ボクシング、レスリング、空手道、カンフー、ムエタイなどなど・・・世界には多くの格闘技が存在します。打撃系、組技系、総合系と格闘技の種類によって認められている技や攻撃の方法が異なりますが、「防御」に重点を置いたイスラエル生まれの「クラヴマガ」という格闘技をご存知でしょうか。性別や年齢、体格を問わずに短期間で高い護身スキルを取得できることから、クラヴマガは世界の軍や警察でも採用されており、近年日本でも護身術やエクササイズとしてクラヴマガの人気が高まっています。
今回はイスラエル発祥クラヴマガの歴史からトレーニング方法、日本でクラヴマガが学べるジムまで、クラヴマガに関する情報をたっぷりお届けします。
クラヴマガとは?
クラヴマガとは、20世紀前半、戦火が絶えなかったイスラエルで考案された近接格闘術(軍隊や準軍事組織、情報機関、警察などで戦闘技術として訓練されている格闘術)です。ボクシング、レスリング、柔道、合気道、空手などを組み合わせた防御テクニックで、一切の無駄を省いたシンプルかつ合理的な格闘術であることから、モサドをはじめとしたイスラエル治安機関にクラヴマガが採用されています。またイスラエルだけでなく、CIAやFBIといった世界の軍や警察がクラヴマガを導入しているのです。
また軍や警察といった組織以外にも、一般市民の間では護身術やエクササイズの一環として、防御に重点を置いたクラヴマガのレッスンを見つけることができます。
そしてクラヴマガが他の格闘技と大きく異なる点は、完全な護身テクニックであり「ルールがない」こと。それもそのはず、クラヴマガは実戦(ストリートファイト)を想定しているため、ルールもなければ反則もなく、勝ち負けもありません。パンチやキックといった打撃はもちろん、傘やイス、ペットボトルやナイフなど、クラヴマガでは身の回りにあるものは何でも利用するのです。
クラヴマガは映画にも登場しており、『ボーン』シリーズではマット・デイモン、『イナフ』ではジェニファー・ロペス、『トゥームレイダー2』ではアンジェリーナ・ジョリーが見事なクラヴマガを披露しています。
クラヴマガの歴史
そんな超実践主義のクラヴマガを考案したのは、ボクシングとレスリングの訓練を受けたイスラエルの武闘家イミ・レヒテンフェルド氏でした。
1910年にハンガリー・ブダペストでユダヤ人の家庭に生まれ、スロバキア・ブラチスラバで育ったイミ・レヒテンフェルド氏。1928年にスロバキア・ユース・レスリング選手権優勝、1929年には成人選手権の軽量部門と中級部門で優勝し、その後10年間は選手とトレーナーの両方でレスリングを行っていました。
1940年代後半、委任統治領パレスチナへ移民したイミは、IDF(イスラエル国防軍)向けに戦闘訓練レッスンを行い始めますが、ボクシングとレスリングは優れたスポーツであるものの、実際の戦闘とは大きく異なることを発見します。そこで彼は、戦闘の攻撃技術を見直し、ボクシング、レスリング、柔道、合気道、空手などを組み合わせた格闘スキルとテクニックを開発。これが後にクラヴマガとなるのです。
1948年にイスラエルが建国されると、イミはIDFコンバット・フィットネス・スクール・クラヴマガ・チーフインストラクターとなり、その後約20年間かけてイスラエル国防軍にて自己防衛術と戦闘術を開発したのです。
そして1971年よりクラヴマガインストラクターとして活動を始めた、イミの最初の黒帯生徒であるエリ・アビクザールと共に、より伝統的な武道をクラヴマガに統合しました。そしてエリは最終的に、1989年にイスラエルのクラヴマガ協会(IKMA)を設立することになります。
クラヴマガの基本的なテクニックとバックボーン
様々な武道を組み合わせて開発されたクラヴマガにおける基本テクニックとそのバックボーンとして、下記が挙げられます。
・打撃:空手、ボクシング
・倒し技、投げ技:柔道、合気道、レスリング
・寝技:柔道、レスリング
・締め技回避:柔道、合気道、レスリング
・武器を持った相手に素手で防御:合気道
クラヴマガのトレーニング方法
クラヴマガのトレーニング方法は、主に精神面と格闘技術面に分かれます。精神面のトレーニングでは、可能な限り暴力を避けるために、口頭での防御や状況認識、心理学習、攻撃が発生する前の脅威対応の必要性について学びます。そして格闘技術面では、実際の格闘方法を学びます。
下記はトレーニングの一例です。
・同時攻撃と防御
・肉体的攻撃性の発達
・先制攻撃または早急に反撃
・攻撃可能なアイテムの確認、使用
・目、首、喉、顔、みぞおち、鼠径部、肋骨、膝、足、指、肝臓など、急所を狙った攻撃
・シンプルかつ繰り返し可能な打撃
・脅威に対処しながら周囲認識
・迅速に反応するための筋肉および記憶の訓練
・ストレス下における本能的反応の認識
・脅威の排除
・怪我防止
・防御から攻撃への素早い展開
・反射神経の活用
有名なクラヴマガ選手・指導者
それではここからは、イスラエルで有名なクラヴマガ選手・指導者を紹介したいと思います。
モニ・アイザック(Moni Aizik)
イスラエルを代表するクラヴマガ選手としてまず最初に挙げられるのは、モニ・アイザックです。イスラエル生まれの武道家であるモニは、柔術と柔道をバックボーンに持ち、コマンド・クラヴマガ(Commando Krav Maga : CKM)の創設者でもあります。
8歳の時、柔道家ゲルハルド・オパ・シュッテの下で柔術と柔道の訓練をはじめ、その後柔道で全国タイトルを7回獲得しました。第四次中東戦争直後、彼の武道に関する知識が買われ、軍の白兵戦システムの改善を任された実力の持ち主です。兵役後、彼はイスラエルのマッカビ・テルアビブクラブ・クラヴマガで指導を行います。1992年のオリンピックにて柔道で銀メダルを獲得したヤエール・アラッド(Yael Arad)も、モニの生徒の一人です。
1980年代に北米に移ったモニは、カナダ・トロントのユダヤ人コミュニティセンターでコマンドークラヴマガの指導を開始。その後サムライクラブ武道センターを開設し、コマンドークラヴマガ、柔道、総合格闘技、柔術を教え始めます。彼の生徒の中には、元UFCウェルター級チャンピオンのカルロ・スニュートンやジョエル・ガーソンなどがいます。2006年以降、モニはこのコマンド―クラヴマガの世界的に普及に努めています。
ハイム・ギドン(Haim Gidon)
1977年に創設されたIKMA(Israeli Krav Maga Association)の共同設立者でもあるハイム・ギドンは、クラヴマガの指導者として知られています。1994年にイミ・リヒテンフェルドがクラヴマガを引退すると、ハイムはイスラエルのKMA(Krav Maga Association)のグランドマスター兼会長となりました。またクラヴマガの創始者であるイミ・リヒテンフェルドから白帯(8段)と赤帯を与えられ、今日ではクラヴマガ最高段である10段の赤帯を保持しています。
コビ・リヒテンシュタイン(Kobi Lichtenstein)
1964年イスラエル生まれのコビ・リヒテンシュタインは、クラヴマガを南アメリカに紹介したイスラエルおよびブラジルにおけるクラヴマガの巨匠です。3歳の頃からクラヴマガを学び始めたコビは、15歳の時には指導者としても活躍し始め、1983年にはイミから黒帯を与えられました。南アメリカでは、性的暴力の被害者や非行少年、自閉症などを対象としたクラヴマガの指導を行い、クラヴマガを通した生活改善をサポートしています。現在コビは、クラヴマガの南アメリカ連盟(FSAKM)の会長でもあります。
日本でクラヴマガが学べるジム
さて、これまでクラヴマガについてご紹介してきましたが、早速クラヴマガに挑戦したくなった方もいるのではないでしょうか。そんな方のために、クラヴマガが学べる日本のジムを紹介します。
クラヴマガジャパン/東京
市ヶ谷、青山、大阪、名古屋にクラヴマガのスタジオを展開。子供から大人まで、レベルに合わせたレッスンが受講可能。
MagaGYM(マガジム)/東京
クラヴマガの黒帯保有インストラクターが国内最多の4名在籍する、クラヴマガ専門のトレーニングジム。六本木と赤坂にジムを展開。
イミクラヴマガ・ハガナアツミット/首都圏
ボアズ・ハガイ氏によるクラヴマガ教室。首都圏を中心に多くのクラヴマガレッスンを開催。
https://imikravmaga.theblog.me/
ジェット・クラヴマガ/北海道、千葉、埼玉、長崎
北海道、千葉、埼玉、神戸、長崎にジムを展開。基本から応用、実戦さながらを学ぶレギュラープログラムの他、オリジナルプログラムやワークショップも開催。
クラヴマガ グローバル・ジャパン/東京、神奈川
イスラエルで護身術のインストラクター資格を取得したインストラクターが教えるクラヴマガ教室。レッスンは英語で行われ、日本語通訳付き。
https://www.kravmaga-japan.com/
クラヴマガ・フォアフロント/大阪
大阪にジムを構えるクラヴマガ教室。女性やシニア向けの護身術教室や、帯保有者向けの本格的な教室も開催。
イスラエルで誕生し、世界的な護身術へと成長したクラヴマガ。年齢性別問わずに、挑戦できるのも魅力の一つです。
貴方もトライしてみますか?それでは、次回をお楽しみに!レヒトラオット!さようなら!