Share

BUSINESS

ヤッファ・ベンアリ駐日イスラエル大使インタビュー


ISRAERUウェブマガジン創刊特別コンテンツとして、ヤッファ・ベンアリ駐日イスラエル大使にお話を伺いました。イスラエルと日本の外交関係、COVID-19における課題、これまでのキャリアやプライベートの話など、普段はなかなか聞けないお話をたっぷりお楽しみください。


―――今世界では「ニューノーマル」が謳われ、企業や国は不況に陥るのを阻止するよう働きかけています。今回のCOVID-19によってどのような課題を見つけましたか。また外交活動、特に日本とイスラエルの関係においてどのような影響があったか教えてください


ヤッファ・ベンアリ駐日イスラエル大使(以下:ヤッファ氏):COVID-19については、国家的な挑戦と同様に個人的な挑戦、社会や国際的な挑戦があると私は信じています。被害は景気後退だけではありません。外交とは基本的に繋がりや関係を意味するので、常にアクセスできる存在でなくてはなりません。


今日の危機はチャンスでもあると思います。あらゆる危機はそこからより良いものを創り出すチャンスでもあるというのが私の人生の哲学です。何が起こるかわからない状況で、この「ニューノーマル」は間違いなく健康上の危険があると思います。健康の他にも被害となりうる不確かなものにより、不安はさらに募ります。私が考えるCOVID-19の主な課題は、健康上の問題ではなく、より人間的そして社会的なものであり、その上に経済的課題があります。


経済的被害は、私たちにとってさらに重い負担となっています。経済は人間の生産性および機能性に大きく影響するからです。この状況は行動やコンタクト、人間関係においても変化をもたらしました。そして、各国が生産過程においてどれだけ他国に依存しているのかを知ることとなりました。例えばどこかの国で製品を生産する際、特定のパーツは他の国から必要となるといった問題です。

貧困、失業、不況にどう対応するか、多くの国が大きな課題に直面しています。最近のアメリカで見られるように、多くの倒産、そして経済危機のすべてが社会危機を起こしています。パンデミックに対して著しい政治的反応を引き起こし、政治的そして経済的状況を危険にさらします。


私たちは皆、主に外的変化に直面しています。外交における実践的課題そして日本とイスラエルの関係について、この危機を機会として捉え、経済協力を強化する方法を見つけることを目的とし、この新しい課題に一緒に対処する必要があります。実際、ウェビナーディスカッションを使って、新しいことを学ぶことができることを知りました。会議はオンラインツールを通じて行われ、Eラーニングやサイバースペース(仮想空間)もあります。日本とイスラエル両国の経済の利益となる正しい課題を見つけ、お互いが手を差し伸べることは、双方にとって有益となるでしょう。現在の移行期間は、私たちの国の関係をより良い現実に導いてくれるものであると考えています。


―――ヨーロッパや西アフリカ、アメリカでトップの役職を経験し、外交という分野で卓越したキャリアを積んでいらっしゃいますが、これまでの経験と現在駐日イスラエル大使として従事されていることについて教えてください。またヨーロッパや西アフリカ、アメリカと比べ、アジアで外交官を務めることの違いは何ですか?


ヤッファ氏:それらは全て完全に異なる地域、異なる文化、異なる課題、異なるライフスタイルおよび異なる生活の質の話です。とりわけ、時期や時代の違いについてですが、私は様々な時代で仕事を経験しました。地域が違うだけではありません。アフリカ、北アメリカ、東ヨーロッパそしてアジアの4大陸で働いてきましたが、大陸の違いの他に、時代の違いがあります。


80年代初頭にアフリカに滞在し、後に北アメリカへ移りました。当時はパソコンや携帯電話もなく、振り返ると中世のようでしたね。電話やグーグルマップを使わずに移動しなくてはならず、知らない人に道を尋ねることも多々ありました。

今でもよく覚えているのは、サンフランシスコの領事館に導入した革新的なオートモーティブマシンです。当時、イスラエルに関する情報は郵送で送っていたのですが、このマシンにより郵送準備にかかる時間を短縮することができました。紙の山を機械の片側に置くとそれが一つずつ折られ、封筒に入れられた後、住所が記載されたシールが貼られる仕組みです。このマシンを導入するまで、この作業はすべて手作業で行われていました。今は全てデジタルで行われていますね!


現在のポジションに就く前に、様々な世代で実践を重ねてきました。それぞれのポジションにおける顕著な変化といえば、テクノロジーの進歩が挙げられます。90年代と2000年代は全く異なるものです。10年前の中国での仕事を振り返っても、今日とは全く異なる時代といえるでしょう。


しかし、どこにいても人間は人間です。どの国やどの文化においても人を気遣い、常にアクセスできる存在でなくてはなりません。そもそも外交関係とは人と人との関係です。私は日本に3年ほど住んでおりますが、日本とイスラエルの文化の違いを理解し始めたばかりです。様々な国を経験したことで、日本のように独自の文化を持つ国においても、私はオープンに新しい国に適応することができると信じています。


ヤッファ・ベンアリ駐日イスラエル大使

―――イスラエルと日本における一番の違いは何だと思いますか?


ヤッファ氏:まず第一にお伝えしたいのは、私がいる場所が私にとって一番大切な場所です。私の任務は、イスラエルとホストとなる国の関係を促進することであり、それに努める必要があります。日本でイスラエルの最高外交官であることは私の誇りです。私が日本に来る前も含め、この5年間に日本とイスラエルの関係は大きな発展を遂げています。


ここで皆さんに知ってもらいたいのが、イスラエルと日本の外交関係は1952年に始まり、現在イスラエルがアジアで一番長い外交関係を持っているのが日本なのです。その始まりは、アメリカの占領が終わったわずか2週間後です。それ以来、浮き沈みはあるものの、現在の関係の変化は、両首相のリーダーシップと相互訪問に基づいています。

2015年、イスラエル政府は両国間の経済関係を促進するためユニークな決議を採択しました。私にとって2017年に日本に来るという決断は、今後の日本とイスラエルの関係を発展するのにふさわしい時期、場所でした。


両国間には共通点が多いと思います。イスラエルは人口900万人と、東京の人口にも満たない非常に小さな国で、イスラエル人は尊敬と賞賛という点において日本に魅了されています。

日本人はとても控えめで敬意があります。イスラエル人も日本人と同じようであれば良かったですね。イスラエル人は日本人から学ぶべきことがたくさんあります。

日本とイスラエルの似ている点は、どちらも古代の伝統を持つということです。家族を大切にし、習慣を尊重し、教育を重要とすることなど、共通の価値観を共有しています。


同時に、私たちには大きな違いもあります。イスラエル人はとても独断的で活気に満ちています。日本人は注意深く、忍耐強く、物事を慎重に進めます。日本における意思決定のプロセスは、イスラエルのそれとは完全に異なります。イスラエルが短すぎるのかもしれませんが。イスラエル人はよくリスクを冒しますが、日本人はリスクを嫌がります。これがイスラエルと日本の大きな違いだと思いますね。


―――多くのメディアが日本とイスラエルの貿易関係について注目するように、日本とイスラエルの外交関係は高い位置にあるように見えます。駐日イスラエル大使となって以来、日本とイスラエルの関係において誇りに思うことはなんですか?また今後両国の関係はどう発展すると思いますか?


ヤッファ氏:先ほども述べた通り、経済関係が重要です。テクノロジーに関しては、イスラエルのイノベーションに対する日本の投資額は増加しており、経済的つながりがとても印象的です。

2014年、イスラエルへの日本の投資額は約2億ドルでしたが、昨年末は既に70億ドルを超えていました。その取引の数と質の高さはとても誇らしく、ユニークな展開を見せています。

その一例として、2017年に田辺三菱製薬がイスラエルの革新的な製薬会社であるNeuroDermを買収しました。


イスラエルのスタートアップエコシステムに対する日本の直接および間接投資により、日本はイスラエルにとって主要な投資家としての仲間入りを果たしました。日本がイスラエルを日本経済にとっての資産であると捉えていることはとても刺激的です。同様にイスラエルにとっても、イグジットだけでなく、テクノロジーを発展させる課題を発見できるため、様々なパートナーとのコラボレーションは刺激的となっています。

自動車業界においても、イスラエルのイノベーションとユニークなコラボレーションが行われいます。イスラエルの開発者が自動車業界のAI、センサー、カメラにおいて大きく貢献しました。Mobileyeがその一例です。


イスラエルが世界をリードしているもう一つの分野はサイバーセキュリティで、日本もサイバーセキュリティプロジェクトへの投資に熱心です。イスラエルのサイバーセキュリティは、「ブティック」型といえますが、より大きな規模の日本の課題に取り組むことで、イスラエルの能力を向上させるのに役立ちます。

イスラエルはサイバーセキュリティに関して日本政府と2つ契約を交わしており、さらには2019年の貿易およびデジタル経済に関するG20閣僚会議にゲストとして招待されました。


日本とイスラエルは多くの類似点があることから、お互いが補完的な経済関係であると思います。両国共に発展を遂げており、高度な教育を受けた賢い人々がいます。二国のシステムを組み合わせることで、両国の経済だけでなく、世界の国々に利益をもたらすことでしょう。


ここ数年、様々な文化的分野においてコラボレーションの数が増えているのを目にしています。例えば、Designart Tokyo 2019と提携して「エルサレム・デザイン・ウィーク」を開催しました。文化の分野で相互の才能そしてクリエイティブアイディアを見つけています。

医療分野やテクノロジー分野においても多くのコラボレーションを行っています。


また観光も忘れてはいけません。テルアビブと東京間の直行便を就航するという歴史的な決定を成し遂げたことをとても誇りに思います。COVID-19により就航は延期となりましたが、この重要な進展が1年以上延期しないことを願っています。


エルサレム・デザイン・ウィークで行われたイベントの一幕

―――日本で女性の大使となったことについて、どう思いましたか?また自分の信念に影響を与えた女性はいますか?


ヤッファ氏:女性なら誰しも自分に影響を与えた女性がいると思いますが、私にとってそれは母親です。両親のおかげで私たちは存在しており、教育については母親が優位でしょう。私の母親は、5人の子供を育てました。彼女はホロコーストの生存者であり、キャリアを築くチャンスはありませんでしたが、人生をかけて私たちに自立することの大切さを教えてくれたおかげで、私の姉妹は皆キャリアを持っており、とても自立しています。


私は自身が女性であることが理由で昇進したことはありませんが、確かに精神はフェミニストです。ジェンダーに関わらず、外交官として成功することは私の人生の目標でした。女性であることで恩恵を受けたことは一度もありません。ジェンダーではなく、仕事のクオリティやサービス、性格によって判断されるべきだと思います。


多くの国で女性と男性の間に大きなギャップがあることが問題とされていますが、イスラエルと日本も例外ではありません。そして今、このギャップを埋めるための変化が求められています。それは私たち次第です。干渉を受けることなく、自分のキャリアを発展できるはずです。そしてそれをサポートしてくれる相応しいパートナーを選ぶことが非常に重要です。


日本人女性で、私がとても感銘を受けた方がいます。一人は、東京都知事の小池百合子さんです。彼女には魅力とリーダーシップの素質が備わっています。

もう一人は、とても印象的なキャリアを誇る横浜市長の林文子さんです。


日本とイスラエル、どちらの国にもお手本となる女性がおり、今日そのような女性が増えていますが、それだけでは不十分です。すべては家庭で始まり、パートナーとどのように生活し、どのように家の仕事を分担するかが基本です。


また子供を持つことも強く勧めます。人生において、子どもを持つことほど幸せなことはありません。素晴らしい娘と孫に恵まれた私はとても幸運です。


―――残念ながらCOVID-19の影響で延期となってしまいましたが、エルアル航空では、日本とイスラエル間の直行便が予定されていました。直行便の就航が決まるまでここまで時間が掛かった理由は何だと思いますか?


ヤッファ氏:東京とイスラエル間の直行便就航は、これまでの多くの歴代大使にとっての夢でした。しかし以前は需要がなかったため、就航に名乗り出る会社はありませんでした。ではなぜこんなに時間が掛かったのでしょうか。それは両国間の関係の深さにも似ていますが、興味が対等ではなかったからなのです。

日本人のイスラエルに対する関心より、イスラエル人の日本に対する関心の方が大きいのは確実です。近年、イスラエルからの日本に旅行する人の数は著しく増えており、その数は年間4万5千人を超えました。就航による利益を出すには、少なくとも年間8万人の乗客が必要で、イスラエルへの日本人旅行客2万7千人を加えると、その数に大きく近づきました。残念ながらパンデミックにより被害を受ける結果となりました。


COVID-19に続く経済危機は、多くの事業計画や新しい開発を中止へと追い込みました。このパンデミックによる被害は、少なくとも1年間は続くでしょう。それでも私たちには新しい機会を生み出すことができると信じています。イスラエルと日本のビジネスを促進すればするほど、より多くの日本人ビジネスマンがイスラエルに来ることになるでしょう。日本に来たことのあるイスラエル人は、もう一度日本に来たいと思うでしょう。エルアル航空が体制を立て直し、もう一度直行便就航に向けて検討することを願います。


―――日本で出会った面白い体験やユニークな体験、好きな日本食について教えてください。


ヤッファ氏:これはとても簡単な質問ですね。一番興奮した瞬間は、元天皇の明仁上皇に信任状を奉呈した瞬間です。歴史に触れているような気分になり、うっとりとしました。日本の天皇との握手したことは、私にとって忘れられない瞬間です。その後、夫と共に上皇后両陛下とお会いする機会があったのですが、お二人ともとても印象的でお話できたことをとても光栄に思います。これは間違いなく私が日本で体験した最も印象的な体験ですね。


他にも特別な体験はいくつかあるのですが、そのうちの一つは、イスラエル独立70周年を祝ったコンサートです。イスラエルで有名な歌姫RITAを日本に連れてくることは、私のもう一つの夢でした。彼女の歌声が日本人の心に触れる確信があったのです。東京交響楽団、EXILE ATSUSHI氏との共演もあり会場は満員、コンサートは大成功を収めることができたと思います。この文化の融合こそ、まさに私が達成したいと思っていたものでした。このイベントは、違う言語で歌っていたとしても、一緒にできることの可能性を表しています。


イスラエル独立記念コンサートでRITAさん(左)とEXILE ATSUSHIさん(右)と一緒に

好きな日本の食べ物ですが、日本では様々なスタイルの食べ物が食べられますね。イスラエル人は寿司を食べるのが好きですが、私は魚がご飯の上にあり、巻き込まれていない日本式の寿司が好きです。野菜とカボチャの入った温かいほうとうも好きです。


日本で旅行も楽しんでいます。まだ47都道府県すべてを網羅しているわけではないのですが、もう少しというところまで来ています。九州、四国、本州の一部の島々を探検しましたね。温泉がとても大好きで、お寺を訪ねたり大自然を満喫したりするのも好きです。一番興味があるのは歴史的な場所です。


―――COVID-19における課題やイスラエルと日本の外交の話、大使自身のプライベートのお話までお話頂き、本当にありがとうございました。