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BUSINESS

【連載】中東の小国からスタートアップ国家へ、イスラエル激動の2010年代 Vol.11

by Miho Nibe Messi |2022年06月20日

連載】中東の小国からスタートアップ国家へ、イスラエル激動の2010年代バナー

イスラエル・ドラマが世界の人々の心を捉えた10年

これまで当連載では主に、2010年代にイスラエルで急成長した業界やハイテク部門にスポットを当ててきた。しかし勿論このような充実した期間に成長するのはテクノロジーだけではない。長く対外的には無名に等しかったイスラエルのエンタメ業界もまた、2010年代に大きくその世界的知名度とプレゼンスを増した業界である。イスラエルのテレビプロデューサーとスターたちもまた「リスクテイク」というスタートアップ国家の思考を取り入れ、「時代の先端」をそのアイデンティティの主軸とし、広く国際的に認められる結果となった。今章ではイスラエルのエンタメ業界が世界的な成功を果たした背景を追う。


エンターテイメント業界のイメージ

エンタメ業界で世界的な存在感を示し始めたイスラエル

2019年の終わりにニューヨーク・タイムズ紙は、過去10年間で最高の国際テレビ番組のベスト30を発表。イスラエルの「プリズナーズ・オブ・ウォー(Prisoners of War/ Hatufim)」が第1位に、「ファウダ(Fauda)」が第8位に、そして「Our Boys」と「シュティセル家の人々(Shetisel)」が佳作に選出された。


世界的にイスラエルのドラマが一般的になっただけではない。アメリカでは「プリズナーズ・オブ・ウォー」は「HOMELAND」に、「BeTipul」は「In Treatment」にリメイクされた。最もイスラエルドラマのリメイクが盛んなのはインド市場で、「プリズナーズ・オブ・ウォー」のみならず「Fauda」「Your Honor」「ホステージ(Hostages)」等のローカルヒンディー語バージョンが制作されている。特筆すべきは2010年代初頭の世界的なイスラエル・ドラマブームの先駆けとなった「プリズナーズ・オブ・ウォー」が、世界的には多くの場合リメイク作品しか見る機会がなかったということである。また「BeTipul」が2010年代に世界中で最もリメイクされた番組となったことも挙げられるだろう。


「プリズナーズ・オブ・ウォー」公式トレイラー

より資金潤沢な国際舞台への進出

イスラエルの公共放送は2010年から2017年半ばまでに大改編を経て、旧放映体制から現体制へと移行した。その迷走ともいえる変革期間は制作陣と出演者に多くの苦難をもたらしたため、対応策としてイスラエルの優秀なテレビタレントたちが海外市場、特にアメリカに目を向け始めたのも不思議ではない。いまやイスラエルのテレビ業界は海外市場を第一に考えるようになったかのように見えるが、なによりもオリジナル・シリーズを海外に売り込むよりも、リメイク権を売り込む方が本当の意味で金になると認識したことは事実だろう。


「プリズナーズ・オブ・ウォー」をリメイクした「HOMELAND」公式トレイラー

海外へのフォーマット番組販売も好調

あまり知られていないが、海外へのフォーマット番販でもイスラエルのテレビ番組は同様に利益を上げている。これはテレビ番組そのものではなく、文字通り「番組のフォーマット」を販売することを指し、バラエティ番組のコンセプト、構成、セットのデザイン、ゲームのルールや進行・演出上のノウハウ、音楽や映像クリップ等の使用権をパッケージ化して海外のテレビ局や制作会社等へ販売することを意味する。TBSのスポーツエンターテイメント番組「SASUKE」等がその代表例だ(ちなみにSASUKEはイスラエルでもTBSのフォーマットによる「Ninja」として2018年より放映され、大人気となっている)。


イスラエル版「SASUKE」の「NINJA」

2014年のイスラエルの番組「Boom!」は、出場者がトリビアのような質問に答えてカラーワイヤーを切るが、間違ったワイヤーを切るとスタジオ中に泡が放射される「爆弾」が爆発するというものだった。本家イスラエルでは短命に終わったものの、カンボジアやコロンビア、アルゼンチン、米国、フランス、チリ、ハンガリー等、これまでに21の地域で販売され最も成功したフォーマットのひとつとなっている。また素人出身の次世代スターを発掘する歌唱コンテスト「Rising Star」もまた、イスラエル発のフォーマットである。


新しいワールドスターの誕生

もちろん番組制作だけでなく、イスラエルは過去10年間に数人の国際的スターも輩出している。特に知名度を伸ばしたのはガル・ガドット(Gal Gadot)とリオル・ラズ(Lior Raz)である。


ガルは「Asfur」や「Kathmandu」といったイスラエルの小さなテレビドラマに出演し、「バットマン vs スーパーマン」でワンダーウーマン役に抜擢された後、単独主演作「ワンダーウーマン」が世界的大ヒットを記録した。現在はイスラエルドラマ「Malkot(Queens)」のリメイクを含む、自分の番組をアメリカで制作している。


ラズは2014年にイスラエルの新聞社「ハアレツ」の元ジャーナリストで、脚本パートナーでもあるAvi Issacharoffと共に「Fauda」を制作したことをきっかけにNetflixの本格的なスターの仲間入りをした。同じコンビで大手ストリーミング企業向けに「Hit and Run」という英語版ドラマも制作している。


※ 文章内の番組名は、日本版がある場合は原題と併記している。


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