのビジネス文化)著者 オスナット・ラウトマン

by 新井 均 |2021年04月20日


ISRAERUウェブマガジンを読んでイスラエルに興味を持たれた方、もしイスラエルとビジネスをしてみたいと思うのであれば、その前に是非この本を読んでみてください。本の題名は、そのものズバリ、イスラエルのビジネス文化:イスラエル人との効果的なビジネス関係の構築”(Israeli Business Culture: Building Effective Business Relationships with Israelis)です。イスラエル人という人々にはどんな特徴があるのか、とてもわかり易く解き明かしており、少しイスラエルと付き合った経験のある方ならば思わず 「そうそう!」と頷くこと間違いありません。


著者はオスナット・ラウトマン(Osnat Lautman)というコンサルタント。イスラエルのバル・イラン大学(Bar Ilan University)で社会科学・コミュニケーション学修士、米国のニューヨーク大学で組織開発の学位を取得しています。多くの国のビジネスパーソンに取材をし、イスラエルと非イスラエル文化の比較調査を行い、この本の主題でもある、イスラエルのビジネスの特性を示す“ISRAELI™モデル“を開発しました。


残念ながらこの本にはまだ翻訳はなく英語ですが、比較的容易に読める内容です。詳細の内容は自身で読んで楽しんで頂くとして、エッセンスだけ紹介しましょう。著者によれば、イスラエル人には次のような特徴があり、その一つ一つについてわかりやすいエピソードを交えて解説しています。それぞれの単語の頭文字を並べると、ISRAELI(イスラエル人)になっているのがわかるでしょうか? では、それぞれの特徴を簡単に紹介します。


イスラエルのビジネスの特性を示す「ISRAELI」

Informal

Straightforward

Risk-taking

Ambitious

Entrepreneurial

Loud

Improvisational


Informal

言うまでもなく、イスラエル人は「形式張らない」という特徴です。顧客の米国企業から、ハドソン川のクルーズ船で行われるイベントに招待された時に、カジュアルな服装で参加したイスラエル企業幹部のエピソードが紹介されています。まわりはタキシードやロングドレスだったのかも知れませんが、服装だけではなく、会話も砕けたコミュニケーションの方が良く分かりあえる、というのが基本的な彼らの考え方のようです。肩書等にはこだわらずにフラットに会話します。採用面接で始めて出会う人にも、結婚しているかどうか、子供は何人かなどと、国・文化によっては少し遠慮しがちなプライベートな話題も平気で聞いてきます。それを”無遠慮、無礼”と捉えるか、”親しみやすい”と捉えるか、でしょう。



Straightforward

「回りくどい言い方はしない、ストレートにものを言う」という特徴です。エピソードには、ある企業の営業戦略会議が出てきます。リーダーが新しい戦略を説明した時に、ほとんどのチームメンバーがその計画を理解しようとして質問してくる中で、イスラエル人メンバーが戦略に対する疑念を述べ、場の雰囲気が少し悪くなりました。リーダーは、後日そのイスラエル人に、部下が沢山いるオープンな場ではなく、個人的にアプローチするようにアドバイスしました。けれども、イスラエル人の方は「オープンディスカッションだと最初に言ったではないですか」と気に掛けない、というケースの紹介です。日本人的な「空気を読む」を期待してはいけません。



Risk-taking + Ambitious  = Entrepreneurial    

これら3つはワンセットです。スタートアップ・ネーションと言われるイスラエルを語る時に、必ず出てくる要素がアントレプレナーシップであり、リスクを取ることをいとわない人が起業家です。著者のオスナットは、野心を持ち、それを達成するためにリスクを取る、という組み合わせが不可欠であると言っています。エピソードには、インスタントメッセージソフトICQをAOLに売却したヨッシ・ヴァルディ(Yossi Vardi)、QuicksoftをSAPに売却したシャイ・アガシ(Shai Agassi)、チェックポイントを創業したギル・シュウェッド(Gil Shwed:)など大勢が出てきます。彼らのエピソードは面白いので是非自分で読んでみてください。


オスナットは、彼らに共通する資質として、勇気(Courage)、 洗練性(Sophistication)、 革新性(Innovativeness)、 創造性( Creativity)、忍耐力(Perseverance)を挙げています。


Loud

文字通り、「声が大きく、うるさい」という特徴です。人の話は余り聞かずに自分は話す方に熱心なので、時には攻撃的に聞こえるかもしれません。しかも、話す時相手との距離を縮めます。エピソードにも、ビジネス契約での激しい議論の様子が出てきます。あまりに激しい議論なので、出席者は取引が失敗に終わったと確信したけれども、実はランチの後契約のサインに至った、という話です。イスラエルのナショナル・スポーツは”おしゃべり”だ、と良く言われます。イスラエルには世界中に離散したユダヤ人が帰ってきているので、イスラエルは異なる文化・異なる言語のバックグランドがある人々の集まりです。従って、話すことでお互いを理解するしかない、ということではないでしょうか。



Improvisational

最後は「即興」です。その時々で柔軟な考え方をし、対応する、既成概念にとらわれない、という特徴を示しています。長い歴史のなかで、1948年までは自分の国を持たず、他国に支配されてきた人々なので、明日がどうなるかはわからない、という生き方をしてきたと言えるでしょう。従って、その時に得た情報で最善と思われる判断を迅速に行う、もし、それが間違っていたら、その時点で直ちに修正する、という柔軟性が、Improvisationalであり、彼らのビジネスや意思決定の”スピード”も、この特徴から理解できます。



いかがでしょうか?

筆者も14年間イスラエル人と付き合いがありますが、どれもうなずけることばかりでした。親切にもオスナットは、各特徴の後に、ではどう対処すれば良いか、という”Reccomendation”もつけています。それが使えるReccomendationかどうか、という視点で読むのも面白いでしょう。もし、私の知っているイスラエル人はちょっと違う、という事例をお持ちのかた、是非筆者までお知らせください。