長びくリモートワークや、ステイホームのお陰で外出も減り、最近運動不足を感じる人も多いのではないでしょうか？
そこで今回は、特別な機器を必要とせず、ウェブカメラ搭載PCとインターネットさえあれば様々なエクササイズが出来る、イスラエル発のオンライン・トレーニングプログラム「Kemtai（ケムタイ）」を紹介します。
Kemtaiは2019年9月に、Mike Telem氏、Naomi Keren氏、Mor Amitai氏の3人の共同創業者により設立されたスタートアップです。彼らが開発したのは、AIとコンピュータビジョン技術を用いたパーソナルトレーナーです。言葉でどんなものかを説明するよりも、ビデオを見ればその機能は一目瞭然なので、まずこちらを御覧ください。
ビデオから解るように、PCのカメラがあなたの体型をスキャンし、エクササイズ中の体の各部の動きをモニターします。Kemtaiは、画面の右半分でトレーナーによるエクササイズの理想的な動きを示し、左半分にはモニターしたあなたの動きを表示します。そして、両者の動きをリアルタイムで比較解析し、うまく課題ができているかどうかをフィードバックします。例えば、スクワットで腰が十分落とせていなければ、「もう少し深くしゃがみましょう」と指摘してくれるわけです。
創業者は皆アマチュアスポーツマン
スポーツ好きな創業者の3人。ビジネス担当のMike氏は10代のときにスカッシュ選手でもあり、武道の黒帯だったそうです。製品開発担当のNaomi氏はコンピュータ神経科学の博士であり、ピラティスのインストラクターでもあります。CEOのMor氏もランニングが好きだそうです。この製品を思いつくことにつながった経験は、Naomi氏がCompugenというゲノム・シーケンスを用いた創薬のベンチャーで、ソフトウェアエンジニアとして活躍していたときでした。（ちなみに、Compugenは、「スタートアップ大国イスラエルを支えるタルピオットプログラムとは」で紹介したタルピオットの卒業生でもある、エリ・ミンツが創業した会社です。）
Naomi氏の直属マネージャーは、30歳という若さにも関わらず腰痛に悩んでいたそうで、このマネージャーや他の仲間達のために、Naomi氏は週に2、3回ほどピラティスのクラスを開催していたそうです。その時のCompugen CEOがMor Amitai氏で、彼はこのアイデアが気に入り、オフィスの壁を文字通り物理的に壊し、ピラティスクラスのためのスタジオを作りました。
その後、Mor氏はCompugenを離れてコンピュータビジョンの新しい会社Imaguを作り、Naomi氏を誘います。ソフトウェアエンジニアだったNaomi氏は、コンピュータビジョンやAIのスキルもImaguで身につけます。数年後にImaguは中国企業に買収され、Naomi氏は友人のMike氏、メンターであるMor氏とKemtaiを創業することにしたのだそうです。Mike氏とNaomi氏は、既存のオンラインエクササイズは、正確なリアルタイムフィードバックを提供していないことに着目し、効果的でリアルタイムにフィードバックを提供する、このワークアウトプログラムを開発することにした、というのが創業の経緯ということでした。
AIとコンピュータビジョン
もともとコンピュータ・サイエンスのエンジニアであり、Imaguでコンピュータビジョンの仕事をしたNaomi氏にとって、WEBカメラで撮像した映像の解析・処理は得意領域だったと思われます。またこのプログラムの強みは、リアルタイムのフィードバックであり、独自のCNN（Convolutional Neural Network）モデルや様々なAIアルゴリズムを駆使してユーザの動作を解析し、正確なフィードバックを提供できるように、繰り返し繰り返し様々なシナリオでの画像解析を今でも継続しているそうです。
ゲノム創薬に携わったエンジニアが、その技術を活かしてオンライントレーニングプログラムという全く異なる事業領域のビジネスを起こす、というのはいかにもイスラエルです。イスラエルのアントレプレナーたちは、自分の得意な技術を活かして、興味をもった様々な分野でそれを活かそうとするのです。また、Mor氏とNaomi氏のように、互いに信頼し合う人のつながりが次々に新しい会社を起こし、新しい価値を生み出すことにつながってゆく、というように”人脈”が活きるのもイスラエルの特徴でしょう。
実際にやってみた
このエクササイズは誰でも実際に試すことが出来ます。こちらのページに行くと”Try now”という黄色のボタンがあるので、それを押せば3種類の簡単なエクササイズをやってみることができるのです。筆者も実際に試してみました。自分の全身が映るように、PCを少し離れた位置に置く事ができるだけのスペースが必要ですが、後はデモビデオで観たとおり、右手を上げるだけでスタートできる極めて簡単な操作です。実際にやってみると、最初にビデオにあるように自分の全身がカメラでスキャンされます。実際には画像認識をしているのですが、あたかもレーザーでスキャンされて、そのデータで自分だけにカスタマイズされたエクササイズプログラムが走り出すような感覚になりました。ここもKemtaiの一つのポイントではないでしょうか。PCとの距離が少し離れるので、近眼の筆者は画面のフィードバックメッセージが良く見えないという課題がありましたが、激しいワークアウトでなければ眼鏡をかければ良いだけの事かもしれません。
有償版では100種類以上のレッスンがあるようです。もともと体の硬い筆者には、３つの基本エクササイズでも十分ハードでしたが、自分の体がどこまで曲がっていて、どれくらい見本のトレーナーの動作と違っているかがはっきりとわかるので、彼らがこだわった「フィードバック機能」の重要性が良くわかりました。リモートワーク続きで運動を欲している方は試してみてはいかがでしょうか。
ちなみにKemtaiという名前は、その音感が気に入って付けた名前で、意味のある単語ではないそうです。
KEMTAI
