今回は、イスラエルとシリコンバレーのスタートアップ企業を比較し、両者の共通点などから我々が学ぶべきことについて、お話をしていきたい。
目次
シリコンバレーの起源
多くの人にとって、スタートアップ企業といえば「シリコンバレー」が想起されるであろう。シリコンバレーのはじまりは、1960年位だと言われている。アメリカの東海岸側に大手企業が多数存在する中、西海岸側で新しいアイディアをビジネスに変えるHP(ヒューレットパッカード社)やインテルなど、いわゆるITスタートアップ企業が多数立ち上がっていった。その後、VC(Venture Capital)が立ち上がり、テクノロジー系スタートアップ企業のアーリーステージに出資。イグジットは、株式上場(IPO)や売却買収などされる事でリターンを得るというスタイルになっていった。この流れから生まれてきたのが、世界で圧倒的な力を持つ企業であるGAFAMだ。GAFAMはGoogle、Facebook(現Meta Platforms)、Apple、Amazon、Microsoftを指し、米国ではビッグ・テック(Big Tech)と呼ばれている。
イスラエルスタートアップの起源
イスラエルは“スタートアップ・ネーション “とも呼ばれる。スタートアップ企業が毎年1,000社以上産声をあげている。シリコンバレーと比較すると、歴史が浅く、1980年位だと言われている。セキュリティ技術や通信事業者向けやエンタープライズ向けのITソリューションでユニークなテクノロジーが盛んであった。ビック・テック(Big Tech)ほどの知名度はないが、テルコ企業などに対してソフトウェアを提供するコンバース・テクノロジー社(現在は上場後米国に本社) やアムドックス社など多数有名企業が立ち上がり、その後、世界市場で大きなシェアを築いていった。
イスラエルのスタートアップ企業の多くは、2000年始めに米国NASDAQで上場するパターンが多かった。私は当時、放送局やテルコ向けに映像配信ソリューションを提供するスコーパスビデオネットワーク社の日本代表として、それを間近で経験をしていた。『ストックオプションがどれだけ現金に化けるか』がオフィス中の日常茶飯事のような話題だった。上場後は、社員や関連企業を集めてパーティーを行なっていた。
最近では、ご存知の通りスタートアップ企業だけでなく、スケールアップ企業やユニコーン企業が多く存在している。ハイテクインダストリーにおいては、GAFAM、インテル、GM(ジェネラルモーター)など多くの大企業の開発センターは、揃ってイスラエルに拠点を設置。現地イスラエル人を雇用し、新商品の開発やイスラエルのスタートアップ企業の買を繰り返している。直近3年間に誕生した世界のユニコーン企業の約10%がイスラエルで設立されている。イスラエルは “スタートアップ国家“である証左とも言えるだろう。
シリコンバレーとイスラエルのスタートアップの共通点
① 熱い情熱
イスラエルとシリコンバレーのスタートアップ企業は、共に技術革新と創造的なアイデアに対する情熱を共通して有している。また、成功させたいという熱い情熱を一つ一つ言葉にしている。国際市場で競争力を持つための非常に重要なポイントである。
② ハイテク産業の存在
シリコンバレーとイスラエルは、共にハイテク産業のハブであり、数多くのハイテク企業が存在している。多くのスタートアップ企業が同一エリアに集まる事で切磋琢磨し合える環境や、知識や技術の共有、人材の流動性が促進される。
③ リスク寛容性
イスラエルとシリコンバレーのスタートアップ企業は、新しいアイデアや技術への投資に対するリスク寛容性が非常に高い。すなわち、万が一失敗しても、チャレンジする事そのものが評価される。これが両地域の企業が独創的なアイデアを追求し、イノベーションを促進する原動力であると考える。
シリコンバレーとイスラエルのスタートアップの相違点
「イスラエルのスタートアップ企業は、軍事技術やセキュリティ技術に強みを持っている」一方、「シリコンバレーのスタートアップ企業は、インターネット、ソフトウェア、データ解析などの分野で成功を収めている」と昔は言われていたが、現在ではそれほど極端に違いはないように感じる。大きな相違点は「資金調達」にあると考える。
シリコンバレーは、世界的に有名なベンチャーキャピタルが集まる場所であり、資金調達が容易であるという利点がある。一方、イスラエルでは、有名なベンチャーキャピタルが集まる場所だけでなく、政府から全面的な支援や地域の投資家たちからの資金調達を受けることも可能という利点が、大きな違いであると考える。
日本のスタートアップ企業が学ぶべきこと
イノベーションへの情熱を持つ
イスラエルとシリコンバレーのように、革新的な技術やアイデアに対する情熱、成し遂げる、諦めない情熱を持ち、積極的に新しい市場や分野へ挑戦することが重要だと考えている。フツパー精神は非常に重要なポイント。
リスクに対する考え方
リスクを取ることを恐れずに、挑戦し続けること。新しいアイデアや技術に投資するリスクを恐れず、失敗を経験として捉えることで、イノベーションを促進できると考える。
本当の意味でのグローバル人材になる
イスラエルとシリコンバレーは、多様な文化的背景を持つ人材が集まる場所である。異なる視点があることからイノベーションが生まれやすい。グローバル人材を定義するならば、世界のビジネス言語である英語を利用し、世界のビジネスで渡り歩けるだけの情熱と諦めないフツパー精神をもち、ゴールは自国だけでなく、世界に目を向けている。これがグローバル人材の最低限要素であると考える。また、日本のスタートアップ企業も、国際的な人材を積極的に採用し、異なる視点やアイデアを取り入れることで、競争力を高められると考える。国内市場だけでなく、「グローバルなビジョン」であるグローバル市場にも目を向けるべきであると考える。
資金調達の選択肢を広げる
イスラエルやシリコンバレーのような成功を追求し、国際的な競争力を高めるには、より多様な資金調達の選択肢を増やすことが重要である。政府の支援や国内投資家だけでなく、外国のベンチャーキャピタルやエンジェル投資家からの資金調達も検討すべきである。そのためには、日本のスタートアップエコシステム全体がサポートし、環境を整えることが不可欠だと考える。
メンターシップとネットワーキング
イスラエルとシリコンバレーでは、経験豊富な起業家や業界の専門家が新興企業をサポートするメンターシップが非常に活発に行われている。20年前から一緒に仕事をしている多くのイスラエルスタートアップ企業のCEOは、現在若いスタートアップ企業経営者のメンターになっている方が非常に多い。日本のスタートアップ企業も、メンターや業界の専門家と積極的につながりを持ち、アドバイスや知識を共有することで成長を加速させることができると考える。課題は、本当の意味でのグローバル経験者をどのように取り込むべきかである。ネットワーキングイベントやカンファレンスに積極的に参加し、国内外のパートナーや投資家との関係を構築することも重要である。
知的財産権の保護
イスラエルとシリコンバレーの企業は、独自の技術やアイデアを保護するために知的財産権の取得に力を入れている。日本のスタートアップ企業も、自社の革新的な技術やアイデアを保護し、競争優位を確保するために、特許や商標などの知的財産権の取得に注力すべきである。
私たち日本人は「カスタマイズ」のプロだと考える。日本人のDNAにはアレンジやカスタマイズアップグレードしていく事ができるスキルがあると感じる。海外スタートアップ企業から学べるソフトスキルを日本人なりにアレンジし、カスタマイズし、本当の意味でのグローバル人材をより多く輩出し、今よりも、より良い日本になれると信じている。年齢は関係なく、今からアクションを起こそう。イスラエルとシリコンバレーのスタートアップ企業の成功事例から学び、日本からスタートアップがどんどん生まれ、もっと大きく成長し、グローバルで活躍し、国際的な競争力があるスタートアップ企業として、世界に新たな価値を提供する日本のスタートアップ企業が楽しみである。