Share

BUSINESS

防衛・セキュリティ関連企業が集まる大規模イベントDSEI Japanイスラエルブースで見たもの

by 新井 均 |2023年03月31日

撮影/新井均

3月15日から17日の3日間、DSEI Japanという防衛・セキュリティに関する展示会が幕張メッセで開催された。2019年に第1回が開催され、今回が2回目となる。いつまで続くのか先が見えないロシアによるウクライナへの侵略をはじめとして、専制主義国家陣営と民主主義国家陣営との間の対立が先鋭化するなど、昨今の国際情勢は厳しさと不透明さを増している。長いこと平和を享受してきた我々日本人でも、難しい国々に囲まれている事実の再認識も含めて安全保障に対する意識が高まってきた状況にあることは間違いない。そんななかで、世界各国から主要な防衛産業関連企業、団体が一同に会し、様々な技術、装備を展示した。


類を見ない規模で開催

イスラエルからも、IAI、Rafael、Elbit Systemsなどの大企業は独自の大きなブースを設置して製品を展示していたが、それだけではなく、国としても国防省(Ministry of Defense)がイスラエルブースを設け、そこで9社のスタートアップ企業の製品・サービスを紹介した。初日には、Ambassador Gilad Cohen(駐日イスラエル大使、ギラッド・コーヘン氏)、Amir Peretz, Chairman of the Board, IAI(IAI理事長のアミール・ペレツ氏)、Yair Kulas, Director of SIBAT, Israel Ministry of Defense (IMOD)(イスラエル国防省 SIBAT※局長ヤイル・クラス氏)の3名の要人がブースのテープカットセレモニーを行った。各自の挨拶はヘブライ語だったので筆者には理解できなかったが、参列したイスラエル人関係者に向けて日本との協力の可能性について語り、彼らを鼓舞したように感じられた。


(※対外防衛協力輸出局)


撮影/新井均

改めて言うまでもなくイスラエルの軍事技術は大変進んでおり、イスラエルブースに出展した9社の製品・技術もスタートアップらしいユニークな視点の目立つものであった。ここでは展示された各社の技術の要点を紹介する(なお、現地取材を通して筆者の理解できた範囲での説明であり、誤認識等あれば全て筆者の責任である)。


イスラエルの9社の主な防衛技術

CopterPix Pro LTD

ドローンにいろいろな技術を組み合わせたソリューションを提供する。展示されていたのは、自動的に一定のルートを監視、充電のために自律的に基地に戻ることで24時間の監視を可能にする“自律ドローン”ソリューション。一定の距離間隔でシステムを配備することにより、長距離の国境やパイプラインなどの重要インフラの監視を可能にする。配送や農業への応用も可能。2013年に南部のキブツから生まれた企業。


Computech International(CTI)

パナソニックがパートナー。展示されていたのはGround Control Systemというドローンのコントローラー。通常ドローンには運転のための専用のコントローラーが用意されているが、軍の現場で求められるニーズはミッション毎に多様であり、そのための専用のコンピュターシステムが必要となる。パナソニックのモバイルPC(タフブック)を利用して、防衛の現場で求められる様々な制御システムをカスタムメイドで設計・提供する。


GATE TECHNOLOGIES LTD

Electronic Safe and Arm Devices (ESAD)と呼ばれるミサイルや爆弾の起爆装置、信管。高い安全性と信頼性を求められ、メカ部分が全く無い電子装置でLEEFI(low energy exploding foil initiator)という技術がベース。なんと父親が起業し、息子たちがエレクトロニクスなどの各自の得意分野を活かし、娘がファイナンスを担当するというファミリービジネスだという。


MANTA AIR

企業名の通り、ロゴも翼のようなヒレをもつマンタ。パラシュートを利用した、UAV(nmanned Aerial Vehicle : 無人機)、ドローンなどの回収システム。パラシュートのランチャーはわずかに297グラムの重量なのでドローンやUAVの負荷を最小化する。戦略的な機能を持つUAVやドローンが敵に回収されないよう、GPSを利用して特定の場所に誘導する機能を持つパラシュートもある。


MAGNA

小型の箱に設置された2つのカメラの映像処理により、人や車、ドローンなどの侵入を検出、トラッキング、記録するセキュリティシステム。空港、国境、発電所などの重要インフラの監視に用いる。1システムで半径1Km程度のエリア監視が可能。


ORBIT

航空機や船舶など、移動するシステムのための通信ソリューション。動きのある車両・機体に搭載した衛星通信用のアンテナを正確に制御するシステム。


RT

上空300mに係留されたバルーンから半径3kmを監視するシステム。地上とつながっているため、ケーブルを通してカメラとのIP通信が可能。撮影された画像はブレが補正されて静止画像のような品質となる。2020東京オリンピックでも会場警備に利用された。ドローンのような飛行物体では航空機関連の規制対象となるため手続きや準備が必要だが、係留バルーンであれば規制対象外となるためイベント用の臨時の警備システムとしても適する。


STEADICOPTER

25 kgから50 kgくらいの重量の小型・軽量ヘリコプターで、バッテリー、ガソリン、ハイブリッドの3プラットフォームが用意されているため、用途により50kmから150km飛行できる。20kgのペイロード搭載が可能なため、監視だけではなくターゲットの捕獲など、色々な応用が可能。パイプラインや発電所などの重要インフラの監視だけではなく、静止できる特徴を活かした農業分野での利用も可能。


TREK ACE

兵士の腕に装着するウエアラブルナビゲーションツール。肌に直接伝わる感覚信号で、右、左、前進、ストップなどのナビゲーションが可能なため、兵士の目や耳は敵の監視などの本来業務に集中できる。GPS信号の届かないトンネル内のナビゲーションでも正確なガイドが可能。筆者も実際に腕に装着して体験をした。



日本は島国であるためイスラエルのような隣国との地続きの国境はないが、一方で監視対象となる海岸線は限りなく長く、有人による監視には限界がある。従って安全保障の面からも長距離飛行可能なUAVの活用は有効であるはずだ。また、自然災害大国でもあるため、一度災害が発生したときの現場の状況をドローンなどを活用していち早く正確に確認する手段を準備しておくことも重要だろう。


どの企業の展示だったかメモが曖昧になってしまって恐縮だが、災害時の瓦礫の中に埋まった人々がもしポケットにスマホを持っていれば、複数のバルーン(ドローンだったかもしれない)に設置した受信機により、被災者のスマホから来る電波信号を検出してその位置を特定し、被災者の探索・救助に役立てるという応用もあった。いかにもイスラエルらしいアイデアの出し方である。一部の日本人には軍事技術に対するアレルギーがあるが、この事例のように安全保障も災害対策も同じナショナル・セキュリティであり、いまや大半の先端技術はデュアル・ユースであることを認識しつつ、その有効活用を考えるべきだろう。


イスラエルブースでの展示に見られるように、監視システムだけでも様々なソリューションがある。これらの先進的ソリューションをうまく活用することは、日本の安全保障並びに災害対策としてもますます重要となってきている。