3月28日16時より、渋谷のPlug and Play Japan(東京都渋谷区道玄坂1-16-3 渋谷センタープレイス3F)を会場として、駐日イスラエル大使館経済部及びPlug and Play Japanの共催で”InsurTech in Israel”というイベントが開催された。この2年間、多くのオンラインイベントが毎日のように開催されているが、リアルで開催されたのは本当に久しぶりである。参加者はワクチン接種証明や陰性証明の提示を求められ、人数も制限されたが、約30名ほどが会場に集まった。
プログラムは、
基調講演1
「海外フィンテック企業と日系保険会社との連携に関わる金融庁の取り組みについて」
松澤 翔太氏 (金融庁 Deputy Director)
ピッチ
Nexar 自動車事故における損害調査
Sproutt オンライン生命保険
Lavaa 予防ケアエンジンプラットフォーム(PCEP)開発
基調講演2
「イスラエルInsurtech企業と目指す損保ジャパンのDX戦略」
伊藤 洋行氏 DX Department Sompo Japan Insurance Inc.
ピッチ
Parked 車の走行マイレージデータ買取アプリ
Idomoo パーソナライズド動画
Vayyar 4Dイメージングレーダー
という内容であり、イスラエル大使館のダニエル・コルバー経済公使による挨拶で開会した。公使は、桜の季節に久しぶりにリアルでのイベントを開催出来ることを喜び、両国の協力関係が更に発展することを期待する、と述べた。
目次
基調講演1「海外フィンテック企業と日系保険会社との連携に関わる金融庁の取り組みについて」
最初の基調講演は、金融庁の取り組みの紹介である。講師の松澤 翔太氏は役所の生え抜きではなくゴールドマン・サックスなどを経験して金融庁に入った方であり、海外企業との連携支援という業務にはピッタリの人材と拝見した。
松澤氏によれば、金融庁では
・問い合わせ窓口を一本化する”フィンテックサポートデスク”
・実証実験ハブ
・海外フィンテックミートアップ
という取り組みをしているようだ。
暗号資産や電子決済など、案件により金融庁担当組織が異なるため、従来は窓口を探すだけでも手間がかかったようだが、現在はサポートデスクに問い合わせれば、金融庁側で適切な部署に連絡をして対応をしてくれるという。ただ、問い合わせの8割が許認可や規制の関連ということで、政府によるサポート一元化の意義は否定しないが、それよりもイノベーションを促進するための規制緩和への努力が必要なのであろうと感じた。
続いて3件のピッチが行われた。それぞれのポイントを簡単に紹介する。
ピッチ
Nexar
プログラムでは“自動車事故における損害調査”と紹介されているが、その核となる技術はコンピュータビジョンだ。今や多くの車が、ドライビングレコーダーや衝突回避装置などのカメラを装備している。これらのカメラが撮影したビデオデータを集めると膨大な「集合知」になる。殆どの場合、動画はスマホに保存されており、そのスマホがWiFiエリアに入るとNexarは自動的にクラウドにアップする。これらの動画からAIが事故情報の解析を行うだけではなく、メタバースを生成することができるそうだ。
ナビとして有名なWazeでは、渋滞や事故情報をユーザがマニュアルで投稿して共有したが、NexarではAIが解析結果情報を自動的に共有し、ドライバーに最適経路を提供することができる。また、これらのデータから生成されるほぼリアルタイムのストリートビューを不動産業界が利用しているそうだ。
Sproutt
こちらはイスラエルからのZoomによるプレゼンであった。オンラインで提供する生命保険で、独自のQLI(Quality Life Index)により、顧客の活動や睡眠、感情のバランスなどを評価し、そのライフスタイルやニーズに合わせてパーソナライズされたサービスを提供する。従来の保険と同じ価格で、20%大きな補償範囲を提供するという。2018年に創業、イスラエルとアメリカでサービスを提供。現在の契約数は数千人だそうだ。
Lavaa
こちらは、ビデオによるプレゼンで、予防ケアエンジンプラットフォーム(PCEP)を開発し、提供する企業である。慢性疾患の予防と予測のためのデジタルヘルスモニタリングを提供し、ヘルスケアや保険会社がより優良な会員を獲得出来るようにする。2021年に創業したばかりで、SEEDの段階にある。
基調講演2「イスラエルInsurtech企業と目指す損保ジャパンのDX戦略」
後半の基調講演は損保ジャパンの伊藤 洋行氏で、保険のアンダーランディング業務(保険の引受可否や条件を査定する業務)におけるテクノロジー活用に関し、Sompo Digital Lab TelAvivとの取り組みの紹介があった。
テクノロジー活用の目的は、新商品・新サービスの開発、新たな引受手法の開発、である。新商品・新サービス開発事例としては、”システムダウン損害保険”の紹介があった。様々なシステムのクラウド移行が進むなかで、万が一クラウドに障害が発生すると逸失利益は莫大になる可能性がある。そのリスクを保険でカバーする商品であり、イスラエルのParametrix社とのコラボだそうだ。
また、新しい引受手法の開発事例として、Planck社との提携事例も紹介された。これは、公開されているホームページやSNS等の情報を収集し、AIが分析することで、従来は契約時に顧客から情報を申告いただいているプロセスの自動化を進めるものだ。例えば、対象建築物に火災報知器がどれだけあるか、などは、従来は顧客に申告して頂いていたが、様々な公開情報を収集し、データとして自動で評価することが可能である。衛星画像や航空写真を解析するGeoX社との事例も紹介された。
このように、SOMPOではイスラエルのデジタルラボを活用して有望な技術を発掘し、保険という伝統的な事業のDX化を進めているそうだ。
ピッチ
続いてのピッチは次の3社により行われた。
Parked
こちらはイスラエルからのZoomによるプレゼンで、この企業は自動車の走行データ(Milage)をユーザが保険会社に共有するためのセキュアなプラットフォームを提供している。どれくらいの距離を走っているというデータを保険会社に「売る」ことができるそうで、保険会社はそれを商品に活用するようだ。どれくらいの金額で走行データを買ってもらえるのかまではわからなかったが、ユーザにとってはお金、保険会社にとっては顧客のリテンションや新規顧客開拓のメリット、というWin-Winの状況を作るそうだ。個人のデータがお金になる、という意味では、応用は自動車保険以外にも拡がるだろう。
Idomoo
日本法人の方によるプレゼンで、パーソナル化した動画コンテンツを自動的に作成するプラットフォームを提供する。保険のようなサービスは契約者により条件が異なっているため、その契約情報データから契約者ひとりひとりに合わせた説明動画を作成することで、エンゲージメントを高めることができるという。例えば、フィットネス市場では、新たに始める顧客も多いが、辞める率も高いという。そんな中で、Orangetheoryというアメリカのフィットネス企業では、個人の改善データをストーリーとして顧客に伝える動画を提供することでユーザのりテンションを高めている。日本では楽天モバイルが重要事項の説明などに利用しているそうだ。
Vayyar
こちらも日本法人の方によるプレゼンで、4Dイメージングレーダーのリーディング・カンパニーである。プレゼンでは商品説明ビデオの再生ができなかったが、車内にセンサーを付けて、置き去りにされた幼児の検知をしたり、介護施設で高齢者の見守りに応用するそうだ。カメラではないので、プライバシーに配慮しながら、入居者の転倒を検知して、スタッフに自動で連絡するようなシステムと連携できる。Vayyarという社名は聖書の中の「神様が見る」というような意味のヘブライ語だそうである。
久しぶりのリアルとオンラインの混在イベントということで、プレゼンの切り替えなどいくつか会場運営側の問題もあってだいぶスケジュールが押したが、それでも、ピッチ終了後に参加者が名刺交換、意見交換ができたというのは、やはりリアルならでは、だろう。
Vayyarの方とNexarの方は、同じ画像処理という観点からコラボの可能性を話し合っていた。欧米同様日本もWithコロナに舵をきり、再びリアルイベントを活発化させ、日本とイスラエルのコラボも更に推進し、日本経済が活性化するように期待したい。
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