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BUSINESS

変化を恐れない。イスラエルの女性とAIの未来― 作業する者から指示を出す者へ、AIが変える“クリエイティブ”の意味 ―

by 中島 直美 |2026年02月27日

人工知能、AI。この言葉を初めて聞いた時のことを覚えていますか?私はその時はそれがまだどんなものなのかピンと来なくて、なんだか夢物語のような気持ちになりました。

けれど今ではもうAIは実際に私達の生活の中に入り込んでいます。AIと共にある暮らしはすでに夢物語ではなく具体性を帯びた現実です。

AIが溶け込んだ生活の中で人間の価値観がどのように変わっていくのか。

今日は、AIサミット「ハコル・メビナ」(ヘブライ語で”すべてを理解する”と”すべては知能から”をかけた名称です。)の主催者、ガリ・メイリさんにお話を伺いました。



AIを使うのか、AIに使われるのか…

ガリさんが主催する「ハコル・メビナ」は、ここ数年で着実に規模を広げてきたAIカンファレンスです。その内容はAIの技術的な部分に焦点をあてるのでなく、AIが社会やクリエイティブにどのような影響をもたらしているのかを考え、AIの可能性の最先端とその効果的な使い方について理解を深める場、と言ったほうが近いかもしれません。


AIカンファレンス「ハコル・メビナー」に登壇するガリさん
AIカンファレンス「ハコル・メビナー」に登壇するガリさん

ガリさんはまた、カンファレンスの主催以外にも、タアスィヤ(Taasiya)という、映像制作に関連する人材と求人をつなげるサイトを長年運営してきました。


そんなガリさんが今年5月に「メビナ・スラティーム」という、映画やドラマなど、映像制作とAIの関係に特化したカンファレンスの第2回目を予定しています。このカンファレンスでは脚本づくり、ストーリーボード制作、音楽生成、翻訳や吹き替えまで、映画制作のあらゆる工程にAIが関わり始めている現実を、具体例を通して紹介するのだそうです。


メビナー・スラティームのホームページ画像
映像制作とAIに特化したカンファレンス、メビナー・スラティームのホームページ

ガリさんの話を聞いていて印象深かったのは、ガリさんが技術そのものよりも「人間の役割」に焦点を当てていたことです。


私はAIについて日頃恐れていた疑問を、ガリさんに投げかけてみました。それは、AIは人間のクリエイティブな仕事を奪わないか、という事です。

「AIがクリエイティブな仕事をしている間に私達が掃除や洗濯をするためにAIがあるのではない、AIが家事などをこなしてくれている間に、私達がクリエイティブな仕事をしたい」そんな意見を聞いたことがあります。

そんな私の問いにガリさんは答えてくれました。

「はい、クリエイティブな仕事はすでにAIに奪われています」とガリさん。

「AIは人間とは比べ物にならないほど早くクリエイティブな作業をこなすことができます。これは事実なのです。ですので、これから”クリエイティブな仕事をする人間”として価値を持つのは、作業をこなす人ではなく、問いを立てて方向を明確に示すことができる人になるでしょう」


ガリさん
ガリさん。優しくてはきはきしていて、お話ししていると心が落ち着きます

「家事のような仕事を任せられるロボットができるのも時間の問題です。でも、自分で描くことよりも、AIに何をどう描かせるかを考えられる人。手を動かすことよりも、問いを立てることができる人。このようにAIを的確に使いこなせる人は様々な業界で重宝されます。”価値あるもの”が、AIの浸透と共に少しずつ変わってきているのです」


すでにAIが得意とする分野、情報処理の量や速さはAIが人間よりも優れている。そのことに驚いている段階ではないのです。ガリさんの答えは、新しい現実に私の目を開かせ、AIに対する考え方を一歩先に進めてくれました。ガリさんは続けます。


「AIの進化はもう止まりません。昨日できなかったことが、今日には可能になっている。その中で私達が”もう十分に知っている”。”学びきった”と言い切れる瞬間は、ほとんど存在しないのです」


仕事中のガリさん
仕事中のガリさん

AIの教育と人間の社会

ガリさんは、AIが人間よりも優秀にできることやAIが進化していった未来について、具体的な例を交えてたくさんの話をしてくれました。そんなガリさんの話に引き込まれながら、私はAIの無限の可能性に圧倒されそうになりました。新しい技術を覚えるのに四苦八苦して、古いものに心地よさを感じる自分が、社会から必要とされない日も近いのではないか…。そんな気持ちになりかけた私にガリさんは言いました。


「AIの話で、将来の事を少し怖がらせてしまったかもしれません。

でもAIは人間社会の鏡でもあります。本当に重要なのはどのように使いこなすのかという点なのです。結局、問いをたてるのは人間なのですから。

AIのカンファレンスを主催したり、サイトを運営している私ですが、だからといってコードを書くのが得意とか、技術的な事に詳しいかとか、そういうことは本当に関係ないです。

新しい視点で物事を見ることが重要だという話だと思うのです」

そんなガリさんの言葉に、なるほどAIだって使いようによっては私の様な技術音痴にも明るい未来が待っているのかもしれない、冷蔵庫でモノが冷える仕組みがわからなくても私は冷蔵庫を使いこなせているではないか、とちょっと安心したのでした。


また、ガリさんは自分が主催するカンファレンスの登壇者には「自分は完成したと思っている人よりも、常に新しい可能性を試したいと思っている人を呼びたい」と言います。

そして「学びに終わりはなく、私達はAIをも教育していかなければなりません」とも。

さらにガリさんは、自分の主催するカンファレンスでは登壇者の少なくとも半分は女性にしているといいます。これは偶然ではなく、意図的な方針からです。

「カンファレンスを主催するとなったらまずはスポンサーを探しますが、それが決まったら次に探すのは女性の登壇者。最後に男性の登壇者です」

そこには彼女なりの明確な理由があります。

「女性と男性では生物として役割が違います。だから、性格の違いというものもある。例えば、求人に10の条件がある場合、男性は4つ満たしていれば応募する勇気を持つ人が多い。一方で女性は、9満たしていても最後の1つに自信が持てず、応募をためらう慎重派が多い。そんな現実があるからです。もちろんこれは女性自身の問題でもあります。でもだからこそ、同じ女性の私が、女性の背中を押さなければと思うのです」


カンファレンスの登壇者
カンファレンスでAIについて語る登壇者

ガリさんは、私達の社会から学習するAIもまた、私達の社会を反映していることが見て取れると言います。「CEO」と入力すれば男性の画像が出てくる。「女性」といえば若くてほっそりとしたタイプの映像が繰り返し表示される。

ガリさんの姿勢には「自然に任せていては偏りはなくならない」という考えがあります。

だからこそ、AIをどう使うか、どう問いを立てるかが問われているのです。


前回のカンファレンスの参加者
前回のカンファレンスにて。楽しそうな様子が伝わってきます

ガリさんの挑戦

女性の背中を押す、と語るガリさん自身はどのようにして挑戦を続けているのでしょうか。

私はガリさんにお話を伺って、彼女は本当に自然体であること、一人でがむしゃらに無理して頑張っているのではないという事を感じました。そしてありきたりの質問でありながらやはり聞かずにいられないのは「子育てと仕事と、どのように両立させているのか」という質問です。

「誰と結婚するかという選択も本当に大切ですよ」ガリさんはそう笑いながら言いました。
彼女の話を聞いていると、男女の社会的役割は固定されたものではなく、その時々で柔軟に入れ替わるものだと思えてきます。どちらが優先されて、どちらが後回し、という話ではない。両者がそれぞれの性別の特性を考慮し、柔軟に支え合う。でもステレオタイプに流されない。それが、社会のあるべき姿なのかもしれない、と思うのです。

AIの話をしているのに、最後はとても人間的な話に戻ってきました。それは、テクノロジーがどれだけ進化しても、問いを立てるのは人間であり、社会を作っていくのが人間だからなのでしょう。テクノロジーは人間のために進化しているものなのです。


第7回 ハコル・メビナー会場でのガリさん
第7回目のハコル・メビナーにて

変化を恐れずに学び続けていく、そんなガリさんの姿から、私は学びたいと思うことがたくさんありました。
柔らかい語り口の奥にある、はっきりとした意志。新しいことに挑戦することをためらわない姿勢。そして、必要だと思えばきちんと声をあげる強さ。


彼女はただ周囲に合わせるリーダーではありません。 構造に偏りがあると感じれば、それを変えようとする人です。受け入れられない現実を前にしても、泣き言や文句でその場をやり過ごすのでなく、合理的で効果的な変化を生み出し自分の理想に近づく努力をする。カンファレンスの登壇者を半分女性にするという決断も、偶然ではなく意志です。自然に任せていては変わらないから、自分が動く。その覚悟があるのです。


AIの時代において、人間の価値は確かに変わりつつあります。そしてAIが進化するほどに、人間のあり方が問われているのだと感じました。ガリ・メイリさんの姿は、その問いに対する一つの答えのように思えます。


ガリさんと同僚
同僚たちと一緒に

映像制作とAIの関係に特化したカンファレンス、メビナー・スラティームのホームページ:https://www.taasiya.pro/aisratim2