世界最大級のデザインイベントとして知られるミラノデザインウィーク。2026年も数多くの革新的な作品が発表されましたが、その中で注目を集めた若手デザイナーの一人が、イスラエル・テルアビブを拠点に活動するインダストリアルデザイナーHagar Guri(ハガル・グリ)です。彼女が作品を通して問いかけたものとは?

シンプルな問いかけから生まれたアート
彼女がミラノで発表した作品「BOFFI」は、一見するとシンプルな壁掛け式の柑橘類ジューサー。しかしその背後には、「日常の道具と空間の関係性を見直す」という深い問いが込められています。

BOFFIの出発点となったのは、極めてシンプルな疑問でした。
「なぜキッチン用品は使わない時に収納されなければならないのか?」
私たちの生活空間には数多くの道具があります。しかし、その多くは機能を果たした後、引き出しや戸棚の中へとしまわれます。特にキッチン用品は、“使う時だけ取り出すもの”として扱われることが一般的です。
ハガル・グリは、この当たり前の習慣に疑問を抱きました。
もし調理器具が空間の中に常に存在していてもよいとしたらどうでしょうか。もし機能性だけでなく、空間を構成するオブジェクトとしてデザインされたらどうでしょうか。
BOFFIは、そうした発想から生まれました。
壁面に取り付けられたジューサーは、キッチンツールでありながら彫刻作品のような存在感を放っています。使わない時でも空間の中で美しく機能し続けることで、「収納される道具」から「見せる道具」へと役割を変えているのです。


製品と空間の境界を曖昧にするデザイン
ハガル・グリの作品には一貫したテーマがあります。それは、製品と空間、人の身体や行動との関係性を探ることです。
彼女はテルアビブを拠点に活動するインダストリアルデザイナーであり、日常的なオブジェクトに新たな意味を与えることに関心を持っています。家具でも建築でもない、その中間に存在するようなプロダクトを通じて、人々の行動や空間の使い方そのものを問い直そうとしているのです。

BOFFIもまた、単なるキッチン用品ではありません。
それは製品であり、壁面装飾であり、家具であり、ある意味では建築の一部でもあります。見る人によってその解釈は変わりますが、重要なのはカテゴリーそのものではなく、「私たちは道具をどのように空間の中に位置づけているのか」という問いを生み出している点にあります。
日常を再発見するイスラエルデザイン
イスラエルのデザインシーンは、近年世界的に注目を集めています。スタートアップ大国として知られるイスラエルですが、デザインの分野でも、既存の常識を問い直し、新しい視点を提示する作品が数多く生まれています。
その背景には、多様な文化や価値観が共存する社会環境があると言われています。限られた資源や空間を創意工夫によって活用してきた歴史も、イスラエルのデザインに独特の発想をもたらしています。ハガル・グリの作品も、そうした文脈の中で理解することができます。
彼女が注目しているのは最先端のテクノロジーではなく、私たちが毎日何気なく使っている道具です。しかし、その当たり前を見つめ直すことで、新しい価値観や生活の可能性を提示しています。

ミラノで評価された「問いを生むデザイン」
近年のデザインは、単に美しい形や優れた機能を競うものではなくなっています。社会課題やサステナビリティ、生活様式の変化などに対して、デザインがどのような視点を提供できるのかが重視されるようになっています。
その意味でBOFFIが評価された理由は、その造形美だけではありません。この作品は、「日用品とは何か」「収納とは何か」「空間とは何か」という根本的な問いを私たちに投げかけています。
道具は本当に隠されるべき存在なのか。機能性と美しさは分けて考えるべきなのか。そして、私たちが暮らす空間は誰のために、どのようにデザインされるべきなのか。BOFFIは、その答えを提示するのではなく、考えるきっかけを与えてくれる作品なのです。

未来の生活空間への提案
ミラノデザインウィーク2026で発表されたBOFFIは、壁掛け式ジューサーという小さなプロダクトでありながら、私たちの暮らし方そのものに問いを投げかけています。
日常の中にある何気ない道具を見直すこと。
機能と美しさを対立させるのではなく共存させること。
そして、空間そのものをより豊かな体験へと変えていくこと。
ハガル・グリが示したのは、新しい製品の形ではなく、新しい視点なのかもしれません。
世界中のクリエイターが集うミラノの舞台で、イスラエル発の若いデザイナーが投げかけたこの問いは、これからのプロダクトデザインやライフスタイルを考える上で、大きなヒントを与えてくれそうです。
ハガル・グリ 公式インスタグラム
https://www.instagram.com/hagar_guri_design
*本記事はイスラエルメディアPortfolioの報道をもとに構成しています。


