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BUSINESS

革新に向けたレース。イスラエルのスタートアップ企業「Griiip」に、ポルシェが投資を決定

by ISRAERU 編集部 |2021年08月17日


つい最近まで、サーキットレース用のスポーツカーを製造していたイスラエルの会社「Griiip」。新型コロナの影響で、経営方針を大幅に変更、モータースポーツ観戦のカタチを変えるプログラムの製作に着手する事を発表しました。


10年前、Tamir Palchinski は、イスラエルのネゲヴ・ベン=グリオン大学で機械工学を学びました。その在学中にBGRという、機械工学チーム所属のレーシングチームを立ち上げます。これがイスラエル初のSAE主催フォーミュラー欧州選手権への出場となったのです。


卒業後、友人のGil Zakayと、このGriiip社を立ち上げました。そこで彼らはイスラエル製のフォーミュラーカーを製作し、イタリアでのチャンピオンシリーズに参戦します。こうしてGriiip社は、スポーツカーメーカーとしての道を歩んできました。



しかし、この新型コロナの拡大で、世界中のレースは中止に追い込まれてしまいます。そのような危機的状況の中、Griiipは極めてドラスティックな経営転換を図ったのです。それは、実際の車の製造メーカーから、ソフトウェア開発メーカーへと転身する事でした。


実は、ポルシェとの対話は2年前から続いており、この経営方針の転換を後押しする要素でもありました。Griiip社は、レース観戦者を、よりレースとレーサーに近づけ、没入させることのできるソフトウエアを開発してきたのです。



彼らの開発したプログラムはクラウドベースのプラットフォームで、それはレースマシンからのライブ映像を配信するだけでなく、チームが公式に利用している様々なレース分析を、一般の視聴者もチームと同様に受け取ることの出来るシステムでした。


こういった遠隔中継技術はそれまでにもありましたが、Griiip社は、それをより安価に提供させることに成功したのです。これにより、どんなチームでもレース中のドライバーとのコミュニケーションを容易に行う事ができるようになり、レース進行に伴う戦術の変更を、適切にかつ素早くドライバーに伝える事が出来るようになりました。


しかし、より大きな変革は、本来レーシングチームにしかフィードバックされなかったデータ、例えば、今最速のドライバーは誰か、また、そのタイアの状態はどうなっているのかなどを、直接、お茶の間にいる視聴者に届ける事が出来るようになった事です。こういった最前線のデータを逐次配信していく事で、観戦者をよりレースに没入させる事が出来るようになったのです。


そしてこの技術は、ゲーム業界にも波及する事になります。実際にレースを戦った車両をデータ化する事で、その実際の車両のスペックを使った様々なシミュレーションが、ゲーム上でも行えるようになった訳です。



Griiip社は、既に、ヨーロッパ屈指の市販GTカーレースである、ドイツツーリングカー選手権(DTM)との契約を交わしています。しかし、この技術が使われる最初の国際大会は、ブラジルで行われるポルシェカップになるでしょう。


Griiip社の市場価値は、既に何百万ドルにも達しており、そのビジネス拡大に伴い、まだまだ増加の一途を辿っています。ちなみに、ポルシェのGriiip社への投資は、あくまでも限定的なものであり、他の自動車メーカーの投資を妨げるものではありません。


Griiip社の次の狙いは、この技術を、一般のスポーツカーオーナーにまで普及させる事です。この技術によって、一般のドライバーでも、自分自身の運転技術やパフォーマンスに関するデータを容易に取る事が出来るようになる訳です。そして、こういったデータをメーカーにフィードバックさせる仕組みを作り、そのフィードバックの貢献度に応じて、VIP、などといったクラスを用意、そこに達した者だけが、次の限定モデルを買う事が出来る、などといったプログラムも組めるようになるのです。


ソフトウエア開発への事業転換という決断は、Griiip社にとって、本当に全く新しい課題への挑戦だった訳ですが、この新たに開発された技術により、Griiip社は、レース業界で大輪の花を咲かせようとしているのです。