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BUSINESS

テクノロジーを通じて、イスラエル人とパレスチナ人を繋ぐ「Tech2Peace」プロジェクト

by nocamels |2020年09月09日

プロジェクトに参加するイスラエル人とパレスチナ人
Israelis and Palestinians take part in a Tech2Peace session in Yerucham, August 2020. Photo: Micha Silverman- Tech2Peace

成長するパレスチナのテクノロジー

イスラエルのテクノロジーエコシステムは世界的にも有名ですが、イスラエルのイノベーションシーンを扱うNGO団体「スタートアップ・ネイション・セントラル」の発表によると、アクティブなベンチャー企業の数はなんと6,500企業を越えています。一方、パレスチナのテクノロジーについては、あまり知られていませんが、この数年間で大きく成長しているのです。


一例として、パレスチナのテクノロジーセクターのみを対象とするベンチャーキャピタル「Sadara Ventures」や、ソフトウェア会社「EXALT Technologies」は、パレスチナのテクノロジー業界リードする企業として知られています。

そして過去10年間を見ると、より多くのイスラエル企業がパレスチナの優秀な人材や組織を積極的に採用しており、大きなコラボレーションも誕生しています。


パソコンを扱う男性

テクノロジーを通じてイスラエルとパレスチナを繋げるイニシアチブ「Tech2Peace」

Tech2Peace」は、テクノロジー教育を通してイスラエルとパレスチナを結びつけるイニシアチブとして、今注目を浴びています。ハイテクトレーニングと平和構築の対話を通じて、イスラエルとパレスチナのアラブ人とユダヤ人の若者たちを繋げる、独立したイニシアチブです。参加者は2週間にわたり、イスラエルの様々な地域で行われるセミナーに参加します。

そして2年前、イスラエルとパレスチナの共存を推進するプロジェクトとして、イスラエルの大統領ルーベン・リブリン氏より「希望賞」が授与されました。


「このプログラムでは、イスラエル人とパレスチナ人が一緒にテクノロジーについて学び、対話型のセッションも行っています」と、「Tech2Peach」のPR担当アドナン・ジャベル氏は語ります。「テクノロジーについて話すときには、3Dモデリングやアプリ開発、最新のトレンドについて話しています。対話型セッションの際には、パレスチナとイスラエルの対立について話をし、文化や日常生活、経験について意見を交わしています。」


プロジェクトに参加するイスラエル人とパレスチナ人
Israelis and Palestinians participate in a Tech2Peace session in Yerucham, August 2020. Photo: Micha Silverman- Tech2Peace

「Tech2Peace」の活動

「Tech2Peace」は、テクノロジー専門家と平和維持活動家によって、2017年に設立されました。世界で最も扱いにくい紛争に取り組んだことで、瞬く間に注目される存在となったのです。将来、イスラエルとパレスチナが協力・共存することを実現するため、若者たちに必要な技術を身に着けてもらうことが「Tech2Peace」のミッションであると、ジャベル氏は述べます。

参加者はウェブ構築やPythonプログラミング、グラフィックデザインなどのセミナーに参加し、草の根レベルでの対立を改善する体験型のワークショップに参加します。


「私たちのビジョンは、参加者同士が協力しあいスタートアップを作り、お互いを理解し、共感することです。これが平和の種となる唯一の方法であると信じています。」とジャベル氏は述べています。


毎年Tech2Peaceでは、2週間にわたるデイリートレーニングとワークショップを、2つのセッションに分けて開催しています。今年の夏は、8月9日から20日までイスラエル南部の都市イェルハムで、8月24日から9月4日まではイスラエル北部にあるアラブ都市ジッスル・アズ・ザルカで行いました。


プロジェクトに参加するイスラエル人とパレスチナ人
Israelis and Palestinians participate in a Tech2Peace session in Yerucham, August 2020. Photo: Micha Silverman- Tech2Peace

「地元では話すことを躊躇するようなことも安心して話せるよう、参加者の地元から少し離れた場所を選びました」とジャベル氏は語ります。

また今年はパンデミックの影響により、全てをヘルスガイドラインに乗っ取った形で構成しなくてはなりませんでした。


「国境が閉鎖されていたにも関わらず、パレスチナとイスラエルから30名の参加者が集まりセミナーを開催することが出来ました。この時期は、イスラエルの入国が大変難しかったので、まさに奇跡と言えるでしょう」とジャベル氏は喜びを隠しきれません。



Tech2Peachの取り組みは、イスラエルとパレスチナの参加者が平和を築く大使となるだけでなく、ハイテク業界における技術を一緒に開発することで、持続可能な関係を育むことにも役立ちます。実際、過去にTech2Peachへ参加した人の中には、既に異文化スタートアップに取り組んでいる人も。こうした過去の参加者を交えたオフライン・オフラインイベントも定期的に開催し、関係の維持に取り組んでいます。


またジャベル氏は、テルアビブに位置するFacebookキャンパスにスピーカーを招き、テクノロジーがイスラエル人とパレスチナ人の関係の修復にどう役立つのかを議論するイベントを開催しました。


Facebookテルアビブオフィス
Facebook Tel Aviv

他にも過去のTech2Peace参加者向けのFacebookグループも運営しており、メンバーはプログラムでの経験や今後の取り組みについて積極的に話し合っています。

このことについてジャベル氏は、「参加者はまたこうやって会えたことをとても喜んでいました。お互いの沈黙を破るために、プログラムの時と同じように対話型のセッションも行いました。」と述べています。


さらにTech2Peaceでは、過去数カ月の間に8回ものZoomミートアップを主催。対話型セッションや技術ワークショップ、言語交換イベントなどを行い、各50名以上の参加者が集まったとのことです。


オンライン会議の様子

参加者の多くはボランティアでNGOのためにフルタイムで働いており、中にはTech2Peaceで働くために奨学金をもらっている人もいます。東エルサレムで育ち、アラビア語を話ジャベル氏は、数年前にTech2Peaceの2週間プロジェクトに参加。そしてすぐにNGO団体に仲間入りしました。


彼は、ヨルダン川西岸の大学でITを勉強している時、イスラエルでハイテクの仕事に就きたいと思っていましたが、コネクションやスキル、ユダヤ文化への理解が乏しい状況でした。そんな状況で参加したTech2Peaceのプログラム。プラグラム終了後は、テクノロジーのスキルを身に着けただけでなく、パレスチナの見方をイスラエルの仲間と共有し、理解を深めたと述べています。またエルサレムをはじめ、ヘブライ語を話す他の都市にももっと積極的に行きたいと思うようになり、より自信を持ってイスラエルの様々な都市を訪れ始めました。


パソコンの画面を指さす

Tech2Peaceの共同創設者トメル・コーヘン氏は、次のように述べています。

「実際イスラエル人とパレスチナ人はお互いに会ったり、積極的な交流はほとんどありません。テクノロジー業界と公共部門における将来の双方のリーダーに対して、長期的な友情とパートナーシップを築くプラットフォームを提供できることはとても光栄です。」


世界をリードする様々な企業と提携

Tech2Peachでは、長年にわたりMicrosoftやGoogle for Startups、WeWorkやIWG plcといった企業と提携してきました。Google for Startupsにおいては、ミニハッカソン(数時間から数日間集中的にプログラミングを行い、アイデアや成果を競うイベント)を開催し、参加者はビジネスモデリングやアプリ開発、プレゼンテーションや人前で話すことを学びました。


「Googleは私たちをとても気に入ってくれており、一緒にボランティアをしたいと思っていました。それはGoogleにおいても、従業員の多様性とその重要性を信じているからです。宗教的、非宗教的、イスラエル人、パレスチナ人、アラビア語を話す人、ヘブライ語を話す人・・・私たちはとても多様性に富んだグループであり、Googleはそれをとても気に入ってくれています。」とジャベル氏は述べています。



最近では、MIT国際科学技術イニシアチブから、世界各地におけるモデルづくりの依頼もされているというTech2Peace。プログラムを通じて、参加者がテクノロジーがいかにしてパレスチナ人とイスラエル人の共通の基盤となるかを理解し、双方の対話を促進し、将来より密な関係を築くことを期待しています。


最後にコーヘン氏は、今後について次のように述べています。

「Tech2Peaceの2週間にわたるセミナーは、過去参加者向けのプログラムと共に、成長するコミュニティにとって有意義かつ便利なツールを提供しています。そしてテクノロジー、起業家精神、対話トレーニングのユニークなモデルを通じて、今後数年間でより大きなインパクトを与えることが私たちの使命であると信じています。」


Tech2Peaceウェブサイト

http://tech2peace.com/