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Art

視覚的障害物|白と黒との出会いを通じ、そこに見い出してもらうべきは、色彩なき世界

by As Promised Magazine |2020年07月29日

テルアビブ、もしくはロサンジェルスの通りを散策していると、ニル・ペルドの制作した白黒の壁画に気づく事があります。Pilpeledとして知られ、イスラエルのテルアビブ地区にあるヘルツリーヤをベースに活動する彼の華麗な経歴の始まりは、もう10年以上前に遡ります。グラフィックデザインを通じ、彼は独学で芸術の世界に足を踏み入れました。そして、まだSNSがイスラエルで普及する前の2005年、彼の制作したポスターがテルアビブの夜の街の顔となりました。



彼の絵が使われたコンサート告知のポスターが、あらゆる通りの壁に貼り出されたのです。こうして当初、友人のバンドのためのポスターから始まった彼の制作活動は、すぐに、市内の主要な高級ナイトクラブのチラシ制作へとつながっていきました。


週に三種類もの新しいポスターを制作しなければならなかったその多忙な環境は、確かに非常に大変なものでした。しかし、その経験が、彼の芸術家としての基礎を作り上げたのです。彼は、この時期のことを「まあ、一種の学校教育期間だったね」と言います。


Pilpeledは、ポスターをテルアビブの壁中に貼って回りました。彼の描く壁画は、顔が何かで覆われた姿か、仮面を着けた姿で描かれる人物が特徴です。白と黒だけで描かれる彼の絵の本質は、やはりその白と黒だけのモノクロの表現部分にあるでしょう。まさに文字通り、です。


しかし、思慮に富んだ彼のユニークな作品は、それ自体混じり気のない、純粋な、ある意味分かりやすい絵であるにも関わらず、そこに何を隠そうとしているのか、そこで何を曝け出そうとしているのか、見た者の脳を直接刺激します。もし、あなたが白と黒だけの色調の世界の中に投げ出されたとしたら、あなたはそこで色を創り出そうとするのでしょうか?それとも、個性を叫ぶのでしょうか?


Pilpeledの作品の中の彼の筆跡は、リノリウムから直接削り出されたかのように凸凹しています。ペルドが繰り返し描く人物は、文字通り「三つ目」であることが多く、コメット(彗星)と名付けられた犬と一緒だったりします。彼の創り出した人物たちに囲まれ、彼はそこに、古代の花瓶や、踊り、瞑想に耽り、手を繋ぎあう人物など、部族的な要素を加えて行きます。彼の作品は、他の作家たちの絵画、漫画、グラフィック作品からの発想を元に制作されることが多いですが、無論、建築や写真、音楽などからも大きく影響を受けています。



彼独自の独特な言語とスタイルが遂に確立された事に、人々も気付き始めました。そんな中ペレドは、彼の絵をあしらったシャツや靴、帽子や靴下などを扱う商業ブランドを立ち上げる決心をします。


世界のどこからでもアクセス可能なそのオンラインショップは、まずイスラエル国内で人気を博すことに成功しました。そして、アート、音楽、ファッションなど、様々な分野を扱うポップアップショップを年に何度も展開するに至るのです。ペレドは、自身のモノクロの表現手法にこだわりませんでした。彼は、一色のみで展開するシルクスクリーンの着色法を、自身の作品を補完するような自然な形で使ったのです。


ブランドの世界的な成功を受け、Pilpeledには世界中の様々な展示会や制作依頼が舞い込むようになります。最初のイスラエル以外での展示会は、ポーランドで行われました。


ポーランドで手掛けた壁画

この頃から、様々な企業とのコラボレーションも始まります。アブソリュートウォッカでのオリジナルウォッカボトルの制作や、コカコーラの広告キャンペーン、プーマとのコラボなどです。そんな中Pilpeledは、自分自身の芸術活動に専念する事を理由に、そのブランド活動をクローズしてしまうのです。


今日彼は、工房での作品作りに専念しており、壁画の制作とともに、様々なコラボ活動を行なっています。他にも、例えばレンタルオフィスを世界中で展開しているWeWorkのテルアビブ事務所など、世界中のハイテクオフィスやレストランとのパートナーシップ活動も行なっており、人々は、オフィスのロビーやレストランのバーなど、様々な場所で彼の作品を楽しむことができます。



しかし、彼の最大の関心事は、工房での自分自身の作品作りです。彼は今、大きなキャンバスを前に自ら絵を描く、という自身の活動の原点に戻っています。


2018年、イスラエル美術館で開催された「I to Eye Passing Encounters(自身から目へと過ぎ行く出会い)展」で、彼は壁画の制作を依頼されました。これは、彼のストリートアートが、世界でも最も権威のある美術館の一つに進出した、まさにエポックメイキングな出来事でした。同年、ベルリンにあるUrban Nation Street Art美術館でもPilpeledの作品展示が行われています。権威ある美術館に認められ、今まで自分自身が憧れてきた様々な作家の作品の横に彼の作品が並ぶ姿は、Pilpeledにとって最高に誇らしい瞬間でした。


彼は今、工房内での制作活動にいそしみながら、新たな素材の可能性を追求しています。「隠された(第三の)眼」という自身のテーマを追い求め、最も最近彼が行なった試みは、木製の仮面の彫刻を制作することでした。この試みと作風の変化は、必ずや彼のキャリアの中に、新たな、そして興味深い一章を追加していくことになるでしょう。


Pilpeled ウェブサイト

https://www.pilpeled.com/home.html



Words by Danielle Gorodenzik
Photos by Pilpeled