インタビュー|青木昭夫氏(DESIGNART代表取締役)
DESIGNART(デザイナート)とは、デザインとアートが融合し人々に感動を与える様々なモノやコトを表現する言葉として考えられ、それらの素晴らしさを人々に発信していく活動を行なっています。“東京の街全体がミュージアムになる12日間”をコンセプトに、世界中から集めたアート、インテリアや建築、ファッションやフード、プロダクトやテクノロジーなど様々な分野のモノやコトを実際にプレゼンテーションする「DESIGNART TOKYO」というアート&デザイン展を毎年秋に開催しています。
昨年のDESIGNART TOKYO 2019では、パートナーカントリーとしてイスラエルが選ばれ、イスラエル最大の国際的なアートフェスティバルであるエルサレムデザインウィークをはじめ、イスラエルから多数のアーティストが参加しました。DESIGNARTの発起人及び代表取締役を務める青木昭夫氏に、DESIGNARTとイスラエルのパートナーシップ確立に至るまでの経緯と、イスラエルアートの魅力についてお話を伺いました。
―――まずはじめに、DESIGNARTとしての活動内容を詳しく教えてください。
青木氏 : 2017年から始めて4年目になりますが、クリエイティブ産業を活性化させるコトを目的に、街全体を巻き込んで行うデザイン&アートフェスティバルを開催しています。昨年ですと、のべ22万人以上の方が来場しました。会場数が104会場ということで、表参道・渋谷・原宿・代官山・六本木、あとは銀座や新宿など、かなり広範囲にわたって行われる、日本最大級のデザインとアートの祭典です。登場するクリエイターも様々で、ジャンルに捉われずに「暮らしに感動を与えるモノ」を集めています。例えば家具、アートや映像、そして器であったり。ジャンルレスでどれを見つけても心が揺さぶられるような、先進的なモノを一堂に見れるイベントです。
―――展示されるデザインは、おっしゃったように家具や建物などがあると思いますが、例えば実際に使えるようなモノもあるんですか?
青木氏 : はい、もちろん見に来た方が使えるようなモノも多くあります。製品と呼ばれるような日常的に使うような器であったりとか、アートや小物、椅子であったりいろんな家具もそうですし、「様々なものが購入可能」というのがDESIGNARTの特徴です。以前まで行われていたデザインイベントだと、見せるだけに留まっていたものが多いのですが、私たちは積極的にプライスをつけてもらうことを推薦していて、購買意欲を引き出すような試みも積極的に行なっています。
――― 昨年のDESIGNART TOKYO 2019では、パートナーカントリーとしてイスラエルが選出されましたが、その経緯をお話していただけますか?
青木氏 :毎年パートナーカントリーを設けるということを第一にしています。どうしても日本は島国ですので日本人が集中的に集まることが多いのですが、国際交流を深めるという目的で、2018年から実施しています。1年目はスウェーデンで、2019年はイスラエルとなりました。きっかけとしては、たまたまアリエさん(在日イスラエル大使館 / 文化・科学技術担当官)からお話をいただいて、「何か一緒にできないか」という声がけがあったところからスタートしています。
そのあとエルサレムデザインウィーク(以下、JDW)のキュレーター、アナットさんをご紹介いただき、そのJDWが非常にDESIGNART TOKYOと近いイメージだったんですね。というのは、単なる製品を紹介するという展示会スタイルではなくて、みんなの心が踊るような実験的なモノを集めているという点では、非常に共通点があるということで意気投合しまして。まずはJDWに来て欲しいと言われて伺わせていただきました。確か2019年の6月頃だったと思います。
その頃にはすでに、イスラエルと一緒にやりたいという想いを抱くようになっていました。実際にイスラエルへ行って、それは確信に変わったわけですけれども。イスラエルって日本人にとっては非常に情報が少ない国で、よく聞くヨーロッパ圏のイギリスであったりフランスであったり、あとは北欧であるデンマークやスウェーデンと比べ、中東であるイスラエルの国の情報は非常に限られていると思います。ただイスラエルは、やっぱりインキュベーションする力が底知れないわけです。先端的なテクノロジーであったり、それを支援する仕組みであったり、かつてないような発明的なモノを数多く出しているにも関わらず、ミステリアスな部分もあるので、そこを日本人の皆さんを中心に、もっと世界で知っていただけたら素敵だなという気持ちが高まりましたね。
―――ありがとうございます。もっと多くの日本人の方々に、青木さんのようにイスラエルのことを想っていただければ、私たちISRAERUとしてもとても嬉しいことです。実際にイスラエルに行かれて、どうでしたか?
青木氏 : やっぱりユダヤ教の影響が非常に強いと感じましたね。人とのつながりを大事にしたり、失敗を恐れず未来や社会に対して投資をする姿勢だったりとか。やっぱりそのスピード感ですね。そこがあるからこそ、インキュベーションするようなものが多かったり、あと国とかファンディングシステムに関しては、ユダヤネットワークの強靭さをひしひしと感じるわけですが、そういったところで見習うべきことが多くある国だなという印象がありました。
それでJDWを見たときにもう一つ思ったことがあって、それは子供でもお年寄りでも楽しめるようなものが多い。要は実験的で新しいものは素晴らしいですしいいんですけど、例えば高尚になりすぎるとほとんどの人がわからず、「これどういう意味?」となってしまうようなわからないものってアートで結構あるじゃないですか。高尚にすればするほど、理解できる人って限られてくるんですけど、子供からお年寄りまで見てすぐわかるような、でもちゃんとセンス良くまとめられているキュレーションはさすがでした。
―――イスラエルのコンテンポラリーアートに触れ、イスラエル人アーティストとのコラボレーションはいかがでしたか?
青木氏 : そうですね、期待を超えるというか、あれだけ大掛かりになるとは思っていなかったというところがありまして、すごく感動しました。というのも、4トン以上の塩を使って死海のモチーフというか、「エデンの園」をテーマに、イスラエルの原点は塩と麦であるという話から派生して、その塩と麦の圧倒的な物質感とか大胆さに結構惹きつけられましたね。そんななかユーモアなポイントがあって、お魚が密閉された塩のオブジェだったり、穴を覗くと鏡によってつくられた無限の世界が広がっていたりとか、その他に伝統工芸と3Dプリンターを掛け合わせたりとか。そういう見たことのないデザインを日本の皆さんにご覧いただけたのは、非常に感慨深ものでしたね。あそこまでやりきったイスラエルのチームもすごいと思います。
―――青木さんが特に感銘を受けたイスラエル人アーティストやまたコラボレーションしたいアーティストはいますか?
青木氏 :日本に来た中で一番僕は好きだった作品は、アミール・ゾベル & イタイ・ブルメンタルによる「The Common Thread」です。NCルーターを改造して、髪の毛のような黒い糸を輪に引っ掛け、人物の顔を自動で作るんですけど、これは圧巻でした。実際にイスラエル大使のヤッファさんの顔も作っていましたよね。新しいテクノロジーで驚きを与えられるものというのは、子供から大人までコミュニケーションが広がっていきますし、見たことのない発見でワクワクする作品でした。たぶん応用したらいろんなことができますよね。例えば自分の愛犬とか自分が好きな風景を、写真や絵画で残すというのも一つの手ですが、あの作品を通して、記憶の結晶としてとどめて、部屋の中に飾ることができたら面白いと思います。もしかしたらデータをアップロードすると、自動的に作品がイスラエルから送られてきたりしたら、いいビジネスになりそうですね。
僕は母を5年前に無くしてるのですが、遺影ってあるじゃないですか。亡くなった人の写真を、もちろん普通の写真でやる良さもあるんですけど、あれだったらアート性が高いので、もっとおしゃれに飾っておけたりするんじゃないかなと。スパイラルの展示だったらあの大きさでいかもしれないですけど、もうちょっと小さいバージョンがあるというのもいいかもしれないですね。実際の作品という枠にとどまらずに、新しいビジネスとして世界中でそのサービスが受けられると非常に需要があると思います。
あともう一ついいなと思った作品がイスラエルにあったんですけど、それは水流ホログラムを使ったインスタレーション(作品名: Siri Zen Master)だったんですね。日本の侘び寂びをテーマにした作品で、やはり日本に関心がある人が多いということを垣間見れました。水が流れている状態を、水流ホログラムとリアルをミックスして表現しているのですが、実際に水は流れていないです。
実はアナットさんに、先ほどのThe Common Threadと一緒にこのホログラムの作品を持ってこれないかとお願いしたくらい気に入っているのです。オプティカルなギミックが非常に効いていて、この石が浮いているように見えたり、水が流れるように見えたりという視覚的な錯覚を使ってインスタレーションをしていて。水流ホログラムという技を使っているんですけど、これが結構インパクトありましたね。JDWでは目立たない場所にあったので、あまり全員が見れるような状況ではなかったんですけど、素晴らしかったです。
―――DESIGNART TOKYO 2019に引き続き、今後のイスラエルとのパートナーシップはご検討されていますか?
青木氏 :パートナーカントリーに関してはオリンピックと一緒で、すぐにまたイスラエルとなるとちょっと贔屓しすぎになってしまうので、フラットな姿勢で様々な国とやらせていただく形をとっています。イスラエルとまた改めてコラボレーションするのはたぶんしばらく先になってしまうかもしれないんですが、また是非コラボレーションしたいと思っています。DESIGNARTは30年続けると公言して2017年に始めていますので、またいい機会があればご一緒したいです。
今年は残念ながらコロナの影響もあって、どうしても今国境を行き来することが渡航制限なども厳しくて難しいので、今年はパートナーカントリーと呼べるものは設けてないんです。来年はすでに候補がほぼ決まっているので、ある国とご一緒させていただくような運びになっています。
Photo by Nacasa & Partners
―――例えばパートナーカントリーを設定しない場合でしたり、他の国がパートナーカントリーに選ばれた場合でも、他の国、イスラエルのアーティストを呼ぶことは可能ですか?
青木氏 :もちろんです。毎年様々な国の方々が参加してくださっていますので、パートナーカントリーでなくてもあらゆる世界の人たちに是非ご参加いただきたいと思っています。
あと日本人アーティストの氷室友里(ひむろゆり)さんと早川翔人(はやかわしょうと)さんが、2019年のエルサレムデザインウィークに招聘されたんです。私が一緒に行かせていただいたのも、この二人のアーティストの招待があったからなんですが、この二人が初めてイスラエルで、中東で作品を発表するということもあって、来場者にも非常に喜んでいただきました。
例えば早川翔人さんの場合、画面の中で会議が行われていて、会議の中でくだらない話をしながら「あなたは犬派?猫派?」というような質問をするときに、作品を見ている人がその会議にあたかも一緒に参加しているような、センサリングシステムを使ったインスタレーションです。手を挙げることによって、犬とか猫で回答が分かれると思うんですけど、それがちゃんと反応によって変わるインタラクティブアートです。このような言語が通じない国でも字幕がついていたことによって、皆さんが笑いながら参加できたという意味では、とても受けていましたね。
氷室友里さんの作品も皆さん非常に熱心に見てくれて、ジャガード織っていって立体的に織ったカーペットに絵を施しているのですが、ハサミで切っていくと川が出現したり、稲刈りの稲がなくなって草地になったりだとか、自分(見ている人たち)がハサミでカットすることによってどんどん変化していくようなアートです。これも言語を超えてコミュニケーションできる作品でしたので、皆さんとても楽しんでくれました。
このように、二人のクリエイターが海外で発表できる貴重な機会をいただけて、いろんな国の人の交流も行われていましたし、あとはヨーロッパやアメリカからメディアをかなり招待していたので、そういうところでの波及効果がイスラエルだけにとどまらず、いろんな国に対してアプローチできるような(JDWの)オーガナイズの体制も素晴らしかったです。私たちDESIGNARTも、もっと国際的な発信を強めていきたいなと思います。
―――今後のDESIGNART TOKYOの活動や近日開催されるイベントがありましたら、詳細を教えてください。
青木氏 : 今年はやはりオンラインがキーになるので、360度カメラを使ったバーチャルエキシビジョンをやろうと思っています。これはMatterportという世界的に有名な仕組みを使って、実際に展示している様子を世界中から見れるようにしながら、いろんな各会場を見て周れるようにします。気になる作品などがあれば、そこから購入ができるギャラリーになるのです。これがあれば渡航規制で東京に来れなくても、バーチャルエキジビジョンがあることで世界中の誰しもが楽しめるような形がとれます。
やはりコロナの影響で、世界中のデザインやアートイベントが中止になっていることが多い中で、「分散回遊型イベント」であるDESIGNART TOKYOは各会場安全対策を講じながら運営し、世界に「こういうやり方だったらできる」という希望を与えたいなと思っています。
どうしても今みんなインフォデミックに犯され過ぎていて、情報だけ聞いていると感染者数が広がっていたり、なかなか外に出にくい状況が続いているんですが、冷静に分析すればインフルエンザの死亡率より少なかったり、重傷者が減っているなか、身体の中枢を担う精神を回復させるためにも、揺らいでしまった経済や文化の灯火を明るくする必要がそろそろあると思うんです。
このような情勢でも、なんとかDESIGNARTを分散回遊型イベントとしてやることによって、世界中の人たちが感化され、工夫次第でリアルなイベントもやれるんだというムーブメントを創りたいと思っています。日本は日出ずる国と言われてますので、この日本からヨーロッパやアメリカ、アジアなど世界へ刺激を与えられるようなケーススタディを見せていきたいですね。クリエイティブはすべての原動力になり得ます。例えば、愛でるものがあることによって癒されたり、前向きになれたり、楽しく豊かな生活を送ることができますよね。それがあれば身近な人に幸せになってもらいたいと願う、利他の気持ちを育むこともできます。それが連鎖していくようなパンデミックが逆に起きれば、かつてないほど時代はいい方向に変わっていくのではないでしょうか。だからこそ、挑戦を厭わないクリエイターによるデザインやアートを一人でも多くの人に体感してもらいたいと願っています。
【DESIGNART TOKYO 2020】
開催期間: 2020年10月23日(金)~11月3日(火・祝) http://designart.jp/entry2020/
〜Matterportを使用したオンラインギャラリーは10月末公開予定〜
【青木昭夫 プロフィール】
株式会社DESIGNART 代表取締役/株式会社ミルデザイン 代表取締役
クリエイティブディレクター
1978 年東京生まれ。「クリエイティブ産業の潤滑油」をコンセプトに2005年より、街全体を巻き込んだデザインイベントを手がける。2017年より、国内最大級のデザイン&アートフェスティバルDESIGNART TOKYOを始動。アート、建築、インテリア、プロダクト、ファッションなど様々なクリエイターのネットワークを活かし、展覧会やパブリックアートの企画、プロデュース、PR、企業のブランディング、コンサルティングを行う。