イスラエルでもアニメは人気のあるエンターテイメントの一つですが、それでもアニメは今も「子どもが見るもの」「外国から輸入するもの」という感覚があります。そんなイスラエルで、ドロン・ツールさんは2004年に初のイスラエル製大人向けアニメシリーズ番組を制作。イスラエルで放送され、多くの論争を引き起こしました。「AIは創作を自由にさせた」という彼は、現在、日本語のアニメシリーズを制作中だと言います。彼にインタビューをしました。

これまで実現できなかった作品を可能にする道具、AI
AIを駆使して作品を作るドロンさん。AIを使ってアニメを作ることについて質問すると、はっきりと答えてくれました。
「もし明日、誰かが僕に巨大なアニメスタジオと莫大な予算を与えてくれるのなら、僕は喜んで手描きで作ります。でも現実には、莫大な予算を得られるクリエイターや作品は非常に限られています」
そして、現在制作中のアニメでもAIは制作に欠かせない重要な道具だと言います。

「今まで予算や制作体制が問題で実現できなかった作品も、AIがあるからこそ形にすることができるようになりました。それはアニメ制作が簡単になったというわけではありません。むしろ新しい苦労もあります。それでも『作れない』という理由はずっと少なくなりました。実験的な作品でも挑戦できる。誰も企画を通してくれないような物語でも自分の力で形にできる。
それが僕にとって一番大きな変化なんです。AIはこれまで実現できなかった作品を可能にする道具なのです」

彼が描きたかった物語
彼が現在制作している物語『ハシバ』の主人公はヨニ・ネタニヤフ。現在(2026年8月)のイスラエル首相ビニヤミン・ネタニヤフの兄であり、1976年のエンテベ空港での人質救出作戦で30歳の若さで戦死したイスラエルの英雄です。
「もし、ヨニが生きていたら?」そんな「もう一つの歴史」を描くオルタナティブ・ヒストリー。政治色が強い作品なのかと思ったのですが、それは違うとドロンさんは言います。
「僕は政治ではなく、人間や社会の矛盾を描いているのです。『ハシバ』も、ここ数年イスラエルが経験した出来事を自分なりに理解しようとする物語です」

さらに「この物語にはゾンビやロボットも出てくる。実写では表現できないことも、アニメだからこそ可能になります。とてもエンターテイメントの要素が強い作品なのですが、その奥には現実があるのです」と言います。
エンターテイメントの奥に現実を映し出す
エンターテイメントの奥に現実を映し出すという創作方法はドロンさんの哲学でもあり、2004年に放送されイスラエルで大きな話題を呼んだ作品、『MK22』にもそれが現れています。
架空のイスラエル防衛軍、誇張された制度、現実では起きていない”当たり前”、こういった設定を利用して、政治や軍隊、宗教、社会を、強烈なブラックユーモアを使って描きました。
けれど目指していたのは時事問題でなく、何年たっても古びることのない普遍的で本質的な問題を表現することだとドロンさんは言います。

「僕はイスラエルを扱った作品の中で、政治に対する厳しい風刺や今のリーダーシップに対する批判もします。けれどそれは、この国が好きだからこそなのです。
イスラエルという国には、本当に壮大な物語があります。ユダヤ民族の歴史も含め、この土地で起きてきた出来事は、どれも信じられないほどドラマチックです。
僕は物語を作る人間だから、その出来事は私たちに何を意味しているのかを物語を通して考えたいと思っています」
だから『ハシバ』という作品も、現実に対しての問いかけなのだとドロンさんは言います。
「もし違う未来があったら?もし違う選択があったら?そう考えることで、今という現実を見つめ直せるのです」
創作哲学の原点は日本のアニメ
また、このアニメは日本のアニメのスタイルで、さらに言語も日本語で作っていると言います。ドロンさんはその理由を次のように説明してくれました。
「僕は子供の頃からずっと日本のアニメを見て育ってきました。『宇宙戦艦ヤマト』から始まって『エヴァンゲリオン』や『進撃の巨人』…。
僕は日本のアニメの、視聴者の知性を信頼する姿勢が本当に大好きなんです。今の映像作品の多くは視聴者に対してなんでも説明しすぎていると思います。説明を減らすほど、視聴者は自分自身で想像を始め、作品は豊かになる。視聴者の想像力を信頼する日本のアニメのスタイルが僕は好きです」
そして日本のアニメというフォーマットは、「世界の共通言語」だと言います。
「日本のアニメには理想的なストーリーテリングがあります。壮大な物語を語るための表現として、これほど優れたものはありません。普通の実写では語れないような物語を語ることができる。だから僕は日本のアニメという表現を選んでいるのです」

ドロンさんにとって日本のアニメは、単なる憧れの対象ではありません。自分が世界に向けて物語を語るための「表現言語」だったのです。
AIは創作を自由にする
そして、「この作品は日本のアニメというフォーマットで作られているのだから、言語は日本語でなければ違和感がある」と言うドロンさん。ドロンさんは日本語を知らないので、脚本を入力するとそれを解体して日本語に翻訳し、さらに発音を表示するツールを自分で作ったそうです。
「AIは時々全然違うことを話し始めるので、最終的な確認はもちろん日本語を母語とする人にやってもらわなければなりません。最後のチェックは必ず人間がやるべきです」とドロンさん。
「英語で作品を作るならとても簡単にできます。でもこの作品は日本語だからこそ意味があるのです。だから時間がかかっても日本語で作り続けていきます。日本のアニメに育ててもらった人間ですから、中途半端なことはしたくありません」
イスラエルの歴史を題材にした、オルタナティブ・ヒストリー。それを日本のアニメのスタイルで、日本語で描く作品。
「普通なら、誰も資金を出さないでしょう。でもAIがあるから作れる。だから僕は、AIを『近道』ではなく『挑戦するための道具』だと思っています。クリエイターの力を広げるための道具なんです」
AIは決して人の仕事を奪うものではないとドロンさんは言います。
「AIはこれまでに存在しなかった作品を生み出してくれます。けれど、AIだけでは作品は生まれない。何を作りどう語るのか、どんなリズムで見せるのか。それは結局人間にしかできないことなのです」

世界へ届ける物語
幼い頃「宇宙戦艦ヤマト」を父親と一緒に見て育ったというドロンさん。「日本語はわからないから自分なりに物語を想像しながら見ていた」と言います。
ドロンさんはそれ以来、ずっと日本のアニメと一緒に育ってきました。そしてクリエイターになった理由の一部は、日本の作品にあると言います。
「子どもの頃の僕にとって、アニメは『大きなテーマ』を語ってくれる唯一の存在だったし、クリエイターになった今でも、その印象は変わっていません。そして、アニメだけでなく日本のゲームにも育てられてきた。僕は、日本のクリエイターたちが作る世界観にずっと魅了され続けているのです」

日本のアニメに育てられたイスラエル人クリエイターのドロンさん。彼は今、自分がずっと語りたかった物語を、AIという新しい道具を手に、日本のアニメを通して世界へ届けようとしています。
ドロンさんが現在制作中のアニメ『ハシバ』。トレイラーはこちらからご覧いただけます。
https://youtu.be/QVgrTIbRCUg?si=ybQD_qReMTW2r9FO
また、2004年に放送されイスラエルで大きな話題を呼んだ作品『MK22』は、シリーズの一部をこちらから視聴できます。
https://youtu.be/b1K55uhD_SQ?si=ieByT5pEccTYFsay


