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BUSINESS

【CALCALIST イベントレポート】Israeli Tech Roadshow to Japan

by 新井 均 |2023年06月14日

5月30日に開催されたビジネス・カンファレンスの各セッション概要は前回の記事で紹介したが、最後にIsraeli Tech Roadshow to Japan というタイトルで約2時間、計16社のスタートアップが次々に登壇し、4分間/社のプレゼンテーションを行うセッションが行われた。プレゼンターは大半が各社のCEOであり、4日間のイベントで多くのB2Bミーティングがあったとはいえ、メインとなる30日のカンファレンスではわずか4分間のピッチを行うために各社CxOクラスが参加したことは、主催者及び支援する駐日イスラエル大使館の力の入れ方が想像できる。登壇したスタートアップ各社は幅広い分野から参加しており、以下に各社が紹介したそれぞれの事業のポイントを短くまとめる。URLも付記したので、事業内容詳細に興味のあるかたは各社ホームページを参照頂きたい。現在のイスラエルの起業家たちがどのような課題認識でどのような市場を狙っているか、を知る機会ともなった。


関連記事:【CALCALIST イベントレポート】イスラエル企業は日本市場を狙え


登壇16社

Anzu.io: CEO ITAMAR BENEDY

https://anzu.io/

人々が多くの時間を費やすゲームのコンテンツの中で広告を配信するためのプラットフォーム。ゲームの中のビルボードに写真やビデオ広告を出す事ができる。3D空間の中で視認性を評価する技術の特許を持つ。



Solo: CEO Roy Tal

https://www.imsolo.ai/

画像解析AI及び機械学習を通じて、人間の感情や心理状態をリアルタイムで正確に測定し可視化する。活用事例としては、要介護高齢者の表情解析からディジタルセラピーにつなげ、周辺症状の緩和などQOL(Quality of Life)の向上効果を確認している。



DeviceTotal: CEO Dr. Carmit Yadin

https://devicetotal.com/

DeviceGPTというプラットフォームが、IoT、OTデバイスのセキュリティリスク検知と緩和(mitigation)を実現する。Agentが不要なので、ネットワークに何かインストールする必要もない。既に日本のマクニカもDeviceGPTのサービスプロバイダーである。



BAIBYS Fertility: Co-Founder & Co-CEO Gal Golov

https://baibys.com/

AIとロボティクスとを活用して体外受精の成功確率を向上させるプラットフォームを提供する。従来の体外受精では受精を成功させる確率は高くはなく、受精したとしてもDNAに欠陥が生じるリスクもある。BAIBYSのプラットフォームはAIで優良な精子を選択し、選択された精子をロボット技術で正確に採種することで、体外受精の成功確率を改善する。



BMC innovation: DR. LEOR PERL

https://www.rmci.co.il/

イスラエル最大のHMO(健康保険機構)であるCLALIT傘下のBeilinson病院が運営するイノベーションラボの紹介。AIのチームが内部におり、病院内で得られるビッグデータをデータサイエンティストが解析する。その結果を病院で求められるイノベーションへとつなげる役割。



InnerEye: CEO Uri Antman

https://www.innereye.ai/

人間の知能・認知的感情的洞察力とAIとを組み合わせることで、より柔軟で信頼性の高いAIモデル、インサイトを引き出し、組織の意思決定やビジネスに活用する。



Polygreen: Co-Founder Shai Shahal

https://www.polygreen-group.com/

ヨーロッパ、特にドイツ一般家庭ゴミの30%はおむつだそうだ。同社は生分解性を持つ吸水素材を開発。開発した素材は性能、コストの両面で優れており、持続可能な環境・社会の構築に貢献する。



EyeClick: Founder & CEO Ariel Almos

http://joinbeam.com/

体を動かす遊びよりもゲームをする子供が増えているなかで、プロジェクターとセンサーとで床にゲームを投影し、体を動かしてゲームをするようなエンタテインメントとエクササイズを組み合わせたインタラクティブなゲームシステムを開発。子供だけではなく高齢者向けもあり、既に15,000のインストール実績があるとのこと。



CloudWize: CEO&Co-Founder Chen Goldberg

https://www.cloudwize.io/

CloudWizeは、セキュリティ、コンプライアンス、コスト、運用、パフォーマンスに関する800以上のルールにより、クラウド環境を継続的に360度保護し、完全に監視できるノーコードプラットフォーム。自動修復機能により、問題の再発を防止するためのプロセスを自動化することもできる。



QART Medical: Co-Founder and CEO Alon Shalev 

https://www.qart-medical.com/

99.98%の精子は受精に適していない。AIとマシンビジョンを用いたフォトニクス技術によりDNAのフラグメンテーションや精子中片部の構造など、個々の精子細胞に関する客観的な情報を評価することを可能にした。これにより、最適な精子の選択が可能になり、体外受精の成功率を向上させることができる。



Classiq Technologies: Avi Behar

https://www.classiq.io/

量子コンピュータの激しい開発競争が進んでいるが、実は量子ソフトウエア開発も容易ではない。クラシックは量子ソフトウェア開発環境プラットフォームを提供しており、マイクロソフトと共にアカデミックプログラムを立ち上げた。近々に日本オフィスも開設予定。



Raft Technologies: Deputy CEO & COO Tamir Ostfeld

https://raft-tech.com/

ラフトは、高周波無線を用いて米国、ヨーロッパ、アジア太平洋地域の主要都市を結ぶ超高速データリンクを提供している。ラフトのワイヤレスリンクはファイバーネットワークよりも高速で、金融機関取引に利用されている。



onebeat: 飛田基

https://1beat.com/

エリヤフ・ゴールドラット博士により開発されたTOC全体最適理論をもとに、在庫などサプライチェーンの全体像を見える化し、改善すべき問題、取るべきアクションを把握することができる。



BridgeWise: Co-Founder and CBO Dor Eligula

https://bridgewise.com/

AIベースの上場企業分析プラットフォーム。同社のプラットフォームは、世界中の上場企業について、あらゆる言語で、高品質の分析を投資家、金融機関向けに提供。



My Air: Co-founder & Co-CEO Rachel Yarcony Goldstein

https://www.myair.ai/

ストレスマネジメントのためのデータに基づくパーソナライズドソリューションを提供。AIを活用して個々人のストレスパターンを分析・記録し、栄養学と心身分析によってストレス緩和に必要なパーソナライズされた栄養コーチを提供。



XTEND: Co-Founder and CB Aviv Shapira

http://www.xtend.me/

人間が、ドローンの内部に仮想的に座ることを可能にするシステム。災害対策などの様々な戦略的なミッションのために人間が無人機械と対話し、アクションすることができる。



各社ともそれぞれの事業内容でAIをうまく活用したソリューションを提供しているが、中でも人工授精に関する技術を開発している2社の発表は印象的だった。丁度日本では岸田政権が少子化対策を発表したタイミングだが、中味は子育て世代への財政支援である。ジェンダー平等も人口増も共に実現しているイスラエルで、人工授精の成功確率を上げるような技術開発も行われていることは印象的だ。ベンチャーは市場と将来性がなければこのような技術開発は行わない。子育て世帯への財政支援が彼らの目に市場拡大や将来性と映るかどうか問うてみれば良いのではないだろうか。


イノベーション大国イスラエルという看板は、必ずしもChatGPTのような破壊的イノベーションを創出することだけを意味しない。”IT技術を駆使して様々な社会課題を解決する”のが彼らの得意なイノベーションだ。その意味では日本企業の技術開発とさほど大きな違いはないが、最も異なるのは大企業ではなく歴史やしがらみの少ないスタートアップが主体だという点だろう。このようなロードショーを通して日本企業や日本のスタートアップがイスラエルから刺激を受け、更にその活動を活発化させるようになることを期待するとともに、イスラエル企業による日本市場への挑戦が活発化することも期待したい。